知財ミックスで自社製品を守ろう【基礎知識】

知的戦略を立てる際、複数の知財権を組み合わせる、いわゆる知財ミックスを行うことが重要です。

知的財産権には特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権など様々な権利が含まれます。

これらの権利のうち一つでも権利化をすれば、第三者による模倣を排し、自社製品を守ることができるのでしょうか

その答えは、ほとんどの場合NOです。

本日は、知財ミックスに関する基礎知識、企業における具体的な知財ミックスの事例、国における知財ミックスに対する取り組みなどをまとめました。

知財ミックスで自社製品を守る

知財ミックスとは、複数の知財権を組み合わせて自社製品を多面的に保護することです。

特許は発明、意匠はデザイン、商標は業務上の信用というように、それぞれの知財権で保護する対象は異なります。

複数の知財権を組み合わせて、各方面から製品を保護することで、互いを補完し合い、その効果の増強を期待できます。

また権利による自社製品の保護は、訴訟から企業を守る際にも重要です。

訴訟が進む中で、知財権が事業撤退や企業存続の危機から自社を救うこともあります。

訴訟に備える観点からも、知財ミックスによる自社製品の保護が必要でしょう。

なお知的財産権の侵害訴訟の事件は、日本では毎年500件、そのうち特許権に関する事件は100~200件ほど発生しています。

海外では毎年アメリカで3,000件ほど、中国で30,000件ほどの特許権に関する侵害訴訟が起きています。

知的財産権によりブランディングを行う

自社ブランドの価値を高めるためにも、知財ミックスは重要です。

知財ミックスによるブランディングが、企業価値と顧客体験の両方を保護しています。

すべての製品は出願・登録が不要である著作権により保護されていますが、ブランディングの観点からすると不十分でしょう。

意匠や商標を組み合わせ自社の独自性を保護・主張することで、顧客に与える体験の価値を高められます。

また、製品の見た目や名前から唯一無二のブランドであると認識してもらうことは、事業を拡大する上でも大きな役割を担います。

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デザイナーが自社製品を特許と意匠で守る

デザインと聞くと、製品の見た目、すなわち意匠をイメージされるでしょう。

近年ではデザインに基づく特許出願が行われており、デザイナーが発明者に含まれる特許を「デザイナー特許」と呼ぶことがあります。

たとえば製品の形状には、外観の美しさだけでなく、機能性が付与されていることが少なくありません。

主に外観の美しさを意匠、機能性を特許として出願を行えば、知財ミックスによる製品保護ができます。

企業における知財ミックス【事例】

ここからは、私たちの生活における身近な

  • アップル
  • 花王

の製品を例に、具体的な知財ミックスの事例をご紹介します。

各製品を自社製品に置き換えた場合、どのような権利を取得できるかをイメージしてみてはいかがでしょうか。

身近な製品に関わる知的財産権1〜アップル〜

アップルはiPhone、iPad、Mac bookなどで有名な言わずと知れたテクノロジー企業です。

アップルの各製品も、知財ミックスにより多面的に保護されています。

たとえば

  • デバイス
  • ロゴマーク
  • パッケージ
  • 周辺機器・アクセサリー
  • インターフェイス
  • 販売店舗

などに関する複数の知財権が権利化されています。

iPhoneにまつわる知的財産権

まずはiPhoneの本体に着目し、どのように知財ミックスが行われているのかを見てみます。

スマートフォン本体に関する知財権は

などがあります。

もし特許権のみを取得していた場合、第三者が見た目の同じスマートフォンを販売することでiPhoneの売上・市場シェアは低下していたかもしれません。

知財ミックスにより機能、デザイン、ブランドのすべてが保護され、iPhoneが第三者と異なる価値を生み出しています。

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製品に関わる様々な知的財産権2〜花王〜

花王はスキンケア・ヘアケア、ヒューマンヘルスケア、ファブリック&ホームケアなどに関する生活者に向けたコンシューマープロダクツ事業を展開しています。

主要ブランドは

  • スキンケア・ヘアケア:Curel、KANEBO、RMK
  • ヒューマンヘルスケア:ヘルシア、めぐりズム、バブ
  • ファブリック&ホームケア:アタック、キュキュット、ハミング

などです。

これらのブランドを確立するために、各製品が多くの知財権で保護されています。

ヘルシア緑茶にまつわる知的財産権

コンビニ、スーパーなどで見かけることの多い、ヘルシア緑茶も多くの知財権が関わっています。

特許だけでも10件以上が出願されています。

権利化されている特許は

などです。

これらの技術が商標(ヘルシア:登録第6267644、ヘルシアW:登録第6400001)といった権利とミックスされることで、消費者が認知しているブランド、配合成分、味などが第三者から模倣されないように守られています。

日本国内における知財ミックス【事例】

企業はもちろん、国も知財ミックスに関する取り組みを行っています。

国として知財ミックスを促進することは、日本企業の技術を国内だけでなく海外に展開する上で重要です。

海外にて模倣品を製造販売されないためにも、知財ミックスを行う必要があるでしょう。

ここでは

  • 「デザイン経営」宣言
  • 知財功労賞

についてご紹介します。

「デザイン経営」宣言

「デザイン経営」宣言は、経済産業省・特許庁の産業競争力とデザインを考える研究会により提言されました。

デザイン経営とは、ブランドとイノベーションを通じて、企業の産業競争力を向上させるための取り組みです。

本宣言が出されたきっかけは、日本企業の意匠登録数の低迷です。

商品化の過程において、特許だけでなく意匠の出願を促すことで、技術とデザインの両方からの製品保護と企業のブランド力向上に貢献しています。

また、「デザイン経営」を行うために

  • 経営チームにデザイン責任者がいること
  • 事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること

が必要とされています。

経営戦略としてデザインの質を追求することがブランドの価値を向上させ、最終的に売上・競争力の増加につながるのです。

知財功労賞

知財功労賞は、日本の知的財産権制度の発展・普及・啓発に貢献した個人および知的財産権制度を積極的に活用した企業などに与えられます。

令和3年度は、個人7名と企業等18社に与えられました。

本賞により第三者に対し知財権に関する取り組みが公表されることで、受賞者の事業促進に貢献しています。

また、特許庁ホームページに記載されている各表彰における受賞のポイントは、各企業が自社の知財権の活用方法を検討する際の参考になります。

保有しているだけで、経営戦略上活用しきれていない知財権も少なくないのです。

まとめ

知財権は、第三者による自社の発明実施の排他をする、また、自社製品を保護するために必須の権利です。

知財戦略と経営戦略は密接しており、知財権が企業の成長・発展を支えています。

本記事が、企業の知財部で働かれている方にとって、自社製品がどのように保護されているのかを見直すきっかけとなればうれしいです。

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