本当に必要?知財戦略にDXが求められるワケとは

近年、DXというキーワードを目にする機会が増えてきました。

「知財にDXって関係あるの?」
「そもそもDXってなに?」

DX(デジタルトランスフォーメーション)について、このような疑問を抱いていませんか?

DXはこれからの経営戦略になくてはならないものです。

そして、それは知財戦略にも同じことがいえます。

この記事を読んで、DXの概要を理解し、知財戦略への具体的な取り組みに役立てていただけると嬉しいです。

DX推進の2つの鍵「AI」と「ビッグデータ」

DX推進に欠かせないのが「AI」「ビッグデータ」です。

「ビッグデータ」とは、その名のとおり膨大なデータ群のことをいいます。

情報社会の加速とともに、さまざまなデータを取得することが可能になりました。

しかし、この膨大なデータを管理・活用するのは非常に困難です。

そこで登場するのが「AI(人工知能)」。AI技術の発展により、これまでは不可能だと思われていた膨大なデータの管理、活用が可能になりました。

「AI」と「ビッグデータ」の活用が重要

AIとビッグデータが重要といわれても、イメージが湧きづらいかもしれません。

企業知財部や特許事務所でDXが活躍するのは、たとえば「特許調査」のシーンです。

AIがユーザーの検索意図により近いものを抽出できるようになれば、知財と関係ない設計現場といった部署でも、時間をかけずに特許調査ができるようになるはずです。

この「時間をかけない」というのが、納期に追われる設計現場には重要です。全体の業務効率アップ、という面でもDXの効果は高いです。

実際設計部に所属している筆者は、かなりの時間を使って先行技術調査と特許侵害調査をやっています。

特許のデータは膨大なので、検索語句や分類、分野を適切に選ばなければいけません。

しかし検索キーワードや分類選びは慣れていないと難しく、筆者は知財部の方に泣きついて検索式を作っていただきました。それでも100件以上がヒットする、なんてこともあります。

それを1件1件調べるのですが、結果、関係の無いものがほとんどのケースが多いです。

このような手間も時間もかかる作業が効率化されれば、浮いた時間で新しい開発に取り組むことも可能に!最終的には売上アップにもつながることでしょう。

そもそもDXってなに?

まずはDXの基本について、押さえておきましょう。

DXとは

DXを正式に表記すると、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーション)」といいます。

DXをひとことでいうと、「デジタル技術を活用して、生活・ビジネスをより良いものに変えていく」ということ。

ここでちょっと気になるのが、なぜ「DT」ではなく「DX」と表記されるのか?これは英語圏において、「Trans」が「X」と略されるためです。

今ビジネスシーンに求められるDXの定義は、下記によるものが有力です。

Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション、DX)は、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出・柔軟に改変すること。企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽けん引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。

引用元:「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(1ページ目より抜粋)

もともとDXという概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱されました。教授の定義によると、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」とされています。

ちなみに「ICT」とは「情報通信技術」のことをいいます。身近な例をあげると、SNS(Twitterなど)やメール、チャットです。

確かに、ICTの浸透で私たちの生活は大きく変化してきましたね。

勘違いされやすいDX

定義が曖昧だからなのか、じつは「デジタル化」と勘違いをしている方が多くいます。

DX化とは、デジタル化したうえでその特性を生かし、より良いビジネススタイルに変えていくことです。

【デジタル化の例】

Aさん「紙媒体の契約書を電子化しました!」

Bさん「商品情報と写真をインターネットに登録し、ネット通販ができるようになりました!」

【DX化の例】

Aさん「電子契約書に変えたことで、お客さんがネット上から必要事項を入力できるようになり、契約書がリアルタイムで作成できるようになりました!」

Bさん「ネット通販に商品レビュー欄を追加し、さらに即日配送サービスで訴求効果を上げました!」

大事なのは、デジタル化したことで、より良いビジネス・サービスを提供できるようになるかです。

つまり、「デジタル化=スタート」であり、「DX化=ゴール」のような関係です。

企業の事例「旭化成の知財DX」を紹介

DX銘柄2021にも選ばれた「旭化成」のDX推進活動を2つ紹介します。

  • IPランドスケープ
  • マテリアルズ・インフォマティクス

ちなみにDX銘柄とは、経済産業省がDX推進に対して、積極的に活動した企業28社をいいます。

IPランドスケープ(以下、IPL)

旭化成の代表的な知財DXの取り組みとして知られるのが、IPLです。

IPLをひとことでいうと、「知的財産情報を駆使したビジネス分析」になります。

知的財産情報はビッグデータといわれるくらい膨大です。そのビッグデータを分析し事業戦略の構築を進めてきたのが旭化成。

同社内では、膨大な知的財産情報から競合他社の戦略を読み解くIPLを、「知財のDX」と呼んでいるそうです。

このDXによるIPL活動が評価され、2021年4月には経済産業省特許庁が主催する「知財功労賞」の経済産業大臣表彰を受賞しています。

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マテリアルズ・インフォマティクス(以下、MI)

旭化成がAIを用いて、素材の研究・開発の効率化を進めてきたのがMIです。

これまで新規材料の配合は、研究員の経験と勘を頼りに材料候補を絞り込み、トライ&エラーで検証を進めてきました。材料候補の絞り込みに必要な情報は、「膨大な数」の配合や混合条件です。

MIは、その材料候補の絞り込みにAIの機械学習機能を採用しました。

これにより、今までよりも短い期間で材料候補を絞り込むことに成功。通常であれば、開発に数年かかる規模の案件を半年程度に短縮することができました。

旭化成では今後もMIを推進していく考えで、MI人材の育成に取り組んでいます。

近い将来、AIの機械学習によって、人間では考えもつかないような材料の組み合わせが誕生するかもしれませんね。

コロナ禍で加速したDXの波

コロナ禍でリモートワーク化が急速に進みました。

じつは、先程紹介した旭化成のMIはリモートワークの環境でも業務が遂行できるようになっています。

リモートワークだから仕事が進まない、というのは勿体ないですよね。

リモートワーク中の業務を円滑に進めるためには、やはりDX化は必須。WEB会議やクラウドでのデータのやり取りもDXのひとつです。

DXの取り組みが、企業の未来を左右するといっても過言ではありません。

「2025年の崖」ってなに?

「2025年の崖」というワードを聞いたことがあるでしょうか?

これは、経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」に記載されたもので内容は以下のとおりです。

・既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化
・経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている
→ この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)。

引用元:経済産業省「DXレポート」より抜粋

簡単にいうと、「既存のシステム」から「DXに配慮した新システム」に早く移行しないと、2025年以降に最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある、ということ。

システムの移行は簡単なことではありませんが、軽視して先送りにはできない問題です。

まとめ

知財戦略にDXが求められるワケについて解説しました。

DXを活用することで、開発期間の大幅削減、リモートによる業務の効率化が可能になります。

設計部である筆者の個人的な意見になりますが、特許調査に時間が取られてしまうと「なるべく既存の構造・仕組みでできないか」と、つい考えてしまいます。

このように考えてしまうのは筆者だけだと思いたいですが、これは新規性を生み出す機会損失につながってしまいます。

DXで知財戦略が活発になることを期待しています。

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