AIの生成物は著作権侵害!?利用時の注意点もご紹介!
近年「ChatGPT」や「Midjourney」、「Stable Diffusion」といった生成AIの発展が急加速しています。
生成AIを活用していくにあたって、私たちのどのような行為が著作権侵害となり得るのでしょうか?また、そもそもAIが生成したイラストや文章に著作権は発生するのでしょうか?
そこで本記事では、AIと著作権の関係やAIの生成物を利用する際の注意点などについて紹介していきます。
目次
文化庁の解釈を踏まえた日本のAIと著作権に関する3つの問題
日本のAIと著作権にまつわる問題について、文化庁の最新の解釈を踏まえながら見ていきましょう。
文化庁はAIと著作権の問題について「生成物が著作物となるか」、「AI開発・学習段階」、「生成・利用段階」という大きく3つの段階に分けて検討しているため、本記事も各段階に沿って説明します。
1.AIが生成した作品に著作権は発生する?
まず、そもそもAIの生成物に著作権が発生するのかという問題があります。これを検討するにあたっては、著作権で保護される「著作物」を理解する必要があります。
この著作物について、日本の著作権法では以下のように定められています。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
二 著作者 著作物を創作する者をいう。
つまり著作権が発生する著作物といえるためには、人の思想又は感情が創作的に表現されている必要があるということです。
例えば人がAIを使わずに創作したイラストや曲は、その人の思想又は感情がイラストや曲に対して創作的に表現されているものといえるので、著作物にあたります。
なおクリエイターの間でパクリとして問題視されやすい画風や作風は、単なるアイデアにすぎず著作権法2条1項1号のいう「表現」に当たらないため、著作物とは認められません。
それではAIの生成物が、思想又は感情が創作的に表現された著作物といえるのでしょうか?2つのケースに分けて検討していきます。
1.AIが自律的に作品を生成した場合
この場合の生成物は著作物にあたらないと文化庁が解釈しています。
人がAIに対してプロンプトなどの指示を全く出していない場合や、少しの指示にとどまる場合は、人の思想又は感情が創作的に表現されているとはいえないからです。
つまり機械であるAIには思想又は感情が認められておらず、AIが自律的に生成した作品は著作物ではないため、著作権も発生しないという考え方になります。
2.人がAIを道具として利用して作品を生成した場合
この場合の生成物は著作物にあたると文化庁が解釈しています。
人がAIを「道具」として利用した場合は、人の思想又は感情が創作的に表現されているといえるからです。
文化庁によれば「道具」として利用したか否かは、以下の2点によって判断されます。
- 人の「創作意図」があるか
- 人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったか
「創作意図」とは思想又は感情を、ある結果物として表現しようとする意図のことで、イメージしやすいですね。
これに対し「創作的寄与」とは、簡単にいえば作品の創作に対して人がどれだけ関与したかということです。
文化庁はこの創作的寄与に関して、「生成のためにAIを使用する一連の過程を総合的に評価する必要がある」としています。
例えばイラストを創作するにあたって、人がAIに対して思想又は感情を創作的に表現するための指示をしたり、AIが生成したイラストの大部分に人が修正を加えることなどが、創作的寄与と認められる行為といえるでしょう。
プロンプトに著作権は認められる?
ここまでAIの生成物に著作権が認められるか検討しましたが、AIに対する指示であるプロンプトの場合はどうでしょうか。
結論からいうと、極めて短いプロンプトであれば著作権は発生しませんが、プロンプトが長文になると著作権が発生する可能性が出てきます。
というのも短い文章のキャッチコピーや名言などに著作権を認めると、創作者の表現活動が著しく制限されてしまいます。そのため、このような文章は著作物とは認められず著作権が発生しないのが一般的です。
しかし文章が長文になればなるほど、その文章の創作性が高まり著作物と認められて、著作権が発生する可能性が出てきます。
例えば過去の判例では「ボク安心ママの膝よりチャイルドシート」という20文字に満たない交通標語に著作物性が認められたケースがありました。
このように「笑顔」や「ファンタジー」といった短いプロンプトには著作権が発生しないものの、長文のプロンプトには著作権が発生する可能性があるということです。
2.既存の著作物をAIの学習データに利用できる?
次にAIの開発・学習段階での問題について見ていきましょう。
AIはイラストや文章のデータを学習して、生成物を作り出します。この学習データにはもちろん既存の著作物も含まれるわけですが、既存の著作物をAIに学習させる行為は、著作権侵害にはあたらないのが原則となります。
この点、著作権法30条の4には以下のルールが設けられています。
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
この規定はいわゆる「権利制限規定」と呼ばれるものであり、平成30年改正にてAIやビッグデータといった第4次産業革命を念頭に設けられました。
他人の著作物を利用する場合は、著作権者の許諾を得なければならないのが原則です。
これに対し一定の場合に著作権を制限して、著作権者の許諾を得なくても他人の著作物を利用できるようにした例外的な規定が「権利制限規定」です。
権利制限規定の具体例としては、私的使用のための複製(著作権法30条)や引用(著作権法32条)などがあります。
たしかにインターネット上のイラストや文章のデータをスクレイピングによって収集することは、形式的には複製権の侵害となってしまうため、各データの著作権者の許諾が必要となるのが原則です。
しかし数十億ともいわれる学習データの一つひとつに著作権者の許諾を得ることは非現実的、かつ著作物の円滑な利用を妨げてしまいます。
そこで著作権法30条の4は、情報解析のような著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為について著作権者の許諾を原則不要としたのです。
「享受」とは著作物の利用により知的・精神的欲求を満たす効用を得ることをいいます。AIの学習は、言ってしまえば単なるサーバ上での処理でしかありません。
例外も設けられている
一方、著作権法30条の4には例外として「ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」というただし書が設けられています。
どのような行為が著作権者の利益を不当に害するかについて、文化庁は例として「情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製する場合など」を挙げています。
また、ただし書に該当するか否かについては以下のいずれかの観点から評価され、最終的には個別具体的に司法判断されるとしています。
- 著作権者の著作物の利用市場と衝突するかという観点
- 将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点
3.AIが生成したイラストや文章は著作権侵害にあたる?
最後にAIによる生成・利用段階の問題について見ていきます。
AIが生成したイラストや文章は、他人の著作権を侵害するのでしょうか?
これについて文化庁は「著作権侵害となるか否かは、人がAIを利用せず絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に判断されます。」と明言しています。
つまりAIが生成したイラストや文章も絵の具で描いた絵などと同様に、「類似性」と「依拠性」という両要件を満たし、権利制限規定の適用が無く、著作権者の許諾も得ていない場合は著作権侵害となります。
「類似性」とは簡単に言うと、AIの生成物と他人の著作物が似ているか否かということです。
この「似ているか否か」はAIの生成物と他人の著作物の共通部分が、本質的な特徴にあたる部分なのかという視点で判断されます。
次に「依拠性」とは他人の著作物を使って作品を生み出したかということです。
例えば新しく創作されたイラストが、他人のイラストをトレースして作られた場合は依拠性があるといえるでしょう。一方、他人のイラストを知らずに偶然似たようなイラストを創作した場合は、依拠性の要件が満たされないこととなります。
ただしAIの生成物に関しての依拠性の判断はまだまだ議論の最中であり、今後の司法等の判断に注目が集まります。
AIと著作権に関する海外の動向や法律
次にAIと著作権に関する海外の動向やルールを見ていきます。今回はアメリカとイギリスの2か国に絞って紹介します。
アメリカ
著作権登録を管理する機関であるアメリカ著作権局は、2023年3月16日AIを用いて生成された作品の著作権登録に関するガイドラインを発表しました。
このガイドラインによればAIが自律的に生成した場合のように、人間が創作的に関与していないような作品は著作権の保護対象とならない旨が記載されています。
また著作権登録の申請者は、申請する作品にAI によって生成されたコンテンツが含まれていることを明示する義務と、作品に対する人間の創作的寄与について簡単な説明をする義務があるとの記載もありました。
このようにアメリカにおいては日本と同様に、人が作品の創作にどれほど寄与したかという点が、著作権の登録可否の判断基準になるようです。
イギリス
1988年に改正されたイギリス著作権法によれば、コンピュータの生成物を著作権の保護対象として認めています。
ではAIは著作者になるのかというとそうではなく、コンピュータの生成物の著作者は「著作物の創作に必要な準備をした者」とされています。つまり著作者は人間であることを示唆しているのです。
またコンピュータの生成物には著作者人格権が認められていません。著作者人格権とは、著作者の名誉や感情といった人格的・精神的な利益を保護する権利です。
さらに著作権の保護期間については著作者の死後70年が原則であるところ、コンピュータの生成物の場合の保護期間は創作後50年とされています。
このようにイギリスでは、通常の著作物とコンピュータの著作物との間に差別化が図られているのです。
AIの生成物を利用するにあたっての注意点4つ
最後にクリエイターがAIの生成したイラストや文章などを利用するにあたり、注意すべき点を4つ紹介します。
1.生成された作品に対する加工・修正
前述のとおりAIが生成した作品に著作権が発生するには、人がAIを「道具」として利用したと認められる程度の「創作意図」と「創作的寄与」が必要でした。
そのため生成されたイラストや文章をそのまま利用するのではなく、作品の大部分に加筆やアレンジを施すなどの修正をすることで、創作的寄与の度合いが高まり著作権が発生しやすくなるといえます。
また大幅な修正を加えることは、他人の著作物との類似性の低減にもつながるため著作権侵害の回避にもむすびつくでしょう。
2.商標権・意匠権の確認
AIが生成した作品で気を付けなければならないのは、著作権だけではありません。
生成されたイラストやキャッチコピーが他人の登録商標と同一・類似の場合は、商標権侵害となってしまいます。
また生成された建築パースを基に創作された建築物や生成されたアイコン用画像が、他人の登録意匠と同一・類似の場合は、意匠権侵害となり得るのです。
そのためAIの生成物に類似する商標権や意匠権が存在しないか事前調査をすることで、このような侵害リスクを未然に防ぐことができるでしょう。
3.似ている作品の確認
AIの生成物に手を加えたとしても、最終的なデザインが他人の著作物に類似している可能性は否めません。
そのため画像検索ツールなどを使って、類似する他人の著作物が存在しないかチェックしましょう。
4.権利制限規定に該当するかの確認
前述のとおり、AIが生成したイラストや文章が「類似性」と「依拠性」の要件を満たし、著作権者の許諾も得ていない場合は著作権侵害となります。
しかし生成された作品の利用行為が、私的使用のための複製(著作権法30条)や引用(著作権法32条)、教科用図書等への掲載(著作権法33条)などに該当する場合は、著作権者の許諾を得ることなく作品を利用できます。
そのため作品の利用行為が、これらの権利制限規定に該当するか確認しましょう。
まとめ
AIと著作権の問題は、ひとまとめに考えるのではなく、「生成物が著作物となるか」、「AI開発・学習段階」、「生成・利用段階」という3段階に分けて検討するのが重要ということが分かったかと思います。
今後はAIの技術進歩がさらに加速して、AIを活用するのが当たり前の時代が到来するかもしれません。
日本ではこれからも知財法学者や弁護士等の有識者による議論が重ねられ、法整備が整えられていくでしょう。
私たちクリエイターとしては、法整備の充実を待つ前にAIと著作権の関係について日頃から疑問を持って、最新の情報を調べるクセをつけておきたいものですね。
本記事がそのクセをつけるきっかけになれば幸いです。
なお文化庁は令和5年6月19日に「AIと著作権」というセミナーを開催しました。講演映像は以下のURLから観ることができますので、併せてご参照ください。
https://www.youtube.com/watch?v=eYkwTKfxyGY
知財業界歴10年。 都内大手特許事務所勤務を経て、現在は一部上場企業の知財職に従事。 知財がより身近に感じる社会の実現に貢献すべく、知財系Webライターとしても活動中。
あなたの技術に強い弁理士をご紹介!