デンソーテン、神戸大学、ATR共同で「車載ワイヤーハーネスレス統合技術」を開発
株式会社デンソーテンは、国立大学法人神戸大学と株式会社国際電気通信基礎技術研究所(以下ATR)の3者で、車両内の信号通信に使用しているワイヤーハーネスを無線通信に置き換え、無線通信の不調時には有線の電力線通信でバックアップする「車載ワイヤーハーネスレス統合システム」の共同研究を行い、車両内で無線通信の有効性を確認したと報じました。(2023年3月22日)
本研究は、総務省戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)に採択されています。
今回話題の中心となっているワイヤーハーネスとは、 電源供給や信号通信に用いられる複数の電線を束にして集合部品としたもののことです。
研究の背景
昨今、自動車の電子化・高機能化は急速に進んでおり、車両内に設けられる電子機器も増加傾向にあります。これに伴い、電子機器同士を接続するワイヤーハーネスも大きく増加することが予想されています。ワイヤーハーネスの増加は車両内のスペースの圧迫や重量増加によるCO2排出量の増加につながると懸念され、解決が求められています。
本研究では車内の無線通信に着目し、機器間の接続を無線によって解決を図るものになります。
しかし無線通信では、電波干渉による通信速度の低下や途絶など通信品質に課題があり、現状ではハーネスの代替になっていません。この点を解決するため、通信信頼性を確保する技術開発が本研究の重要テーマとなっているのです。
解決策
- 短パルス※1で電波干渉に強い無線通信方式であるUWB(Ultra Wideband※2)を使用
- 電波干渉を防ぎ、無線通信間の混線を低減するために独自の無線通信アルゴリズムの開発
- 無線が正しく通信できなかった場合にも、各電子機器が正しく連携し動作できるように、有線通信でバックアップする冗長システムを構成
- 有線通信は車内必須の電源線に通信データを載せる電力線通信方式PLC(Power Line Communication)によって、有線の資源を有効活用
これらの技術開発によって、「車載ワイヤーハーネスレス統合システム」の有効性を確認するに至りました。
なお今回の開発にあたっては、三者三様の役割分担がされています。
デンソーテン:車載環境に適したUWB干渉評価・対策技術を開発
・様々な走行状態でノイズによる影響を測定、通信品質を評価
・ノイズ干渉に耐える通信技術を開発し、強力なUWB干渉下におけるデータ損失率0.1%以下を達成
神戸大学:有線/無線連携パケットスケジューリングアルゴリズムの開発
・混線を防ぎ、制御に影響を与えない範囲でデータを集約し、通信量を減らすスケジューリング(パケットの優先順を制御)を実現
・送信パケット数16%削減を達成
ATR:車両の電源線に適したPLCを開発
・通信速度2Mbpsを達成
・走行時の車内の電圧変化が激しい環境下でも、データの伝搬状況に応じて、適切な周波数を選択できる機能を実装
今後の期待・展望
従来のワイヤーハーネスをこの「車載ワイヤーハーネスレス統合システム」へ置き換えることで、車両の軽量化による走行時のCO2排出量削減や、省スペース(車室空間の確保)、省資源、工場組み立てなどの生産コストダウン、ワイヤーハーネス取り回しのための設計工数削減など、多くの効果が期待できるとのこと。
更には、この技術は自動車に留まらず、航空機、宇宙航空機、船舶など様々なモビリティへの応用が期待できます。
本研究はワイヤーハーネス製造を担う企業にとっても事業に大きく影響するテーマになります。ワイヤーハーネスの増加による自動車の影響という点について、ハーネスメーカー側視点での取組についても調査すると面白いかもしれません。
代替技術の存在が自社の存在を脅かすことは往々にしてあり、改めて常に課題意識を持ち、情報収集に取り組む必要性を感じます。
そういった意味では、特許調査を通じて各社の技術を調べれば、課題・解決策・各社の動向を具体的に把握できるのでおすすめです。
注釈
※1 短パルス : パルス幅が1ns以下の短い信号
※2 UWB(Ultra Wideband): 比帯域幅が中心周波数の20%以上、または500MHz以上の極めて広い帯域幅を利用して送受信を行なう無線通信方式
参考
PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000076.000004601.html
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