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知財訴訟の事例!ドワンゴVS米FC2に見る海外サーバーへの模倣対策

ドワンゴ 訴訟

株式会社ドワンゴは、2019年にニコニコ動画におけるコメントのオーバーラップ表示に関し、FC2を相手として特許権侵害訴訟を提起しました。2022年3月24日に判決が出ており、ドワンゴ敗訴という結論でした。

今回の記事では、2016年の商標権の侵害訴訟も含めた一連のドワンゴとFC2の訴訟事例を企業知財部の目線で解説します。日本のIT企業が知財を活用するために注意すべきことを学びましょう。

<この記事でわかること>
・ドワンゴとFC2の商標権および特許権の侵害訴訟の概要
・IT企業が商標権や特許権を取得するうえでの注意点

(執筆:知財部の小倉さん

訴訟の背景

訴訟の内容を解説する前に、まずは対立したドワンゴとFC2の事業内容をそれぞれ紹介します。

株式会社ドワンゴの概要

株式会社ドワンゴ(DWANGO Co., Ltd.)は1997年に設立されたKADOKAWAの完全子会社で、ニコニコ動画やバーチャルキャストなどのウェブサービスを提供しています。その他にもゲームやN高等学校などの教育事業も手掛けています。

出典:株式会社ドワンゴ ホームページ

FC2, INC.の概要

FC2, INC.は米国の法人であり、Webサービスおよびホスティングサービスを展開する企業です。日本人の高橋理洋氏によって設立されました。FC2の日本向けのシステム開発は、大阪府のホームページシステムが受託しているようです。

出典:FC2ホームページ

外国企業と日本の法律の問題点

FC2は本部やサーバーがアメリカにあるため、日本の法律がブログやウェブサイトに及ばず、不適切な記述の削除申請ができませんでした。2012年に民事訴訟法が改正され、日本で事業を展開している場合には会社が国外にあっても訴訟の提起ができるようになりました。

特許権については、外国での実施に対して権利を行使できませんので、出願時のクレームの書き方に注意が必要となってきます。

商標権および特許権の訴訟事例

ドワンゴとFC2は商標と特許に関して訴訟をしています。ここでは各訴訟の内容を見ていくとともに、IT企業における注意ポイントを学んでいきましょう。

商標「ブロマガ」の侵害訴訟

2016年7月14日にFC2はドワンゴに対し商標権侵害訴訟を提起しました。FC2の権利は商標登録第5621414号で、以下の表記となっています。

出典:知財高裁令和元年5月23日判決

FC2はドワンゴのサービス「ブロマガ」のトップページのHTMLファイルにおける記載が上記商標権を侵害するものとし、「ブロマガ」の記載中止とお金の支払(不当利得返還)を請求しました。

ドワンゴの商標権侵害は認められ、656万5554円の支払命令が下されました。

一方、ドワンゴも以下の第5617331号でFC2に反撃し、侵害訴訟を提起しました。こちらもFC2の商標権侵害が認められ、867万7823円の支払命令が下されました。

出典:知財高裁令和元年5月23日判決

商標権侵害訴訟は互いの商標権侵害が認められる結果となりました。両者ともにサービス開始のタイミングでは商標出願をしていなかったようです。

他にも類似の商標出願がされていたようですので、出願前の商標調査をしたときにサービス名を変更していれば、今回のような訴訟に発展することもなかったのかもしれませんね。

参考

ドワンゴに対するFC2の訴訟提起に関するお知らせ
FC2に対する商標権侵害訴訟提起のお知らせ
知財高裁令和元年5月23日判決(第1事件・平成28年(ワ)第23327号、第2事件・平成28年(ワ)第38566号)

特許「コメント表示」の侵害訴訟①

上記商標権侵害の訴訟提起後、2016年11月15日にドワンゴはFC2に対する特許権侵害訴訟を東京地方裁判所へ提起しました。

ドワンゴは同社の特許権である特許第4734471号および特許第4695583号を、FC2のコメント機能付き動画配信サービスである「FC2動画」、「FC2 ひまわり動画」及び「FC2 Saymove!」が侵害していると主張しました。

出典:特許第4734471号 特許公報

出典:J-PlatPat ワンポータル・ドシエ照会

上記2件は親出願と子出願の関係にあり、どちらも「動画上でのコメントの表示方法」に関するものです。しかしながら、2件ともFC2のサービスは侵害しないとの判決でした。

もしかすると、FC2は上記特許をチェックしていて、これらを回避したプログラムを作成したのかもしれませんね。特許権者として考えると、他の事業者が後から参入してこないように同じ機能の代替手段についても出願を検討したほうがよいでしょう。

参考

FC2等に対する特許権侵害訴訟提起のお知らせ
東京地裁平成30年9月19日判決(平成28(ワ)38565)

特許「コメント表示」の侵害訴訟②

さらに、ドワンゴは2019年にもFC2に対する特許権侵害訴訟を東京地方裁判所へ提起しました。

ドワンゴは前述の特許侵害訴訟と同様に、同社の特許権である特許第特許6526304号を、FC2のコメント機能付き動画配信サービスである「FC2動画」、「FC2 ひまわり動画」及び「FC2 Saymove!」が侵害していると主張しました。

特許第特許6526304号は「動画へのコメントを利用したユーザー間のコミュニケーション」に関するものです。

本特許の図面は前回の訴訟で使った特許第4734471号および特許第4695583号と類似しており、分割などのファミリーも14件と多く、動画コメント機能の特許網構築にはドワンゴも力を入れていたようです。

出典:J-PlatPat ワンポータル・ドシエ照会

しかし、今回もFC2の特許権侵害は認められませんでした。前回の訴訟とは異なり、FC2のシステムは今回の特許権の範囲内でしたが、一部の処理が海外で行われているので日本で特許権の内容を実施しているとは認められず、侵害とは言えませんでした。

この結果から、特許権は登録された国の外までは効力が及ばないため、国内の実施内容に着目して権利範囲を決めなければなりません。例えば、ブラウザの動作や端末の動作などが考えられます。

参考

東京地裁令和4年3月24日判決(令和1(ワ)25152)

まとめ

今回はドワンゴとFC2の訴訟について、過去の商標権侵害訴訟から最近の特許権侵害訴訟までを解説しました。

IT業界のサービスは競合が多いため、商標はサービス開始前に調査して出願しておく必要があります。後から他社の商標が見つかると、サービス名の変更が発生し追加コストも掛かりますし、他社から商標権侵害で訴えられるリスクがあります。

また、IT技術はサーバーはアメリカ、サービス提供は日本など複数の国に機能が分かれていることも多く、特許権の範囲については国内法でどこまでカバーできるのか事前の検討が必要となります。

自社のビジネスを守るためにも、他社の権利を侵害していないかをチェックするクリアランス調査をすることをお勧めします。さらに、自社技術の特許出願の際には、競合のビジネスモデルや組織体制を確認しておきましょう。

まずは特許や商標の専門家である、弁理士に相談しましょう。

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