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ドイツにおける、見本市での侵害行為への対策

(2022年7月発行)
ドイツの知財に関わるニュースを日本の企業に向けて発信します。
本ニュースは、ドイツでの知財活動を支援する「Karo IP特許事務所(Karo IP Patentanwälte)」がお届けしています。
(提供:Karo IP特許事務所)

見本市での侵害行為への対策

ドイツは欧州の真中に位置するという好立地条件から、一年を通して多くの見本市が行われています。ドイツ国内には22の見本市会場があり、開催見本市数は年間150以上、食料品から重機器まで、ありとあらゆる商品の展示がドイツで行われています。

有名国際見本市としては、

  • 自動車大国であるドイツが誇る「IAA(国際自動車見本市)」
  • 最新電子機器を紹介する「CeBIT」
  • 世界最大の印刷媒体見本市「DRUPA」
  • 一般消費者向け家電製品見本市「IFA」
  • 世界最大の医療機器・技術見本市「Medica」
  • 世界の食品が集まる見本市「ANUGA」

などが挙げられます。

自社開発製品を紹介するには最適である見本市。

その反面、見本市ほど侵害行為が露呈する場所もありません。見本市で侵害行為を発見した際の対策、また見本市に出展する前に知っておくとよい侵害行為対策についてご説明します。

見本市で起こり得る侵害行為

1.商標権侵害

他の出展企業が商標権を有する企業の商標と同一または類似する商標を使用している場合がこれに当たります。

会社の「信用」や「品質」を約束する社名やロゴといった商標は、あらゆる場面で、常に多くの人々の目に触れる権利です。目で認識できることから、模倣されやすい権利と言えます。

商標権侵害でよく見られるのが、一文字違いなど、オリジナルと見分けのつかない紛らわしい社名やロゴなどです。

例:商標権を有する企業の商号が「UUM(架空の会社)」であるのに対し、「UUN」と称する出展会社があり、近似した格安製品を展示している。

2.意匠権侵害

他の出展企業が、意匠権を有する企業の展示製品の意匠と同一または類似する意匠を使用している場合がこれに当たります。

意匠権も商標権同様、形状、色、材質などの外観に付与される権利のため模倣されることの多い権利です。製品のデザインを完全にコピーしたものもあれば、一部のデザインを模倣したものもあります。

例:前例に挙げた UUM 社のゲーム機の形、色等の外観が、他の出展社のゲーム機と近似している。

3.特許権侵害

他の出展企業が、特許権を有する企業の展示製品の特許と同一または類似する技術を使用している場合が、これに当たります。

外観からはすぐに見て取れない特許技術は、通常すぐに模倣されることはありません。しかしブースに客を装って訪れた競合他社に技術的な情報を与えてしまったり、技術的な情報を詳細に記載したサンプルを渡してしまったりということは、しばしば起こります。

例:同様の製品を展示する競合他社のブースで製品の説明書を読んでみると、展示製品には、自社の特許対象技術が使用されていた。

4.著作権侵害

出展企業が違法に資料等のデザイン、ブースのデザイン、広告のキャッチフレーズ、あるいはブースで使用する音楽など、著作権者の許可なく使用する場合がこれに当たります。

見本市での侵害行為への対策

見本市開始前

何事も準備が大切です。まずは、侵害行為がないかどうか見本市開催前にチェックしましょう。

見本市のホームページ上の出展者リストから、出展社ホームページにアクセスし企業について、また商品について調べます。

商標権や意匠権に関してはすぐに見てとれることから、この時点で大抵侵害行為が発見できます。

見本市開催中

見本市が開催されたら、すぐに侵害製品を展示する可能性のある出展者のブースに行きます。ここで、侵害の可能性のある製品またはその企業についてのサンプル、カタログ、CD等の資料を入手します。

これらの資料は侵害行為が存在することを証明するのに非常に重要です。

侵害行為を発見したら、有効な法的措置を講じるために、ドイツの法律専門家に相談します。事前に現地法律専門家に問い合わせておけば、侵害行為に迅速に対応できます。

法的措置

侵害行為に対する法的措置はいくつかあります。代表的なものは以下の通りです。

  •  メッセブースからの侵害製品の排除
  •  販売数、販売額、販売経路などの侵害製品に関する情報の開示
  •  侵害製品の破棄
  •  被った損害に対する賠償請求

ドイツで行われる通常裁判での手続きは時間がかかるので、早急な対応が必要な見本市には適しません。見本市のような短期間開催される催しでは、決定が速い仮差止命令手続きなどの法的措置が有効です。

見本市開催中の法的措置の手続き

警告書

まず、上記のような法的措置を求める前に、侵害者に警告書を渡します。なお警告書には違約金条項を記載しすることをお勧めします。

侵害者はこの警告書の受領後、知財権侵害があったことを認めれば、侵害手続裁判を回避することができます。しかし、これは侵害者にとって、侵害製品を排除しなければならないことを意味します。

一方、侵害者が知財権の侵害を認めなかった場合、知財権者には違約金を請求する権利が発生し、また当該侵害に対して法的措置を講じることになります。

仮差止命令

侵害者が侵害品を排除しない場合、知財権者は裁判所に仮差止命令を申請できます。

申請するのは見本市が開催されている管轄区裁判所です。裁判所が、財産権侵害が明確であると判断した場合、仮差止命令が侵害者の介入なくすぐに発行され、侵害者の展示ブースから侵害製品および関連資料が押収されます。

しかし判断が難しい場合は、裁判所は決定の前に侵害者に対して聴聞を行うことがあります。

仮差止命令は、1~2日以内に交付されるため、見本市会期中に迅速な解決が図れます。ですがこの命令に対して、後に通常の手続きである差止命令訴訟に発展することが多々あります

なお仮差止命令には、申請者にもリスクがあることに留意しなければなりません。

仮差止命令執行後、この判断が不当であったと認められた場合、申請者はこの命令によって発生した損害に対して責任を負う可能性があります。

こうした仮差止命令が不当であると判断される根拠としては、侵害が無かった、あるいは特許が法的に有効ではなかったことが判明した場合などです。

まとめ

侵害を発見してから対応することも大切ですが、事前に手段を講じておくことも同様に重要です。

商標や意匠などの事前に発見しやすい権利もあれば、一見、侵害とはわからない製品も多々あります。

また不特定多数の人の手に渡るカタログ、CDには詳細な情報を記載せず、段階を踏んで情報を提供することをお勧めします。潜在顧客になりすまして、交渉し情報を入手しようとする企業もあります。このような行為を行う企業が外国企業である可能性もあります。

上記のようなケースでは、専門調査機関に信用調査を依頼することをお勧めします。自社で情報を入手しようとしても、海外からは非常に困難であること多いためです。

見本市は侵害行為を発見するのには好都合です。また発見後の対策に時間がかからないことも利点です。

侵害者が外国企業であった場合、書簡のやり取りだけでも数週間かかるのに対し、見本市では期間中、会場に侵害企業も見本市で出展していることから、あらゆる手続きが迅速かつスムーズに運びます。

見本市での侵害行為への対応は迅速に行うことが非常に重要です。また、現地裁判所へ申請など行う可能性があることから、経験豊かな現地の弁理士事務所とコンタクトを事前に取っておくことを強くお勧めします。

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