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台湾、日本、米国、中国におけるバイオ医薬発明の特許適格性に関する規定の比較及び出願策略分析

(2022年2月22日 発行)
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本ニュースは、台湾での知財活動を支援する「維新国際専利法律事務所」がお届けしています。

(提供:維新国際専利法律事務所

近年、遺伝子工学や医療診断技術の発展に伴い、各国におけるバイオ医薬品分野の発明に関する出願も増えている。しかし、バイオ医薬品に係る発明は特別な性質を有し、生命の本質及びヒューマニズムに関するものである。そのため各国の特許法では、バイオ医薬品発明の適格性に対して特別な規定が定められ、各国による判断基準も異なる。よって、一つのバイオ医薬品の出願は各国において異なる出願戦策が存在する。以下、台湾、日本、米国、中国におけるバイオ医薬品の発明に係る特許適格性の規定を紹介する。各国への特許ポートフォリオ構築に関する参考になれば幸いである。

台湾

出願対象の適格性

専利法第24条の規定により、動植物及び動植物を生産する主要な生物学方法(即ち、一般的な有性交配を基礎とする育種など)は保護の対象とならないが、微生物学による生産方法に係る発明は特許を受けることができる。前記動植物には遺伝子が組み換えられた動植物も含まれる。前記主要な生物学方法とは、全体的なゲノムの有性交配及びその後の植物又は動物の選択を基礎とする育種などを指す。そのため、例えば、遺伝子工程により遺伝子又は形質(Trait)を植物に導入することを含む方法であって、全体的なゲノムの組み換え及び植物遺伝子の自然混合に基づくものでない場合、当該方法は前記主要な生物学方法に属するものではない(専利審査基準2-2-8頁)。

自然の形で存在する物、例えば野生の植物又は天然の鉱物は、保護の対象とならない。しかし初めて自然界から分離されて得られた物、その構造、形態又はその他物理化学的性質が既知のものとは異なるものであり、且つ明確に限定することができるものである場合、その物自体及び分離する方法はいずれも発明の定義を満たすものである。例えば、自然界に存在するある遺伝子又は微生物を発見し、特殊な分離工程によって当該遺伝子又は微生物が得られた場合、当該遺伝子又は微生物自体はいずれも発明の定義を満たすものである(専利審査基準2-2-2頁)。

診断、治療方法

人間又は動物の診断、治療又は外科手術の方法は、台湾専利法第24条の規定により、保護の対象とならない。台湾専利審査基準第2篇第13章で定められている判断規則は以下の通りである。

以下の三つの条件をすべて満たす場合に限り、「診断方法」に属すると認定する(専利審査基準2-13-2頁)。

  1. 生命を有する人体又は動物体を対象とする
  2. 疾病に関する診断である
  3. 疾病の診断結果獲得を直接の目的とする

「治療方法」とは、生命を有する人体又は動物体の健康を回復させる又は健康を獲得させることを目的とする疾病治療又は病因除去の方法を指す。方法におけるある一つの工程に係る技術特徴が、疾病治療に用いられ且つ生命を有する人体又は動物体で実施されるものである場合、当該方法において他の治療手順が含まれているとしても、当該方法は保護の対象とならない(専利審査基準2-13-4頁)。

人間又は動物の外科手術方法とは、器具を用いて生命を有する人体又は動物体に対して実施する外傷的又は介入的な治療又は処理方法をいう。出願に係る発明の方法に複数の工程が含まれる場合、生命を有する人体又は動物体に実施する外科手術工程を一つでも含む場合、当該方法において外科手術ではない他の工程も含むとしても、当該方法は保護の対象とならない(専利審査基準2-13-7頁)。

日本

生物に関する出願対象(発明該当性)

単なる発見であって創作でない天然物は、保護の対象とならない。特許審査基準第III部第I章の規定により、自然界から人為的に単離した微生物、ゲノムが組み換えられた動植物などは、発明者が創作したものを含むため、保護の対象となる。しかし、人間を含む対象とする発明は、日本特許法第32条の規定による公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明に属し、保護の対象とならない。また、特許審査ハンドブック第XI部附属書B第2章の規定により、遺伝子工学に関する遺伝子配列、蛋白質、細胞などの発明について、その技術分野に特有の複雑な性質に基づき、明細書の記載が十分であるか否か、かつ実施要件及びサポート要件を満たすか否かに注意しなければならない。

治療又は診断方法

医療行為について、特許法第29条の産業上利用可能性の規定に対応する審査基準第III部第1章に、人間を手術、治療又は診断する方法は産業上の利用可能性の要件を満たさず、保護の対象とならないと明確に記載されているため、人間を対象とする医療行為は特許を受けることができない(特許審査基準第III部第I章3.1.1.及び3.2.1)。該審査基準の判断方法及び例示の分類表は以下の通りである。

発明が「医療行為」に関するもの(即ち人間を手術する方法、人間を治療する方法、又は人間を診断する方法)であるか否かを判断する。これら方法に該当する場合、産業上の利用可能性を有しない。なお例えば、医薬品、医薬組成物、又は医療機器などの物の発明、又は非医療行為の方法(例えば、スイス式クレーム)については、産業上の利用可能性を有する。また、医療機器の作動方法、人間の身体の各器官の構造又は機能を計測する等して人体から各種の資料を収集するための方法、人間から採取したものを処理する方法についても、産業上の利用可能性を有する。

請求項の形式産業利用可能性
治療方法需要がある個体に化合物Aを施すことを含み、
… 疾患Xを治療する方法。
なし
医薬組成物化合物Aを含み、…
病気Xを治療するための医薬組成物。
あり
スイス式クレーム…病気Xを治療するための薬物の製造における、
化合物Aの使用
あり
EPC2000
(用途限定物)
…病気Xを治療するための化合物A。あり
(ただし場合によっては新規性なし)

米国

生物に関する出願対象

生物に関する発明について、自然界に既に存在する生物体又は生物分子が特許適格性を有しない。例えば、Myriad事件1の判決において米国連邦最高裁判所は、単離されたDNAは自然界から単離された産物に過ぎず、特許適格性を有しない、これに対しcDNAは自然産物に属するものではなく、イントロンを有さず、自然界から単離されたDNA断片と異なるため、特許適格性を有する、と示した。

非自然/遺伝子工学で改造された生物体又は生物分子は、自然界に存在する形態に対して「顕著に異なる特徴」を有する場合、特許適格性を有する。よって原則として、米国では動植物は特許の保護対象であり、人工的な非自然産物であることを証明できれば、特許適格性を有する。しかし、動植物ではなく人間の場合は、非自然/遺伝子工学で改造されたとしても、特許適格性を有しない。Chakrabarty事件2を例に挙げれば、この判決において、「遺伝子工学による油を分解することができる新能力を有する微生物について、この細菌は人工的技術で生産されたものであり、自然産物ではないため、保護の対象と認められ、特許適格性を有する」と示されている。

また、特許適格性を満たさない植物であっても、植物特許権又は通常実施権による保護を受けられる場合がある。

診断又は治療方法

検出及び診断方法の多くは自然法則及び/又は人間の精神活動の法定例外に属することが多く、「一般的又は慣例的な」技術(例えば、PCR、標準の免疫学的検定)を更に含んでいるとしても、特許適格性を有しない。治療効果を予後又は予測する方法もこの原則に従う。よって、米国での請求項において、診断に係る技術特徴は治療手順と組み合わされることが多い。例として「患者を診断し、そして前記診断に基づき前記患者を治療することを含むことを特徴とする方法。」という記載である。また、診断のための検出に使用されるキットも、適格性を有する対象に属する。

治療方法は具体的な治療(投薬)手順を含まなければならない。例えば「特定効果を達するために、特定使用量の特定化合物を使用し、特定患者を治療する。」というような記載である。しかし実務上は、「治療有効量」の特定薬物によって患者を治療するという記載は、一般的に規定を満たすとされる。しかし、効果をサポートする関連実施例が記載されているか否かに注意しなければならない。

また、患者に対する治療の中止を明確に指示する手順の記載は認められない。例えば、「患者が遺伝子型Aを有する場合、前記患者にキナーゼ阻害薬を投薬し、患者が遺伝子型Bを有する場合、治療しないことを特徴とする、患者の遺伝子型A又はBに基づく治療方法。」という記載は、適格性を有さないため、「患者は遺伝子型Bを有する場合、治療しない」という手順を削除しなければならない。

中国

生物に関する出願対象

出願対象適格性
遺伝子配列、蛋白質自然界に存在する形態×
自然界から単離され且つ初めて特性評価され産業上の利用可能性を有する
微生物自然界に存在する形態×
自然界から単離され且つ初めて特性評価され産業上の利用可能性を有する
人工的改造した動物又は植物細胞
(動植物の新たな品種と見なされる場合は適格性なし)
人体及びその生殖細胞、受精卵、胚など×
(体内で発生せず、受精後14日内のヒト胚は適格性あり)

中国専利法第25条の規定により、遺伝子配列、蛋白質、微生物などは自然界に存在する形態である場合、適格性を有しない 。しかし、自然界から単離されるものが初めて特性評価され且つ産業上の利用可能性を有する場合、適格性を有する発明に属する。人工的改造した動物又は植物細胞は、一般的に適格性を有するが、人体及びその生殖細胞、受精卵、胚などは人体に属するため、中国専利法第5条の規定によって特許を受けることができない。しかし、中国専利審査指南の規定により、体内で発生せず、受精後14日内のヒト胚は発明の保護対象として認められる(中国専利審査指南第二部分第1章3.1.2)。

診断又は治療方法

診断又は治療方法は中国専利法第25条に基づき特許を受けることができない発明の対象である。その判断規則は生命を有する人体又は動物体を対象とし、且つ診断結果の取得又は病気の治療を直接の目的とするか否か、である。

よって、物質の診断及び治療用途(薬物、化粧品等)は適格性を有しない。例えば、組成物が「分割できない」治療効果を有すると明細書に記載されており、請求項で「局所に組成物を塗ることと…を含むことを特徴とする、治療を目的としない皮膚を処理する方法。」と限定しても、適格性を有しない。

これに対し、試料の分離に基づく体外での検知方法は特許適格性を有する。例えば、「乳癌評価システムにおいて細胞の有糸分裂を検知する方法(有糸分裂認識モデルを訓練するための試料集を得ることを目的とする)」について、検知における直接的な目的は診断結果を得ることではなく、モデルを訓練するための中間結果を得ることであるため、特許適格性を有する。

同様に、医療機器及び治療に関する補助システムに係る方法及び用途について、例えば、「医療用静脈輸血を警告するための検知方法」について、検知で収集される情報は輸血状況への反応に用いるに過ぎずし、患者の状態への反応ではないため、特許適格性を有する。対応・出願戦略

上述したように、日本及び中国はバイオ医薬品特許に係る特許適格性に対する要求は台湾に近いといえるが、米国の規定と比較すると顕著な相違がある。特定の遺伝子配列、微生物の発明について、中国、日本又は台湾で出願する場合、実務において適格性を有しないと認定されることはあまり多くない。ところが、米国において現在の適格性に関する規定に基づけば、このような遺伝子配列、微生物は自然産物と認められ101条に基づき拒絶される恐れがある。当該発明は人工改造されており自然法則と顕著に異なる特徴を有することを証明できなければ、適格性問題を解消することは難しい。これに対し、診断又は治療方法については、記載要件の規定に注意しなければならないが、これらは米国において保護の対象である(日本、中国、台湾では特許を受けることができない)。適格性の問題を解消する方法としては、一般的に発明の対象を医薬組成物として記載する、或いはスイスタイプクレームで記載した上で該治療方法でさらに限定することが挙げられる。また日本では、既知の薬物について新たな用途で限定した用途限定物の発明は新規性が認められる。しかし、台湾及び中国では薬物が既知であれば、たとえその薬物を新たな用途で限定したとしても新規性を有しないと認定される(新たな用途は請求項の新規性に作用を与えない。スイスタイプクレームとして記載する必要がある)。こうした規定上の差異に加え、バイオ医薬品特許に関する判決も参考にする価値があるため、実務における最新動向も合わせて注意する必要がある。

[1] Association for Molecular Pathology v. Myriad Genetics, Inc., 569 U.S. (2013)

[2] Diamond v. Chakrabarty, 447 U.S. 303 (1980)

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