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台湾 NOVARTIS商標が印字されたパッケージに真正薬品を再梱包して販売する場合、権利消尽は主張できない(NOVARTIS德可立爾商標詰め替え事件)

(2022年3月29日 発行)
台湾の知財に関わるニュースを日本の企業に向けて発信します。
本ニュースは、台湾での知財活動を支援する「Wisdom International Patent & Law Office」がお届けしています。

台湾の商標法では第36條第2項において、真正商品の並行輸入が認められており、商標の付された商品が商標権者の同意を得て市場に流通した後は、商標権者は当該商品を取得した第三者に商標権を主張することはできない。つまり、「権利消尽原則」(国際消尽)が認められている。

一方で同条第2項但書きには「但し、商品が市場で流通した後、商品の変質、毀損が発生するのを防止するため、又はその他正当な事由がある場合はこの限りでない。」とあり、権利消尽原則の例外が規定されている。よって、並行輸入された真正商品でさえあればいずれも任意に使用できるというわけではない。本件「NOVARTIS德可立爾商標詰め替え事件1」では、真正品を詰め替え・再梱包する行為は商標権侵害該当するか、権利消尽原則が適用されるかについて争われた事例である。

事件の概要

スイスのNOVARTIS AGは2011年に「德可立爾」商標(以下「本件商標」とする)を第5類「薬剤」を指定商品として出願し、2012年6月に第01519170号商標として登録された。NOVARTIS は、台湾諾華股份有限公司(以下、「台湾諾華会社」)を通じて本件商標が付された薬品を台湾へ輸出し販売を行っている。

柏麦客有限公司(以下、被告又は「柏麦克会社」)は、台湾諾華会社が輸入した「德可立爾40mgフィルムコーティング錠(1箱30錠)」(以下、本件薬品)を購入後、それを販売する事業を行っている。被告は売れ行きが思わしくなかったため、印刷業者に本件商標が付されたパッケージ及びラベル等の印刷を勝手に依頼し、本件薬品を当該パッケージに1箱150錠に再梱包して販売を行った。

台湾諾華会社は、被告に対して刑事告訴を行い、屏東地方裁判所は被告の行為は商標法に違反するという判決を下した。被告はこれを不服として知的財産裁判所へ控訴、最高裁判所へ上告 を行ったが、いずれも棄却され、本件は確定した。

本件商標と本件薬品

本件商標本件薬品

(第01519170号)

德可立爾40mgフィルムコーティング錠
(Coryol 40mg Film-coated Tablets)
第5類
薬剤
適応症
末梢循環障害の補助療法
 ドイツ工場にて製造、台湾諾華会社が台湾へ輸入。

知的財産及び商事裁判所の見解

商標法の立法目的は商標権と消費者の利益を保護することであるため、商標権を侵害する商品を違法に販売する行為には第97条の罰則を設けている。しかし、合法的に登録商標が付された商品を販売する場合であって、その品質は商標権者が販売する商品の品質と同一であり、消費者に商品の品質や出所を混同誤認させる虞もない場合には、商標権者の営業名誉及び消費者の利益のいずれに対しても害はなく、反って価格競争を促進し、商標権者による市場独占を防ぐことによって、関連消費者に同一商品を購入する際の選択の余地を与え、自由競争による利益を享受させることが可能となる。この範囲内であれば、商標法の立法目的には反せず、商標権を侵害することにはならない。

逆に、もとのままの包装による販売ではなく、許可なく加工、改造、または変更が加えられているが、商品に登録商標と同一のものが付され、又は商品に登録商標が付された広告等文書が添付されて陳列又は散布された結果、消費者に当該商品の提供者が商標権者、使用許諾を受けた者、指定の代理店、販売店であると混同誤認させる場合、これは他人の商標を悪意に使用する行為に属し、商標権を侵害する犯罪意識があることは明らかであるため、商標権の権利消尽を主張することはできず、商標権侵害を構成し罰則が適用される。

本件被告は台湾諾華会社から購入した薬品を開封後、元の包装とは異なる包装に再梱包し、印刷業者に台湾諾華会社の名義及び本件商標が印字された包装パッケージの印刷を依頼し販売しているが、こうした行為は被告の販売する薬品がNOVARTISの当初の包装の薬品であると誤認させるに十分であり、混同誤認を生じる虞があることから、権利消尽の原則は適用されない。弊所コメント

台湾商標法では国際消尽論(商標法第36条第2項)が採用され、真正商品の並行輸入が認められている。ただし、国内外で他人の商標が付された商品を購入後に再販売する際に、購入商品に対し変更、加工を行う等、商標権者または使用許諾を受けた代理店が販売していると関連消費者に混同誤認を生じさせる行為は、権利消尽原則の例外とされている(36条2項ただし書き)。

被告の行為について知的財産及び商事裁判所は、再梱包された当該製品がNOVARTISの薬品であると関連消費者に十分に誤認させ、混同誤認を生じさせる虞があると指摘した。被告は、台湾諾華会社の薬品を合法的に購入していること、販売している商品は真正品であること、「権利消尽原則」が適用されるなどと主張したが、認められなかった。

商標権者が正当に登録商標を付した商品であっても、小分けや再梱包した上で登録商標を付して販売する行為は、日本においても一般的に商標権侵害を構成するとされている 。台湾における本件も同様の事例であり、結果としては日本と同様、被告の行為は商標権侵害に該当すると判断されている。商標権者としては、登録商標が付されている商品であっても、商標権者の意図しない小分けや詰め替え、又は改変や加工がされている場合は、台湾においても商標権の主張が認められる可能性があるという点に留意する必要がある。

[1] 知的財産及び商事裁判所2018年刑智上訴字第44号刑事判決(2019.2.21)

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