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台湾と中国の商標不使用取消審判に関する制度及び実務の比較

(2022年2月3日 発行)
台湾の知財に関わるニュースを日本の企業に向けて発信します。
本ニュースは、台湾での知財活動を支援する「維新国際専利法律事務所」がお届けしています。

(提供:維新国際専利法律事務所

台湾と中国では言語上は同じ中国語が使用されているが、それぞれの知的財産制度には多くの相違点が存在する。商標法においても、商標における日本語文字の取り扱いや類否判断、審査・不服申立ての流れなどで異なる点が多数存在するが、今回は不使用取消審判に焦点を当て、台湾と中国の制度上の相違点及び実務上の運用などを紹介する。

主体的要件及び客体的要件

主体的要件に関し、台湾と中国いずれも不使用取消審判は何人も請求が可能である。次に客体的要件について、台湾と中国それぞれ説明する。

台湾では正当な理由なく3年以上登録商標の使用をしていない又は継続して使用を停止している場合が請求の対象となる。登録商標の使用には使用権者による使用も含まれ、登録された使用権者であるか否かを問わない(註冊商標使用之注意事項P.7)。また指定商品役務について、全部又は一部に対して請求することが可能である。

中国では、正当な理由がなく継続して3年間使用していない場合が請求の対象となる(実施条例66条)。登録商標の使用には、使用権者による使用も含まれる。登録された使用権者であるとは規定されていないが、登録された使用権者であることを示す証拠(CNIPA発行の使用許可登録通知書やライセンス契約書等)を提出することで、登録商標の使用と認められる可能性が高まる。また指定商品役務について、全部又は一部に対して請求することが可能である。

使用の立証及び駆け込み使用

台湾において、請求人は不使用の事実を証明する具体的な証拠(使用調査報告)を付さなければならない(証拠が付されていない場合や具体的な事実が示されていない場合は審判請求が却下される)。次に駆け込み使用について、審判請求前3か月から請求の登録日までの間にされた使用について、その使用が審判の請求がされることを知った後である場合は、いわゆる駆け込み使用と認定され、登録商標の使用とは認められない。

これに対し中国では、審判請求時には不使用を示す具体的な証拠の提出は求められず、商標権者が使用の立証責任を負う。商標審査及び審理基準において、「係争商標の継続3年不使用の立証責任は、係争商標の登録者が負う。」と明確に定められている。また中国では駆け込み使用の規定は存在しない。商標権者との交渉や接触を要する場合は、それらを行う前に不使用取消審判を請求する必要がある。

審理方式

台湾では、商標権者と請求人が相互に書類を出して攻防を行う当事者構造となっている。審判請求後、商標権者から応答がない場合はそのまま認容審決が下される。この場合、請求から数か月ほどで審決が下され、請求からおよそ半年ほど審決確定(取消の公告)となる。これに対し商標権者から答弁書が提出された場合、「事実や証拠が明確である又は審理遅延の虞がある」と審査官が認定するまで、双方からの書類の提出が行われる。審理期間に特に制限はなく、場合によっては審決が出されるまで1年半以上かかる場合もある。

一方中国では、審判請求後は中国商標局が商標権者からの答弁書や証拠に基づき決定を下す(請求人は審理に関与できない)。審理期間に関して、商標法において、商標局は請求を受けた日から9ヵ月以内に決定を下さなければならず、特殊事情で延長する必要がある場合には、国務院工商行政管理部門の許可を得た後、3ヵ月延長することができる、と規定されている(商標法49条)。

不服申立て

台湾の場合、台湾特許庁の審決に不服がある場合は経済部訴願審議委員会へ訴願を提起することができる。その後は知的財産及び商事裁判所での行政訴訟、続いて最高行政裁判所へ上訴することができる。

中国の場合、商標局による決定について不服の場合は商標評審委員会に不服審判を請求することができる。商標評審委員会の審決を不服とする場合は、さらに北京知識産権法院に訴訟を提起することができ、かつ北京市高級人民法院に上訴することができる。

取消審決の効果

台湾と中国のいずれも、取消審決が確定した場合、商標権は遡及的に消滅するのではなく、審決確定(取消広告)後に事後的に消滅する。つまり、審判請求の登録の日から消滅するわけではない。

その他(先行類似商標に対する不使用取消審判について)

台湾

拒絶理由通知で引用された先行類似商標に対して不使用取消審判を請求した場合は、不使用取消審判の審理が終わるまで、出願の審査を待ってほしい旨を記載した書面を提出することで、審査官は一般的に審査を中止する。指定商品役務の一部のみについて先行類似商標と抵触する場合であって、先行類似商標に対して不使用取消審判を請求する策を採る際の一般的な方法は次の通りである。(1)先行商標に対し不使用取消審判を請求。(2)先行商標と抵触する商品役務と抵触しない商品役務に分ける分割出願を行う1。(3)抵触する商品役務に係る出願については審査中止を求める書面を提出する。ここで抵触しない商品役務に係る出願については、そのまま登録査定が下される。

中国

中国では拒絶理由通知という概念はなく、拒絶理由を有する出願は直接拒絶査定が下される。よって不使用取消審判は通常、拒絶査定(全部又は一部)の受領後に請求することが一般的である。ここで拒絶査定後の復審(拒絶査定不服審判)や復審後の行政訴訟では,並行して争われている不使用取消の結果を待つことなく、審理が進められる。つまり、不使用取消審判の結果が確定するまで、復審や行政訴訟において先行類似商標は有効に存在すると扱われるため、復審の結果が出る際に不使用取消審判の結果がまだ出ていないことが多い。このため中国においては先行類似商標に対して不使用取消審判を請求しつつ、新たな出願を行うことが一般的である。

まとめ

これまで述べた内容のうち主なものを表にまとめると以下の通りとなる。

 台湾中国
請求人適格何人も何人も
客体的要件3年不使用3年不使用
使用権者による使用
指定商品役務ごとの請求
請求時の不使用に関する
具体的証拠の提出
必要不要
駆け込み使用規定ありなし
請求人の弁駁機会あり
(双方の攻防あり)
なし
(商標権者の答弁書は請求人に送達されず審決が下される)
不服申立て経済部へ訴願→知的財産及び商事裁判所へ訴訟提起→最高行政裁判所へ上訴商標評審委員会へ不服審判→北京知識産権法院へ訴訟提起→北京市高級人民法院へ上訴
取消審決の効果審決確定後に消滅取消公告後に消滅

不使用取消審判に関し、台湾と中国における相違点や実務運用を説明したが、特に審理方式が全く異なる点に留意する必要がある。台湾では審判請求時に具体的な不使用の事実を示す調査報告書の提出が必要なこと、商標権者が答弁書を提出してきた場合は審理が長期化する恐れがあることなどに特徴を有する。これに対し中国においては、審判請求手続き自体のハードルは低いが請求後は商標権者の答弁書が送達されずそのまま9ヶ月以内に審決が出されること、拒絶応答後の復審と不使用取消審判の審理は独立して進められる(不使用取消審判の結果を待つことなく拒絶応答後の復審の審理が進められる)ため、拒絶となった商標の再出願を検討すべきこと、などに注意を要する。

なお上述した内容に加え、登録商標の使用に関する判断や商標の使用証拠の認定なども台湾と中国では独自の基準を有する。よって不使用取消審判の請求を検討する際には、台湾・中国それぞれの規定・運用に合った準備をしなければならない。

[1] なお台湾では指定商品をXとYに分ける出願の分割を行った場合、原出願は台湾特許庁に係属しなくなり、指定商品Xの出願と指定商品Yの出願が新たに2つ発生する。

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