Nike、商標侵害訴訟で500万ドルの弁護士費用支払いを免れる
(この記事は、2024年8月29日に作成したものです。)
最近話題となった、米国商標訴訟の事例です。
企業の大小によって判断が影響されてしまってはならないという事例です。
参考:Lontex Corp v. Nike Inc, No. 22-1417 (3d Cir. 2024) ※控訴審判決
背景と訴訟の概要
2019年、ペンシルベニア州の小さなスポーツウェア会社であるLontex Corporation(原告)は、世界的なスポーツブランドであるNike(被告)を商標侵害で訴えました。
問題となったのは、Nikeが「Cool Compression」という言葉を一部のシューズの説明に使用したことです。
Lontexは、この「Cool Compression」をプロのアスリートや消費者向けに自社の製品に使用しており、2008年に商標登録を受けていました。
Registration Number: 3416053
Filing Date: 2006-04-19
Registration Date: 2008-04-22
International Class: 025
Party Name: Lontex Corporation
Nikeがこの商標を使用し続けたとし、Lontexは訴訟を提起しました。
裁判の結果
ペンシルベニア州東部地区連邦地方裁判所で行われた裁判では、Nikeが故意に商標を侵害したとして、陪審員はLontexに対して14万2,000ドル(2059万円)の補償と36万5,000ドル(5292万5千円)の懲罰的損害賠償を認めました。
さらに、裁判後の手続きで、補償額は約43万ドル(約6235万円)に増額されました。
※記事中のレートは全て1ドル=145円で計算
弁護士費用に関する問題
訴訟後、ペンシルベニア州東部地区連邦地方裁判所は、この事件が「例外的なケース」に該当すると判断し、Nikeに対してLontexの弁護士費用500万ドル(7億2500万円)を支払うよう命じました。
この「例外的なケース」という判断は、商標侵害訴訟において弁護士費用を請求するための基準となるものです。
控訴裁判所の判断
しかし2024年、アメリカ合衆国第三巡回控訴裁判所は、この弁護士費用の支払い命令を覆しました。
控訴裁判所は、下級裁判所が当事者の規模や資源の差異に過度に依存して判断したとし、事件の具体的な事実に基づくべきであると指摘しました。
控訴裁判所によれば、事件の「例外性」を判断するには、訴訟の内容や進め方が他のケースと比較して際立っている必要があり、単に大企業と小企業の対決であることだけでは不十分です。
偽造の主張に関する判断
また、LontexがNikeに対して提起した偽造の主張も控訴裁判所によって退けられました。
Nikeが「Cool Compression」を他のブランド名と共に使用していたため、一般消費者が両者の商標を「同一」または「非常に類似している」と認識することはないと判断されました。
まとめ
この判決は、商標侵害訴訟において弁護士費用を請求するための「例外性」の基準を厳格にするものです。
裁判所は、単に大企業と小企業の対決だからといって、自動的に弁護士費用が支払われるわけではないと強調しました。
最終的に、裁判所は各事件の具体的な状況を慎重に考慮するべきだとしています。
米国訴訟の事例でした。米国訴訟における弁護士費用の金額は、中小企業が負担するものとしては、膨大なものになります。こういったケースを踏まえたうえで、訴訟の着地点・目的を意識する必要性を感じるところです。
健康関連商品の知財、企画開発や生産立ち上げを経験してきた元エンジニア。皆さまに役立つ情報を発信したいと思いWEBライター活動中。趣味はスポーツ全般、カメラ、映画鑑賞
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