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声優の声は生成AIによる生成・使用から保護されるのか?保護における法的問題点について解説します

声優の声の保護

生成AIの発達により、人の声を生成することが可能になりました。しかしながら、近年では、この声が無断でAI学習に使用され、生成された声がインターネット等で拡散されるようになっています。そのため、このような生成AIによる声の無断生成・使用に対し、声優などの声を、法律面でどのように保護するかが、法務省や文化庁などで議論されています。

声の無断利用の状況

声がどのようにして無断利用されているか、その類型は、概ね次の5つであると考えられています。

1.歌わせる

例:特定の声優の声で、別のアーティストの曲を歌わせる。

2.朗読させる

例:特定の声優の声で、文章や物語を朗読させる。

3.セリフを喋らせる

例:特定の声優の声で、本人が述べていない発言や演技を生成する。

4.動画ごと生成する

例:特定のキャラクターと類似したキャラクターの動画と、その元キャラクターの声優の声と類似した声を生成する。

5.AIモデルを公開する

AIモデルとは、「学習済みの人工知能」であり、データをもとに解析・予測・生成を行うための仕組みです。このAIモデルの公開の例としては、その特定の声優の声を学習させたAIモデルを販売したり、無償公開することが挙げられます。

また、この無断利用により、生じる被害の段階としては、次の3つの段階が考えられます。

1.生成AIの学習時

例:アニメやゲームなどの作品から声優の声を抽出して学習させることで、AIモデルを生成する。

2.AIモデルの提供時

例:AIモデルの販売、AIモデルをプラットフォーム上(WindowsやmacOS、Android、iOS等)で無償公開する。このAIモデルの使用者は、このAIモデルの使用により、任意の声を、声優の声に加工することが可能になる。

3.SNS等による生成AI音声の公開

例:TikTokやYouTube等で、生成AIの音声が公開される。

※声優有志一同 提出資料「声優の被害状況と声の保護に必要な対策」 

有名人の声を使ったAI広告の問題点

有名人の声を使ったAI広告の問題点としては、以下の点が挙げられます。

1.消費者の誤認のおそれ

生成AIの声を用いた広告(AI広告)を用いて、「あの声優さんがこの商品を推薦している」 と思わせる広告は、消費者を誤認させる危険があります。

2.声優のブランドや信用の毀損

AI広告が、詐欺商品のような商品の広告であった場合には、声優の許諾していない広告により、声優本人のブランドや信用が毀損することがあります。

3.声優の仕事の減少

生成AIの声を使用することにより、声優の仕事が生成AIによって代替されることが考えられます。

そのため、声優の許諾していないAI広告の使用について、ルール作りをする必要があります。

声の無断利用は、どの段階で問題になるのか

声の無断利用は、いつの間にか、声優本人の人格的利益や営業上の利益を侵害されるおそれのある行為です。そのため、声の無断利用に対しては、早期に対応することが求められます。その一方で、声の無断利用には、生成AIによる学習段階、AIモデルの作成・提供段階、声の広告利用・SNSへの提供段階での利用があり、それぞれの段階で対応が異なっています。

生成AIによる学習段階

生成AIによる学習段階では、声を集めて生成AIに学習させることが行われています。しかしながら、学習段階での無断利用が公知になることは稀であるため、声優や所属事務所が把握することは容易でないと思われます。また、後述するように、学習段階での利用行為を、現行の法律に基づいて中止させたりすることが困難である、という現状もあります。

生成モデルの提供段階

生成モデルの提供段階では、生成モデルを利用することで、任意の声が声優の声に加工されています。この行為については、生成モデルの提供に際して声が無断で利用されているため、現状でも、一定の条件のもと、生成モデルの提供者や利用者に対して、法律上の対応をすることも可能です。

広告利用・SNSへの投稿段階

生成AIの声を広告利用したり、SNSに投稿したりする行為は、生成AIの声が拡散されるため、中止・削除依頼などの対応を早急にする必要があります。この行為についても、一定の条件のもと、広告利用者やSNS投稿者に対して、法律上の対応をすることが可能です。

声の保護に関連する法律

声の保護に関連する法律としては、著作権法、不正競争防止法、パブリシティ権による保護があります。しかし、声について、どの法律で保護するか、という点については、生成AIによる学習段階、生成モデルの作成・提供段階、広告利用・SNSへの投稿段階の各段階で異なる点があります。

著作権法による保護

著作権法では、著作物が保護対象となっています。しかしながら、「声」自体は著作物に該当しないため、「声」自体を著作物として保護することはできません。

また、実演家の権利である著作隣接権についても、「実演」は、著作物を、演劇的に口演・朗詠などにより演ずることであるところ、「声」自体は著作物でないため、「声」自体を著作隣接権として保護することもできません。

不正競争防止法

不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することを目的としていることもあり、原則として「声」自体は保護対象とはなっていません。しかし、有名な声優の声は、経済的な価値を有しているため、このような声については、商品又は営業を表示する「商品等表示」として、不正競争防止法で保護される可能性があります(不正競争防止法第2条1項1号)。

ただし、生成AIによる学習段階では公知となっていないため、この段階では、声は「商品等表示」に該当するとして、不正競争防止法による保護が認められる可能性は、まずないと考えられます。また、不正競争防止法が適用される場合であっても、声優の声が周知性を有すること、声が商品等表示に該当することなどの立証を、声優側がする必要があるため、不正競争防止法による声の保護は、必ずしも容易ではありません。

パブリシティ権による保護

声優の「声」には、その知名度によっては、声の利用による顧客吸引力があるため、経済的価値が生じます。このようなものを保護するため、我が国では、パブリシティ権による声の保護が検討されています。

パブリシティ権とは

パブリシティ権とは、有名人が、自分の氏名や肖像を商業利用する権利です。法律上明記されている権利ではありませんが、判例上認められている権利です。パブリシティ権が認められるためには、以下の要件を全て満たす必要があります。

  1. それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用している
  2. 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付している
  3. 商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる

    

パブリシティ権の問題点

パブリシティ権は、肖像等が顧客吸引力を有する場合に認められる権利です。そのため、無断利用された声優の「声」が、一般社会において全く認知されていない場合には、顧客吸引力がないとして、パブリシティ権の保護が及ばない、という可能性もあります。ただし、この認知の程度は、必ずしも社会全体で知られている必要はなく、特定の需要者層に知られていれば足りると考えられています。

また、生成AIの声と声優の声がどの程度似ている場合に、パブリシティー権の侵害とするか、という点も問題になると考えられています。すなわち、似ているか否かの判断基準として、声紋を比較するのか、それとも、生成AIを利用した者の認識に基づいて判断するのか、という点も、今後の課題となります。

実際に起こった訴訟

生成AIで模倣された声がTikTokで公開されたことに対し、声を模倣された声優(津田健次郎さん)が、TikTokの運営会社に、動画の削除を求める訴訟を提起しました。この訴訟は2026年7月時点で継続中です。そして、この訴訟では、以下の点が争点となっています。

  • TikTokの動画は津田さんがナレーションをしているものと混同を生じさせるものであり、不正競争防止法第2条1項1号に抵触する、という主張が認められるか否か。
  • TikTok上の声が、パブリシティー権の対象となるか。

「AIで声を模倣された」声優の津田健次郎さんがTikTokを提訴 [AIの時代]:朝日新聞

現行法の限界と今後の課題

現状では、著作権法や不正競争防止法では、声を有効に保護することは困難であると言えます。また、パブリシティー権では、顧客吸引力の有る声のみが保護され得る、という状況です。その一方で、生成AIによる声の生成や、生成モデルの提供、SNSへの投稿は、今後も増えることが予想され、また、生成AIの技術は今後も急速に進歩するものと思われます。そのため、このような急速な変化に対応するべく、声の権利に関する法律を改正することが、急務となっており、文化庁や法務省によって、この法改正についての協議がなされています。

また、生成AIによる声の無断利用に対して法的措置を検討する場合、誰に対して措置を取るのか、例えばSNSへの投稿者に対して措置を取るのか、AIモデルの開発者や販売者に対して措置を取るのか、あるいは広告主に対して措置を取るのか、現状では分かりにくいケースもあるため、この点について分かりやすくすることも、今後の課題になると考えられます。

【編集部から補足】

法務省にて「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」が開催されています。

>肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会

>肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書の公表について (2026年8月7日)

>声優有志一同 提出資料「声優の被害状況と声の保護に必要な対策」(法務省『肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会』提出資料)。本資料は現在、法務省の検討会のページ上からはリンクが辿れないようです。

また、 本記事の解説に関連して、編集部より2点補足します。

①AIに声を学習させる段階と著作権について

AIの学習のために既存の作品や音声を利用する場合、著作権法第30条の4が適用されることがあります。

この規定では、作品を鑑賞したり楽しんだりする目的ではなく、AI学習やデータ分析などに使う場合、一定の条件を満たせば権利者の許可なく利用できるとされています(実演家の著作隣接権にも同様の考え方が適用されます)。

そのため、声優などの音声データが許可なくAI学習に使われたからといって、直ちに著作権等の侵害になるとは限りません。一方で、利用の目的や方法、権利者の利益を不当に害していないか(同条の但し書)などによって判断が分かれます。

②パブリシティ権と「声」について

パブリシティ権については、最高裁判決(平成24年2月2日「ピンク・レディー事件」)が代表的な判断基準として知られています。この判決では、有名人の名前や肖像などが持つ「人を引きつける力(顧客吸引力)」を、もっぱら商売などに利用する場合にはパブリシティ権の侵害になり得るとの考え方が示されました。

さらに、2026年8月に公表された法務省の「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書」では、「声」についても誰の声かを識別する情報であり、その人自身を表すものとして、パブリシティ権等による保護の対象になり得ることが示されています。

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