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商標権侵害でも差止請求は認められないのか?「ZOOM」商標権侵害訴訟について解説

商標権侵害でも差止請求は認められないのか?「ZOOM」商標権侵害訴訟について解説します。

昨今では、オンラインでの会議や、在宅勤務などで、「ZOOM」を使用している方も多いと思います。しかし、この「ZOOM」のロゴをめぐり、商標権侵害訴訟が東京地裁に提起され、2026年4月に判決がなされました。今回は、この判決の内容と、この判決を踏まえたビジネス上の留意点について、解説します。 

訴訟の概要

本件では、2件の商標権侵害訴訟が並行して提起されていました。

1つは、商標権者である「音響機器メーカーの株式会社ズーム」(原告)が、Web会議サービス「Zoom」で商標「ZOOM」を使用している「ズーム・コミュニケーションズ・インク」(被告①)に対して、差止請求や損害賠償請求などを請求した訴訟です(訴訟1)。

もう1つは、上記原告が、サービス販売代理店の「NECネッツエスアイ」(被告②)に対して、 差止請求や損害賠償請求などを請求した訴訟です(訴訟2)。

訴訟1、2の主な流れは、次のようになっています。

 ①2006年3月 :原告が、指定商品を「電子計算機用プログラム」等とする以下の商標を登録(登録番号:第4940899号)

商標出願・登録情報表示|J-PlatPat [JPP] 

②2018年10月:原告から被告1に、商標の使用による出所混同に対する対応を求める。

          (被告2に対して、この対応を求めているかは不明)

③2021年9月 :被告2に対して訴訟2を提起(差止請求、損害賠償請求)

④2021年11月:被告1に対して訴訟1を提起(差止請求)

⑤2022年10月:被告1に対して、原告が損害賠償請求を追加

⑥2026年4月 :訴訟1,2共に判決

           いずれも、損害賠償請求は認めたものの、差止請求は認めない、

          という判決になりました。

原告の登録商標と被告の商標との類否

商標権侵害訴訟においては、①被告の使用している商標が、登録商標と類似するか否か

②被告が商標を使用している商品・サービスが、登録された指定商品・サービスと類似するか否か、が問題となります。今回の訴訟では、次のような判断がなされました。

商品の類否

商品の類似については、対比される両商品・サービスに、同一又は類似の商標を使用することで、同一事業主の商品・役務と誤認されるおそれがあるか否かによって判断されます。もっとも、本件では、指定商品に「電子計算機用プログラム」が含まれているため、被告1,2の使用しているサービスは、登録商標における指定商品・サービスに類似すると判断されました。

商標の類否

商標の類否については、対比される両商標が、同一又は類似する商品・役務に使用された場合に、出所混同を生じるおそれがあるか否かによって判断されます。そして、この判断の基準は、以前の最高裁判決(最高裁昭和39年(行ツ)第110号)において、以下のように示されています。

①商標の外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察する。

②その商品・役務の具体的な取引実情に基づいて判断する。

今回の訴訟では、被告1,2は、以下の商標1から商標5を使用していました。

今回の訴訟1、訴訟2では、これらの商標1から商標5は、いずれも、登録商標と、外観が類似しており、称呼と観念は同一であると判断されました。

取引の実情

その一方で、今回の訴訟1、訴訟2では、2020年7月には、Webサービスとしての「Zoom」の認知度が非常に高くなっており、著名な表示となっているため、このような取引事情を考慮し、2020年7月以降では、原告の登録商標と被告1,2の商標との間で、出所の混同は認められない、との判断がなされました。

差止請求について

商標権侵害における差止請求とは、商標権を侵害している相手方に対して、商標の使用を差し止めることです(商標法第36条)。そして、差止請求は、判決後の将来の行為について効力が及ぶため、差止請求をするか否かの判断基準時は、判決をする前、すなわち口頭弁論終結時となります。本訴訟では、この口頭弁論終結時における出所混同の有無が問題となりました。

ズーム社に対する請求

結論として、ズーム社に対する差止請求は認められませんでした。その理由は、訴訟の口頭弁論終結時に、原告の登録商標と被告の使用している商標との間で出所混同が生じないため、原告の主張を認めない、というものです。

今回の訴訟では、被告の使用している商標は、訴訟提起時には、著名な表示とは言えない商標であり、商標権者に問い合わせが来るなど、商標権者との間で出所混同が生じていました。しかし、被告の商標は、コロナ禍において、在宅勤務やインターネット上での打ち合わせ等が急激に増加したこともあり、急速に知名度が上昇し、出所混同の生じない状況となりました。

代理店に対する請求

また、本件では、ズーム社に対する差止請求と同じ理由で、代理店に対する差止請求も認められませんでした。

ところで、代理店の使用はズーム社との契約に基づく使用であるため、代理店の使用に対して、そもそも商標権侵害が認められるのか、という疑問を持たれる方もいるかもしれません。しかし、この契約は、契約を締結している当事者間で効力を有するものです、そのため、この契約の効力は商標権者には影響しないことになります。

損害賠償請求について

商標権侵害における損害賠償請求とは、商標権侵害によって商標権者が被った損害を請求することです(民法第709条)。そして、商標権侵害では、損害額の計算方法の一つとして、商標権に対する使用許諾をした場合の使用料相当額を損害額とすることが認められています。(商標法第38条3項)。損害賠償請求では、損害の発生が生じている時を基準にして、損害額が定められます。

ズーム社に対する請求

結論として、ズーム社に対する損害賠償請求については、登録商標の使用料相当額である約1億6600万円が認められました。また、この損害額については、次の①,②の期間について損害が認められました。

①出所混同の生じている期間(2020年7月以前の使用)

②原告が損害賠償請求を追加した2022年10月から3年前(2019年10月)以降の期間(2019年9月以前については、時効により損害賠償請求が認められなかった)

したがって、損害賠償請求の認められた期間は、2019年10月から2020年7月までの期間となります。

代理店に対する請求

代理店に対する損害賠償請求については、登録商標の使用料相当額である約1600万円が認められました。この損害額については、ズーム社に対する請求と同様に、①出所混同の生じている期間について、損害が認められています。なお、こちらの訴訟(訴訟2)では、時効について言及されていません。

なぜ、出所混同が生じないと商標権侵害が認められないのか

今回の事案では、被告の使用している商標が著名になり、原告の登録商標との間で出所混同が生じなくなると、商標権侵害にならない、という判断がなされています。このような判断がなされた背景には、商標法の法目的があります。

商標法の法目的は商標法第1条に規定されています。具体的には以下の3つです

①商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図る

②産業の発達に寄与する

③需要者の利益を保護する

今回のように、使用した商標が著名になり、出所混同が生じなくなった場合には、出所混同による需要者の不利益は生じず、また、出所混同による業務上の信用毀損も生じないことになります。そのため、出所混同が生じない場合には、商標権侵害が認められない、という結論になります。この点が、発明や著作物などの「創作」を保護する法律(特許法、著作権法)との違いとなります。

実務上の留意点

今回の事案では、商標権者がズーム社に出所混同による対応を求めた後、ズーム社の商標が著名化した後に、商標権侵害訴訟を提起した事案です。侵害訴訟は時間・費用のコストが大きいため、訴訟で対応するのか、交渉で対応するのか、という判断については、出所混同による損失や、訴訟によるコストに基づいて判断することになります。ただし、対応に時間がかかると、出所混同による損失が増大したり、本件のように著名化したことで商標権侵害に問えない可能性もあるため、訴訟、交渉のいずれの対応についても、早期の対応が重要になります。

また、代理店の立場で、商標権侵害のリスクを低減する方策としては、代理店契約を締結する際に、商標権侵害などの費用や手続について言及することが考えられます。この点については、契約締結時に専門家に相談することが好ましいです。

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