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タコの滑り台に著作物性は認められるか?【現役弁理士の事例解説】

デザインに特徴のある実用品を創作してビジネスを展開する場合、著作権法では創作した実用品の模倣を防止することができない場合があります。

今回はタコの滑り台事件という裁判の判決を通して、著作権法による実用品の保護が難しいことについて、解説いたします。

裁判の概要

この裁判では、被告の設計・施工したタコの滑り台が、原告のタコの滑り台に関する著作権を侵害するか否かについて争われました。

本件は、令和3年(2021年)4月に東京地裁で第1審の判決がなされ、同年12月に知財高裁で控訴審の判決がなされています。

判決の概要

判決の概要は、以下の通りです。

  • 請求棄却
  • タコの形状を模した滑り台は、美術の著作物、建築の著作物のいずれにも該当しない。

美術の著作物とは

判決の内容に入る前に、今回の主な争点となっている美術の著作物について、説明いたします。

美術の著作物に関する規定として、著作権法には以下の内容があります。

2条1項1号:著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

10条1項:この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。

同4号:絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

2条2項:この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。

出典:著作権法 | e-Gov法令検索

なお著作権法10条には絵画、版画、彫刻が美術の著作物として規定されていますが、他の物でも、美術の著作物として扱われることがあります。例えば過去の裁判では、幼児用の椅子についても、美術の著作物として認定されたことがあります(TRIPP TRAPP事件控訴審)。

また2条2項で触れられている、美術工芸品がどのようなものであるか、については著作権法上では規定されていません。一般的には、対象物が「実用品であるものの、主として鑑賞を目的とする」ものである場合に美術工芸品に該当する、と考えます。

応用美術とは

法律上は定義されていませんが、著作権の実務では、実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されている美的創作物を応用美術とし、著作権の保護対象とするシーンがあります。

ただ応用美術は、実用に供され、あるいは産業上利用される予定がある、という性格上、たいていの場合は意匠法による保護を受けることができます。

このような背景があるため、応用美術の著作物性については意匠法と著作権法の重複適用をどの程度認めるか、という観点から、その解釈が分かれています。

応用美術の解釈

応用美術の著作物性については、以下の説に基づく解釈があります。

  • 分離把握可能性説
  • 無制限説

分離把握可能説とは、対象物が工業製品であっても、実用的な機能と分離して把握することができ、美術鑑賞の対象となる美的特性を備えている場合には、著作物性を有する、とする説です。

言い換えれば分離把握可能説とは、応用美術は意匠法によって保護され得るため、著作権法による応用美術の保護には一定の制限を設けるべき、という立場の説です。

一方の無制限説とは、対象物の表現態様も多様であるから、一律に高い創作性を設定せず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討することで、著作物性を検討すべきである、とする説です。

つまり無制限説とは、意匠法によって保護され得ることを根拠として、応用美術のみ他の著作物より著作物性の認定を厳格にする、という特別扱いは不要だと考える説です。

近年の応用美術に関する裁判では、分離把握可能性説を採用している判決が多いですが、TRIPP TRAPP事件控訴審においては、無制限説が採用されています。

判決の争点1:本件原告滑り台が美術の著作物に該当するか

次に、今回ご紹介するタコの滑り台事件の争点について、説明します。

今回のタコの滑り台事件では、タコの滑り台が美術の著作物に該当するか、建築の著作物に該当するか、という2点が争点になりました。まず美術の著作物に該当するか否かについて、説明いたします。

結論から言うと、タコの滑り台は美術の著作物に該当しません。

「美術の著作物」にならない理由

前提として今回の判決では、原告滑り台は一般的な芸術作品のような展示を目的とするものではなく、遊具として実用に供されることを目的とするものであると認定されています。そのうえで原告滑り台が応用美術に該当するか否かについて検討しています。

今回の判決では、分離把握可能説に基づいて応用美術の著作物性が判断されました。

ここではタコの滑り台の要素ごとに、遊具としての実用的な機能を認定したうえで、著作物性=創作性を判断されたか確認していきましょう。

  • タコの頭部を模した部分に設置された各開口部
    →滑り降りるためのスライダー等を接続するために不可欠な構造。滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成であるため、著作物性はないと認定
  • タコの頭部を模した部分に設置された空洞
    →利用者が、各開口部からスライダーへ移動するために必要な構造。高い箇所にある踊り場の床からの落下防止という機能もある。滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成であるため、著作物性はないと認定
  • 空洞のうち、スライダーが接続された開口部の上部に配置された略半球状の天蓋部分
    滑り台としての実用目的を達成するために必要な構成とはいえないと認定。しかし天蓋部分の形状は単純なものであり、タコの頭部の形状としても、ありふれたものであるため、美的特性である創作的表現を備えているものとは認められない。
  • タコの足を模した部分
    →座って滑走する遊具としての利用のために必要な構成なので、著作物性はないと認定

以上より、タコの滑り台については、タコ頭部の天蓋部分については著作物性を判断する対象とはなるものの、創作的表現を備えていないため、著作物性は認められませんでした。

判決の争点2:本件原告滑り台が建築の著作物に該当するか

次に、タコの滑り台が建築の著作物に該当するか否かについて、説明いたします。こちらも結論としては「タコの滑り台は、建築の著作物に該当しません」になります。

「建築の著作物」にならない理由

まず念のため、タコの滑り台が著作権法上の建築に該当するか、確認します。

建築物は法律的に言うと「土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)」と規定されています。タコの滑り台もこの規定に該当するため、法律上の建物と定義できます。

次に問題となるのは、著作物性の判断基準がどこにあるかです。

今回の判決において、建築の著作物は実用性を有していて、かつ美的要素も有するため、建築の著作物における著作物性の判断基準は、応用美術と同様になると認定しています。 

先ほど解説したように、本件では応用美術の著作物性の有無を、分離把握可能性説に基づいて判断しています。

そしてタコの滑り台は、建築物としての実用目的を達成するために必要な機能を作る構成と分離して、美術鑑賞の対象となり得る美的特性がある部分を把握できないため、建築の著作物とは認められませんでした。

現役弁理士からのひとこと

今回の裁判では、タコの滑り台が応用美術に該当しないため、著作権法による保護を受けることができないとの判決がなされました。

実用品について特徴のあるデザインなどを創作した場合、著作権法による保護は認められない可能性があるという点で、リスクがあります。

そのため、このような実用品についてはまず、意匠権の取得による保護を検討し、意匠権の取得が困難な場合に、著作権による保護を検討することが好ましいです。

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