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世界一の技術を守るために。東京都知的財産総合センターの仕事と知財の課題 【インタビュー】

特許や商標なんかを活用して自社技術・自社ブランドを守りたいけど、どうすればいいか分からない…

いきなり「警告書」が届いた!どうすればいいか分からなくて困ってる…

こういった知財の困りごとがあったときに頼れるのが「東京都知的財産総合センター」。

今回は、中小企業を知財面から手厚くサポートしてくれる「東京都知的財産総合センター」に事業内容や仕事について、業界の課題など様々なお話を伺ってきました。

知財センターについて

――ではまず初めに、「東京都知的財産総合センター」がどんなことをやっている場所なのか、教えていただきたいと思います。

荒井所長(以下、荒井):基本的には、相談業務をはじめとして7つの事業を行っています。詳しい内容は後ほどお話ししますが、都内の中小企業の皆様に対して、ごく一部を除き無料で実施しています。

メインで行っているのは相談事業です。

この相談事業は、大企業の知的財産部出身のアドバイザーを中心に、必要に応じて弁理士、弁護士の先生方に同席していただいております。

――どんな相談が持ち込まれるのですか?

荒井:件数としては年間で7,000件ほどになります。比率で言いますと、特許が多く42%、次が商標で31%、意匠10%、著作権7%と続いていきます。

ちなみに国の機関であるINPIT(インピット、独立行政法人 工業所有権情報・研修館)も知財支援業務を行っているのですが、こちらは商標が多く70%弱を占めるそうです。

相談内容で言いますと、権利化が50%、知財管理に関しては15%程度です。最近は契約関係の相談が多く11%と増えてきています。ほかには係争のご相談もありますね。

――産業技術総合研究所から情報流出した技術が中国で特許化された件や、ゲーム「ウマ娘」をめぐる特許訴訟など、最近はなにかと知財が話題になるニュースを耳にします。こういったタイミングで、相談が増えたりなどはするのでしょうか。

荒井:ニュースをきっかけに相談件数が変動する、といったことはあまりないです。

ですが相談の中で、「こういった記事が新聞に出てましたね」、と話題に出したりはします。

――貴センターを利用できるのは、東京都にある中小企業のみですよね。それ以外の、他県の企業などが使える相談先があればぜひ教えてもらいたいです。

荒井:先ほど話題に出たINPITが各県に相談窓口を設置しています。INPITの公式ホームページから詳細が確認できるので、ぜひ問い合わせてみてください。

また都内に支店等がある企業であれば、当センターをご利用いただけます。

毎年改訂される、超立派なマニュアルの活用方法

――では2つ目として、どんな事業を行っていますか?

荒井:セミナーやシンポジウムなど、普及啓発事業です。

セミナーは年間50本以上。基礎から中級、上級まであって、色々なテーマで開催しています。

シンポジウムは年に1回、その時代時代の流行りや注目点を題材にして、基調講演やパネルディスカッションを行っています。

それからここで、3つ目の事業であるマニュアルについてもお話ししますね。

――ホームページを拝見しましたが、とても立派なマニュアルが何個もありますよね!

荒井:マニュアルは全部で11種類ありまして、過去20年間の業務で蓄積された知見をもとに作成しました。毎年改訂しながら使っています。

◆知的財産マニュアル

――個人的にも、このマニュアルは中身の充実度・分かりやすさ共にピカイチだと感じました。もしこのマニュアルの活用方法があれば、教えてほしいです。

荒井:私達自身は、相談者へ「ここに書いているから、こうしたほうが良いですよ」と説明する際に利用しています。

また先ほど申しましたように、このマニュアルは、手前味噌ながら非常に充実した内容になっていると思います。どれもホームページから無料でダウンロードできるので、中小企業の皆様、それから大企業の方、知財業界で働く方々など様々な方にダウンロードしていただいて、勉強の手引書・困った時のお助け本として使っていただければ嬉しいです。

助成金、知財活用支援も充実

――知財タイムズの記事でも紹介しておりますが、貴センターは助成金事業も充実してらっしゃいますよね。

荒井:特に外国での事業活動に対応した助成金は、特許、実用新案、意匠、商標、著作権、各種調査、海外商標(冒認出願)対策、グローバルニッチトップと、幅広いラインナップを揃えています。

それから我々が今、力を入れていることとして、知的財産戦略導入支援があります。いくつかあるのですが、最近ですと「知的財産人材育成スクール」というものをはじめました。

◆知的財産人材育成スクール(Facebook)

――このスクールでは、どんなことが学べるのでしょう?

荒井:知財戦略の策定・実行に必要な知識が習得できます。スクールは初級と上級レベルに分かれています。

――ほかの知財戦略支援についても教えてください。

荒井:例えばスタートアップ企業向けに、知財戦略策定から知的財産権取得まで、色々な支援を行っています。

荒井:少しレベルの高いものとして、ニッチトップ育成支援という事業も行っています。これは月1回程度、アドバイザーが企業を継続的に訪問して色々な知財教育や知財戦略などを支援します。支援期間は3年です。

特徴的なものとしては、研究会も挙げられるでしょうか。

中小企業の経営者や知財担当者の方に参加していただいて、情報交換や情報共有をするための場として「知的財産交流・研究会」を設けています。特定のテーマについて議論をすることもあります。

また当センターでは知的財産活用製品化支援という、製品化のサポートも行っています。

これは大企業や大学、研究機関の開放特許を活用して中小企業の新製品開発を支援する事業で、中小企業と大企業、大学、研究機関のマッチングなどを行っています。

技術の流出防止も大切な事業

――ホームページでは技術流出についてのページも充実しているようですが、この点については、どんな取り組みをされているのでしょう。

荒井:中小企業の方々は、自分たちの持っている技術の重要性に気付いていないことが多いです。

しかし、その技術を狙ってスパイ的な活動が行われていることも事実です。

ですから中小企業でも技術流出リスクがあること、そしてその流出によって利益が損なわれてしまうことを普及啓発しています。

――最近は知財戦略の部分に力を入れていらっしゃるとのことですが、なぜ「知財戦略」なのですか?

荒井:中小企業は数が多く、多種多様です。けれどもその中で、知的財産の重要性を認識されている経営者の方は非常に少ないという問題があります。

ですので、少しずつでも知財の重要性や、知財=企業戦略に資するもの(利益の源泉)であるということを普及啓発しています。

もちろん日々の相談でもアドバイスすることはありますが、知財戦略はじっくり取り組むことが重要なので、先ほどご紹介した事業を中心に、知財の重要性や戦略策定の仕方を伝えている、という現状につながっています。

知財は「啓蒙」することも大切になってくる

――中小企業の知財を支援していくうえでは「啓蒙」という部分も重要とのことですが、具体的にやっていることや考えていることがあれば、ぜひお聞きしたいです。

荒井:まずはセミナーを中心に、知財の色々なことをご紹介しています。

例えば「営業秘密」も知的財産のひとつになるので、不正競争防止法の中の営業秘密管理についてのセミナーなどを開催しています。

警視庁公安部の方を講師に招き、実際に中小企業の皆様に「外国企業にこんな風に技術を盗まれましたよ」とか、「こんな風に技術が流出しているんですよ」といった事例などを紹介していただくこともあります。

それから、私たちが所属している東京都中小企業振興公社の活動を通じた啓蒙活動も行っています。公社の事業のひとつに定期的な企業訪問があるのですが、その訪問事業に同行し、技術流出の防止が大切だと紹介しながらご理解いただけるよう取組んでいるところです。

――ちなみに、技術流出の実例を紹介したときは皆さんどんな反応をされていますか?

荒井:かなりびっくりされる方が多いです。

中小企業の方は、自分の技術が素晴らしいものだと気付いていないケースが多いので、「そうなんだ…!こんなところからも技術が盗まれているんだ…!」と驚いていらっしゃる方が多いです。

知財センターでの仕事について

――ここからは少し、働いている職員視点でのお話を伺いたいと思います。早速ですが、この職場で仕事をしていて、どんな部分が面白いですか?

荒井:まずはアドバイザーの視点からお話ししてみます。

本当に良かったなと思うのは相談者の方から感謝されるときで、やはりこれが一番嬉しいです。

センターに来る相談の中にはかなり深刻なものも多くあります。侵害警告を受けた、係争に巻き込まれた、自分の特許が無効審判請求された、出願した特許が拒絶査定を受けた…。

色々な難しい問題がありますが、アドバイザーが丁寧に対応して、最終的に良い結果につながり、そのことに対して「ありがとうございました」と感謝の言葉をいただくのが非常に嬉しいですし、やりがいになります。

アドバイザーは大企業の知財部にいた方が多いのですが、大企業だと「出来て当たり前」で、感謝されることはほぼありません。知財センターで感謝されるという経験をすると、皆、嬉しさもひとしおだそうです。

――では、逆にアドバイザーの仕事をしていて大変だと思うのはどんな部分ですか?

荒井:人それぞれに合った対応を心掛けるというのは、やはり大変さを感じる部分があります。知財の知識がほとんどない方も多いので、そういった部分にも大変さを感じる時があります。

大切なのはお客様と視線を同じ高さにして、何に悩んでいるのかを引き出すことだと思っています。これは、大変だけれども相談業務の最大のポイントで、面白さと大変さを内包している部分だと思います。

ただ、ここまでお話してきたのはアドバイザー視点の内容なので、事務職員視点となるとまた見え方が変わってくると思います。今回は事務スタッフの濱咲を呼んでいるので、事務視点の話は彼に任せたいと思います。

濱咲さん(以下、濱咲):東京都知的財産総合センターで事務を担当している濱咲です。今日はよろしくお願いします。

――よろしくお願いします!早速ですが、事務職の仕事の面白い部分をお聞きしたいと思います。

濱咲:まず私たちは東京都中小企業振興公社という団体の職員で、事務担当者は2~3年ごとに部署をローテーションしています。そのローテーションの中で、現在は知財センターで働いています。

組織自体は、東京都内の中小企業の経営支援をしているのですが、そのなかで通常、知的財産を通じた支援にはなかなか携わる機会がありません。

ですのでこういう部署に所属することによって、自分たちも知的財産への知見を深めることができたり、専門家と一緒に企業の悩み事を聞きながら提案ができたりするのは貴重な機会で、自身の成長にもつながっているなと感じます。

――では事務担当として大変だ、と感じるのはどんなときですか?

濱咲:先ほど紹介があった7つの事業を、アドバイザー含め60名ほどの組織をマネジメントしながら、毎年の目標の着実な達成に向けて推し進めていくというのは、大変さとやりがいを感じます。

今、知財業界にある課題とは

――メイン業務である相談をしていると、色々なことに気付くかと思いますが、今の知財業界にはどんな課題があると思いますか?

荒井:私自身は、まず中小企業の経営者の方が知財の重要性を認識していらっしゃらないのが根本的な問題だと思っています。

それに対し、どうやって当センターの知名度をあげるかが、我々の課題だと感じています。

このほか、知財業界全体の課題も色々と感じています。

詳しくは内閣府の知的財産戦略本部へ提出した「『知的財産推進計画 2023』の策定に向けた意見」にまとめています。本年6月9日に同本部が公表した「意見募集の結果について」に掲載されていますので、ぜひこちらもご覧いただければと思います。

――具体例にはどんな意見を送られたのですか?

荒井:3つほどご紹介します。

まずは契約の問題です。先ほど契約関係のご相談が増えてきているとお話ししましたが、中小企業が不利になるような不平等契約になっているものがあるので、これは是正するべきだと考えています。

二つ目は、いわゆる「一人事務所」に関連した問題です。特許出願をする際には代理人として弁理士を立てるのが一般的ですが、中には高齢の弁理士の先生が一人で経営されている特許事務所があります。

この先生が倒れてしまうと出願手続きが先に進まなくなってしまい、実際、当センターにも相談が持ち込まれた事例があります。

ですので、こういった「一人事務所」へのバックアップやフォローというものが必要だと考えています。

三つめは海外展開への対応です。最近の中小企業は、海外を視野に入れて戦略を立てる場合があります。そうすると、どうしても海外への出願が必要です。

しかし海外で「使える特許」を取得するには、知識や実務経験が欠かせません。そうでないと、権利範囲が狭くなったり、余計なお金がかかったりと、様々な問題が起きてしまいます。

こういった知識・経験部分にも改善が必要だと思っています。

最後に

――最後に、中小企業の方々に向けてメッセージをお願いします。荒井様と濱咲様、それから本日ご同席くださっている田村様からも一言お願いいたします!

田村さん:東京都知的財産総合センターの田村です。当センターは20年ほど活動してきて、相談件数が増えたり、助成金の数が増えたり、スタートアップに特化した支援をしたりと、国に先駆けて色々とやってきました。ですから一定のお役には立てると思っています!

また知財というのは研究開発から営業活動、総務事務など、会社の幅広い場面で関わってくるものです。ですから皆さんにもぜひ知財を、そして当センターを活用していただければと思っています。

濱咲:知的財産は決して「コスト」ではなく、大事な「経営資源」のひとつです。日々の企業活動の中で、必ずなんらかの知財は生まれてくるものだし、一方で他社の知財を意識する必要があります。

当センターには良い人材が揃っていますので、ぜひ頼っていただけたらと思います。

中には既に専門家と契約している企業の方もいらっしゃるかと思いますが、そういった方もセカンドオピニオンとして当センターを頼ってもらう選択肢がありますし、きっと良い解決策が見つかると思っています。

荒井:私からは2つのことをお伝えしたいと思います。

まず中小企業の皆様!あなた方の技術は世界一です。それを活用して、会社の利益につなげていきましょう!

そしてぜひ気軽に相談に来てください!

話しているうちに、新しい切り口や課題が見えてくるのは、よくあることです。

時には雑談のような形になるかもしれませんが、アドバイザーと話しながら次の道を見つけていっていただけたらと思っています!

――東京都知的財産総合センターの皆様、本日はありがとうございました!

【東京都知的財産総合センター 概要】

名称:東京都知的財産総合センター

本部住所:〒110-0016 東京都台東区台東1-3-5 反町商事ビル1F

電話番号:03-3832-3656

公式ホームページ:https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/

紹介動画:https://youtu.be/UQuH5xqr0bE

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