鉄道には”知財”が詰まっている!車両から駅設備まで、様々な知財について紹介します【身近な知財】
鉄道を取り巻く技術としては、車両や運行システム、線路の保守や、ホームの設備などがあります。また、鉄道会社によっては観光に力を入れたビジネスを展開している会社もあります。
今回は、リニアモーターカーの意匠、ホームドアと保線に関する特許、上野駅の駅舎の意匠、TRAIN SUITE 四季島の商標について紹介します。
新技術を導入した車両や、斬新なデザインを施した駅舎だけでなく、鉄道に関する様々な物が知財で保護されていることを、お伝えできれば幸いです。
リニアモーターカーの意匠
まずはリニアに関する知財を取り上げます。
リニアモーターカーは超電導磁石の磁力を利用して車両を浮上させることにより、従来の鉄道にない高速走行を実現しています。そのため、リニアモーターカーに関する特許や意匠は多数出願されています。今回はその中で、リニアモーターカーの形状を保護する意匠について、紹介します。
リニアモーターカーの意匠は、時代と共に変化しています。初期のリニアモーターカーの意匠は、平成5年(1993年)に登録されています。
平成5年に登録されている意匠は、大きく分けて、次の2種類があります。いずれの意匠権も、三菱重工業株式会社と東海旅客鉄道株式会社(JR東海)とが共有していましたが、既に権利は消滅しています。
意匠登録0888968-0888972(下の図は、意匠登録0888968の意匠です)
意匠登録0893452
リニアモーターカーの意匠は、その後平成13年から14年(2001年から2002年)にかけて、6件登録されています(意匠登録1123792、1145886-1145890)。これらの意匠権も三菱重工業株式会社と東海旅客鉄道株式会社(JR東海)とが共有していましたが、既に権利は消滅しています。
意匠登録1145890の図↓
JR東海は、その後単独で平成22年(2010年)に2件(意匠登録1399713,1399951)、令和元年(2019年)に2件(意匠登録1643393,1649514)の意匠登録を受けています。これらの意匠権のうち、意匠登録1399951は既に年金不納により消滅していますが、他の3件の意匠権は現在も存続中です。
意匠登録1643393の図↓
ちなみに車両の先端部分が変化していく理由のひとつとして、空気抵抗を減らし消費電力や車外騒音を低減するため、というものが挙げられます。
ホームドアに関する特許
ホームドアに関する特許も、リニアモーターカーと同様に多数出願されています。電車のホームドアには、自動ドアのように左右に開くタイプや、乗降時はロープが上下するタイプなど、様々です。
その中でも今回は、電車が到着すると柵が沈むホームドアの特許について紹介します。
「沈む」ホームドア、近鉄が開発中 多彩な車両に対応可:朝日新聞デジタル
特許番号:特許第6716736
特許権者:近畿日本鉄道株式会社と、大阪車輌工業株式会社と、近鉄車両エンジニアリング株式会社の共有
登録日:令和2年(2020年)6月12日
権利の状態:存続中
この発明は、プラットホームにおける停止位置や乗降位置が異なる車両の入線に対応しながら、待避スペースへの移動の妨げになることを回避することを目的としています。
そしてこの発明は、待避用ドア体210の開放手段215,216,221が、幕部220の一端部を昇降フレーム部211の上縁部に固定し、且つ、幕部220の他端部を床部31またはその近傍の所定位置に固定する固定手段215,216を有する点に進歩性が認められて特許されています。
駅舎の意匠
駅舎などの建築物については、令和2年の法改正で新たに意匠登録をすることが可能になりました。JR東日本は、この令和2年改正の意匠法に基づいて、上野駅の新しい駅舎について意匠登録を受けています。
登録番号:第1671774
意匠権者:東日本旅客鉄道株式会社
登録日:令和2年(2020年)10月15日
権利の状態:存続中
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枕木締結具の特許
鉄道の保守に関する特許も多数出願されています。今回は、一例として、枕木締結具の特許を紹介します。
特許番号:特許第6615568
特許権者:東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)
登録日:令和1年(2019年)11月15日
権利の状態:存続中
この発明は、枕木と橋桁との強固な締結を得ると共に、メンテナンスの軽減化を図ることを目的としています。そしてこの発明は、以下の点に進歩性が認められて特許にされています。
- 複数の枕木110にそれぞれ固定可能であり、且つ継材30との間に橋桁120のエッジ部S1,S2を上下方向から挟むように継材30と締結することが可能な複数の定着手段を有する。
- 定着手段として、橋桁120の長手方向における枕木110の一方の面と反対の面とにそれぞれ配置される2つの定着プレート10,20と、枕木110を貫通して2つの定着プレート10,20を結び付けるボルト33とを有している。
- 2つの定着プレート10,20がボルト33の締め付けにより枕木110を挟み込むように構成されている
観光列車に関する商標
鉄道の中には、海や山などの自然の中をゆっくり走る観光列車も運行されています。今回は、この観光列車に関する商標について紹介します。
登録番号:第5755771号
商標権者:東日本旅客鉄道株式会社
登録日:平成27(2015)年 4月 3日
権利の状態:存続中
商標:
この登録商標の主な指定商品は、電気通信機械器具等(第9類),キーホルダー・時計等(第14類)、文房具等(第16類)、カバン類(第18類)、食器類(第21類)、織物製テーブルナプキン(第24類)、ネクタイ等(第25類)、おもちゃ等(第28類)、茶等(第30類)、果実飲料等(第32類)、日本酒等(第33類)、トレーディングスタンプの発行等(第35類)、鉄道による輸送等(第39類)、飲食物の提供等(第43類)です。
したがって、この登録商標は、鉄道による輸送の他、様々なグッズについても使用されることを意味しています。そして、実際に、この登録商標を使用したグッズが商標権者であるJR東日本にて販売されています。
オリジナル商品のご案内 | TRAIN SUITE 四季島 | JR東日本
ちなみにJRの観光列車がすべて商標登録されている、というわけではありません。「フルーティアふくしま」「リゾートしらかみ」など、商標登録されていない観光列車も意外とあります。
電車の警笛音を商標登録できる?
音については、平成27年の法改正で新たに商標登録を受けることが可能になりました。そして、この音商標で、電車の警笛音を保護しようと商標登録出願をした事案がありました。
名鉄、電車の警笛音を商標出願!特許庁「初めてのケースです…」
出願番号:商願2016-3598
出願日:平成28(2016)年 1月 14日
商標
指定商品:電子出版物等(第9類)、キーホルダー・時計(第14類)、かばん類・袋物(第18類)、遊戯用器具等(第28類)、鉄道による輸送(第39類)
しかし、この出願は音だけの商標であったこともあり、自己の商品と他人の商品との識別性(商標法第3条)がないとの理由で、登録が認められませんでした。
ちなみにこういった警笛音は「ミュージックホーン」として鉄道ファンの間では一定の人気があり、YoutTubeなどにも動画が上がっています。
特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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