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営業秘密の漏洩が刑事罰の対象になる?実際に起きた事案と刑事罰の可能性について検討します

2026年になり、営業秘密の漏洩に関する事案が複数ありました。

明治安田生命、無断で情報持ち出し39件 出向先の4金融機関から:朝日新聞

工作機械巡りスパイか ロシア政府元職員ら 警視庁、容疑で書類送検 – 日本経済新聞

これらの事案では、いずれも、情報の持ち出しが不正競争防止法上の不正競争に該当するか、という点が問題点となっています。そこで、今回は情報の持ち出しと不正競争の関係について解説したうえで、これらの事案と刑事罰(不正競争防止法上の刑事罰)との関係性について、検討します。

営業秘密の漏洩に関する事案

営業秘密の漏洩に関する事案は、今回紹介する2件に限られず、以前から複数ありました。典型的な例としては、競業他社に転職する際に、営業秘密を持ち出した事案などが知られており、この種の事案に対しては、経済産業省からも次のような対応策が公開されています。

最新の営業秘密侵害事例から見えてくる「営業秘密」保護のポイント(PDF形式:961KB)

生命保険会社による営業秘密の持ち出し事案

今回紹介する事案のうち、生命保険会社による営業秘密の持ち出し事案は、明治安田生命保険の社員が、出向先の金融機関から、内部情報を無断で持ち出し、明治安田生命保険の法人営業部門とこの内部情報を共有した、という事案です。また、この内部情報には、保険商品の販売実績や販売マニュアルなども含まれているとのことです。

ロシアへの営業秘密漏洩事案

ロシアへの営業秘密漏洩事案は、工作機械関連会社の元社員が、在日ロシア通商代表部の元職員に、営業秘密を漏らした、という事案です。漏らした営業秘密としては、新商品のアイデアを口頭で漏らした他、製品の取扱説明書、商談資料、社内研修資料等も含まれているとのことです。また、工作機械関連会社の元社員は、報酬として約70万円を受け取っていたとのことです。

この事案では、元社員と元職員の両方に対して、不正競争防止法違反の疑いで書類送検がなされています。

営業秘密とは

営業秘密は、不正競争防止法上、次のように規定されています。

「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動において有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。(不正競争防止法第2条第6項)

不正競争防止法|条文|法令リード

したがって、営業秘密に該当するためには、次の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 秘密として管理されている(秘密管理性)
  2. 有用な技術上又は営業上の情報である(有用性)
  3. 公然と知られていない(非公知性)

営業秘密の3要件

営業秘密の3要件については、こちらのページでも説明していますが、簡単に説明すると、次のようになります。

不正競争防止法で保護される営業秘密について解説します【知財タイムズ】

秘密管理性:秘密管理性の要件では、秘密に管理されていることを従業員が認識していることが重要になります。そのため、ファイルのアクセス制限やパスワードをかける、書類やファイルに「社外秘」等を記載する、等の対応をしていることが要求されます。

有用性:有用性の要件では、技術上の情報や営業上の情報も認められます。また、現状の事業活動に用いられている情報の他、将来の事業活動で用いられる可能性のある情報も認められます。そのため、有用性については、かなり広い範囲で認められる傾向があります。ただし、脱税情報等の公序良俗に関する情報については、有用性の要件を満たさないと判断されます。

非公知性:非公知性の要件では、一般的に知られていないこと、あるいは、容易に知ることができないことが要求されます。

営業秘密に関する不正競争

営業秘密に関する不正競争行為は、不正競争防止法上の民事的措置、刑事的措置の対象となります。営業秘密に関する不正競争については、こちらのページでも説明しています。

不正競争防止法で保護される営業秘密について解説します【知財タイムズ】

不正競争防止法上、営業秘密に関する不正競争としては、7つが規定されています(不正競争防止法第2条第1項第4号~10号)。今回紹介する2件の事案では、これらの規定のうち、第4号の規定が争点となっています。

▶不正競争防止法第2条第1項第4号

4号の不正競争は、不正の手段により営業秘密を取得する行為、又は不正の手段により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為について規定しています。

不正競争防止法|条文|法令リード

不正の手段とは

先ほど紹介した4号には、不正の手段が記されています。不正の手段は、不正競争防止法上、窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段と規定されています。

この不正の目的については、刑罰法規に抵触するような行為、例えば、窃取、詐欺、強迫の他、盗聴や不正アクセスなども含まれると解されています。また、刑罰法規に抵触するとは言えないまでも、社会通念上これと同視しうる程度の高度の違法性も、不正の目的に該当すると解されています。社会通念上これと同視しうる程度がどの程度か、という点については学説によって分かれるところもありますが、民法上の公序良俗(民法第90条)の観点から判断するとする説もあります。

営業秘密漏洩による民事的措置と刑事的措置

営業秘密漏洩による主な民事的措置としては、差止請求と損害賠償請求があります(不正競争防止法第3条、第4条)。

不正競争防止法|条文|法令リード

ただし、営業秘密の不正競争のうち、4号~9号の不正競争については、営業秘密保有者が、不正競争に該当する事実と、不正競争をする者を知った時から3年間を経過すると、差止請求をすることができなくなります(不正競争防止法第15条)

また、営業秘密漏洩による主な刑事的措置としては、懲役又は罰金の刑事罰があります。

営業秘密に関する刑事罰としては、以下の規定がなされています。

  1. 詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、使用し、又は開示した者に対し、10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(不正競争防止法第21条第1項第2号)。
  2. 相手方に日本国外において第21条第1項第2号の罪に当たる使用をする目的があることの情を知って、これらの罪に当たる開示をした者に対し、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(不正競争防止法第21条第3項第2号)。
  3. 日本国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密について、日本国外において第21条第1項第2号の罪に当たる使用をした者に対し、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(不正競争防止法第21条第3項第3号)。

今回の事案の争点

今回紹介する2件の事案は、いずれも不正競争防止法第2条第1項第4号の不正競争に該当するか否か、その中でも、特に不正の手段で営業秘密を取得したか否か、が争点になると思われます。

明治安田生命保険の事案における争点

明治安田生命保険の事案では、内部情報を無断で持ち出し、明治安田生命保険の法人営業部門とこの内部情報を共有したことが不正の手段であるか否かが争点になると考えられます。ニュースの記事では、「明治安田は、組織的な指示はなく、持ち出した情報は出向先の理解を深めるために利用したとし、「営業秘密の侵害」を禁じる不正競争防止法上の問題はなかったと説明した。」と記されていることから、明治安田生命保険は、持ち出した内部情報は、不正の手段で取得したものではない、との認識を有しているものと思われます。

ロシアへの営業秘密漏洩事案における争点

ロシアへの営業秘密漏洩事案では、工作機械関連会社の元社員が、在日ロシア通商代表部の元職員に、営業秘密を漏らしたことが不正の手段であるか否かが争点になると考えられます、本件の場合は、報酬を受け取り、営業秘密を漏洩していることから、不正の手段に該当する可能性が高いと考えられます。また、刑事罰としては、元社員に対して上記①の刑事罰(第21条第1項第2号)、ロシアの元職員に対して上記①から③の刑事罰(第21条第1項第2号、第3項第2号、第3項第3号)が適用される可能性があると考えれらます。

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