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AIで声優に似た声を使うと違法?「声のパブリシティ権」をめぐる東京地裁判決を解説

令和8年9月30日の東京地裁判決(令和7年(ワ)第70635号) で、声もパブリシティ権の保護対象となり得るとの判断がなされました。この訴訟は、声優の津田健次郎が、生成AIで作成された声を用いた投稿記事を削除することを求めた訴訟です。

声の権利については、法務省で、生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針が取りまとめられており、この解釈指針に沿った判決がなされるか否かが注目点となりました。

訴訟の概要

今回の訴訟は、動画投稿サイト「TikTok」に投稿された188件の動画について、ナレーションの声が声優である原告の声に類似しているとして、削除を求めた訴訟です。これらの動画は、都市伝説や心霊現象などの雑学を紹介する内容で、原告は、生成AIによって作成された自身の声に類似する音声がナレーションに使用されていると主張しました。

今回の訴訟では、パブリシティ権の侵害と、不正競争防止法上の営業上の利益の侵害とに基づいて、動画の削除が請求されました。

ただし、原告が訴えた相手(被告)は、動画の投稿者ではなく、TikTokを運営するシンガポール法人「TikTok Pte. Ltd.」です。

争点

この判決の主な争点は、次の3つです。

  • 不正競争防止法に基づく削除請求の可否(争点1)
  • パブリシティ権に基づく削除請求の可否(争点2)
  • 本件各動画が既に削除されたか(争点3)

争点1では、動画の投稿が、不正競争防止法上の不正競争(不正競争2条1項1号、2号)に該当するか、具体的には、津田氏の声が周知・著名の営業表示であるか、動画の投稿が出所混同を生じているか、が主に争われました。

争点2では、①生成AIで作成された声が原告の声を使用していないにも関わらず、パブリシティ権の侵害が成立するか、②声が独立して鑑賞させる場合だけでなく、商品の差別化や広告に相当する目的で声を利用する場合にも、パブリシティ権の侵害が成立するか、が主に争われました。

争点3では、本件のアカウント削除によって、本件各動画のデータが削除されたかと言えるのか否か、について主に争われました。

判決

判決は、訴訟の口頭弁論終結時までに、動画の投稿が削除されているため、仮に被告に削除義務が生じ得るとしても、削除の義務を負わないとして、棄却判決がなされました。その一方で、今回の判決では、パブリシティ権に関して注目すべき事項が示されているため、紹介します。

判決で示された事項

今回の判決では、声の権利がパブリシティ権*の保護対象となり得ることが示されています。この点について、判決文は以下のように述べています。

「パブリシティ権に基づく削除請求の可否(争点2)に関し、人の声は、人の肖像と同様に個人の人格の象徴であるということができるところ、例えば実演家の声等を無断で使用する行為は、その声が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有するといえる場合であって、その声を使用する行為が専らその声の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえるときは、パブリシティ権の侵害に当たると解するのが相当であるといえる。」

ただし、今回の判決では、投稿された声がパブリシティ権の侵害に該当するか否かについての判断はなされていません。

* パブリシティ権とは、氏名や肖像などが持つ、商品やサービスに人を引き付ける力(顧客吸引力)を、一定の条件の下で保護する権利です。 

判決で示されていない事項

まず、先ほど述べたように、今回の判決では、投稿された声がパブリシティ権の侵害に該当するか否かについての判断はなされていません。そのため、投稿された動画の声と津田氏の声の類否(低音の響きや、抑揚など)や、商品の差別化や広告に相当する目的で声を利用する場合にも、パブリシティ権の侵害が成立するのか、という点については判断されていません。

また、既に投稿された動画が削除されているため、この動画の声が不正競争防止法に該当するか否かについても、判断はなされていません。

さらに、動画投稿サイトを運営する法人に、削除義務があるか否かについても、判断はなされていません。

判決と法務省指針との対比

法務省は、2026年8月7日、生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針を含む報告書を公表しました。その後、同年9月30日に本判決が言い渡され、法務省は同年10月22日、本判決の内容を追記した第1.1版を公表しました。

本判決は、人の声も肖像と同様に個人の人格の象徴であり、その声が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有し、かつ、その声の使用が専ら当該顧客吸引力の利用を目的とする場合には、パブリシティ権侵害が成立し得るとの一般論を示しました。

この考え方は、法務省の解釈指針が示す基本的な考え方と共通するものです。また、「専ら顧客吸引力の利用を目的とする」という判断基準については、最高裁平成24年2月2日判決(ピンク・レディー事件)で示されたパブリシティ権の判断枠組みが基礎となっています。

ただし、本判決では、対象となったAI音声がパブリシティ権侵害に該当するか否かについて、具体的な判断は示されていません。したがって、本判決をもって、特定の人物に類似するAI音声の利用が一般的に違法であると判断されたものと理解することは適切ではありません。

企業が注意する点

企業が注意すべき点は、声優本人の音声を直接使用していない場合であっても、生成AIによって特定の声優に類似する音声を作成し、商用利用する行為について、パブリシティ権侵害が問題となり得ることです。

例えば、有名な声優に似せたAI音声を用いて、自社製品を紹介する動画や企業PR動画を制作・公開する場合には、その声の顧客吸引力を利用する目的があるかなどが問題となる可能性があります。

もっとも、本判決では、第三者の声をAI加工した音声が当該声優の声を使用する行為に当たるか、また、当該音声の使用がパブリシティ権侵害の要件を満たすかについて、具体的な判断は示されていません。したがって、特定の声優に似た音声を利用したことのみをもって、直ちにパブリシティ権侵害が成立すると解することはできません。

企業がAI音声を広告・宣伝等に利用する際には、特定の実在人物を想起させる音声であるか、その人物の顧客吸引力を利用する目的があるか、利用方法がどのようなものかなどを総合的に検討する必要があります。

また、リスクを低減するため、本人または適切な権利者から、利用目的、利用媒体、利用期間、AIによる音声生成・加工の可否などに応じた許諾を得ることを検討すべきです。

運営会社が注意する点

今回の訴訟では、原告は、対象となる動画を削除することによって保護される法的利益が、被告が当該動画を一般の閲覧者に提供し続ける利益に優越すると主張し、動画投稿サイトの運営会社は動画を削除する義務を負うと主張しました。

しかし、本判決では、この点について具体的な判断を示していません。

そのため、動画投稿サイトやSNS等の運営会社は、権利者からの削除要請を受け付ける窓口を整備するとともに、申立ての内容を確認し、必要な調査を行い、削除等の措置を判断するための社内手続を整備することが望まれます。

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