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企業価値向上に資する知財活用事例!中小企業の活動ポイントを企業知財部の目線で解説! -Vol. 2-

前回は特許庁から発行された「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」の背景事情や本事例集のエグゼクティブサマリーについて解説し、特に中小企業やベンチャーの参考となる活動ポイントを紹介しました。

今回は個別企業の活動事例を説明しますので、自社にも導入できそうな活動か具体的にイメージしやすいと思います。特に、DX(デジタルトランスフォーメーション)、カーボンニュートラル、SDGs、IPランドスケープといった新しい取り組みをしている事例を解説しますので、ぜひ参考にしてください!

<この記事でわかること>
・「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」の概要
・中小企業におすすめの知財活動事例3選!

(執筆:知財部の小倉さん

特許事務所・知財部の専門求人サイト「知財HR」

「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」のおさらい

まず、「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」の概要について簡単に紹介します。特許庁が本事例集を発行した詳細な経緯については、以下の記事をご参照ください。

→ 企業価値向上に資する知財活用事例!中小企業の活動ポイントを企業知財部の目線で解説!

目的は経営と知財との距離を近づけること!

特許庁が令和2年に行った企業アンケートの結果から「知財が経営に貢献していない」、「経営層が知財を重視していない」との回答が得られ、知的財産を活用した企業経営は、まだ十分に浸透しているとは言えない状況が分かりました。

さらに、2021年6月にコーポレートガバナンス・コード(CGコード)が改訂され、知財・無形資産の投資や活用の重要性も高まってきたため、特許庁が知財部門や経営層にヒアリングを行い、以下のコンセプトに基づいて本事例集が作成されました。

出典:企業価値向上に資する知的財産活用事例集(特許庁)

知財部門と経営層とのコミュニケーションを実現するには?

本事例集は、経営層が知財部門を活用して頼りにし、知財部門が経営層に働きかけができるような企業風土を獲得した企業、もしくは獲得に向けて前進をしている企業を対象にヒアリングをして作成されました。

そして上記対象企業において、知財部門と経営層との間のコミュニケーションが実現できている背景として以下の点が分かりました。

  • 経営層が企業や事業の成長戦略との関係で知的財産の役割や事業への貢献を理解している。
  • 知財部門が経営層の思い描く企業や事業の将来像(To be)を現状(As is)との対比において理解している。

そこで、本事例集は上記コミュニケーションに加え、CGコードの改訂に関連して情報開示についても掲載し、以下の読者を想定して作成されました。

出典:企業価値向上に資する知的財産活用事例集(特許庁)

中小企業におすすめの知財活動事例3選!

大企業の事例ではありますが、SDGsやカーボンニュートラルなど最近の世界動向に対応した知財活動事例を紹介します。中小企業でも活動を部分的に取り入れることで、外部からの評価アップにつながると思いますので参考にしてみてください。

事例1:ソニーグループ株式会社「共感と共創を通じてSDGsに貢献」

ソニーグループ株式会社は、知財部門が主体となり新素材「トリポーラス」のライセンス事業を2019年1月に開始しました。

「トリポーラス」は、余剰バイオマスである籾殻(もみがら)を原料とし、水や空気の浄化などの分野での応用が期待される素材です。

出典:企業価値向上に資する知的財産活用事例集(特許庁)

経営上の課題として、クリーンエネルギーの利用や生物多様性への配慮、環境負荷低減の工夫などに対して、自社のみで完結するのでなく、オープンイノベーションを推進して多様な企業と新たな価値を生み出すことの必要性が高まっています。

そこで、トリポーラスについて事業パートナーを募り、オープンイノベーションにより事業化を進めることとしました。2019年1月からトリポーラスの事業を開始し、一つ一つのパートナー企業との協業を大切にスモール・サクセスを積み重ねていくことで、事業拡大に向けた連鎖を起こしていくという方針で進めています。

トリポーラスの情報発信についてはパートナー企業と協力して行い、パートナー企業の商品の訴求力や信頼性の向上につなげつつ、トリポーラスブランドの一般への認知を高めています。

出典:企業価値向上に資する知的財産活用事例集(特許庁)

知財戦略は知財ミックスであり、特許でトリポーラスの技術、商標でブランドロゴを保護しています。さらに、客観的な評価データを大学などの研究機関から得ることで環境価値を裏付けています。さらに、このような商品を所有・利用することが余剰バイオマスの活用につながるというストーリーで、消費者による環境への貢献を意識した戦略をとっています。

出典:企業価値向上に資する知的財産活用事例集(特許庁)

トリポーラス事業は、ソニーグループ株式会社では既存の事業部門がなく、知財権のライセンスが主体の事業です。そのため、知財部門が事業責任を持って担当しています。知財部門が持っている「トリポーラスを用いて地球環境の改善に貢献したい」という思いを、パートナー企業にも共感してもらい、共に実現していくことで、経営層にも共感が広がっています。

ステークスホルダーに対しては、ESG説明会でトップマネジメントがトリポーラスを使った素材の服を着て登場してアピールしています。また、トリポーラス公式サイトを立ち上げ、パートナー企業の商品も紹介することでトリポーラスの普及に努めています。

事例2:株式会社 ゼンリン「地図情報の早期デジタル化で顧客のDXに貢献」

株式会社ゼンリンは長年の地図情報の持続的な蓄積と更新をベースに、住宅地図をはじめ、自動運転などの様々な応用分野に向けた地図情報の提供を通じて社会に貢献しています。

同社は住宅地図を皮切りに1980年頃からデジタル化に着手し、いち早く住宅地図データのデータベース化に成功しました。

近年、様々なものがつながるネットワーク社会が進展しており、同社が顧客に提供する地図についても質と量の最適化が求められています。これまで、同社のビジネスはBtoBが中心でしたが、BtoCなど新たな領域での地図の用途を開拓していくことが課題となっています。

従来はカーナビや住宅地図など顧客のニーズに応じた最適な地図データを提供することで、顧客のDXに貢献していました。今後は、同社が顧客の課題を積極的に見つけ出し、新しい事業につなげています。

出典:企業価値向上に資する知的財産活用事例集(特許庁)

知財戦略としては、事業部門・開発部門・知財部門との連携を重要視しており、新規事業の場合には構想段階から知財部門が関与し、事業モデル自体の特許出願の可能性や、ネーミングやブランド戦略の観点で適切にアドバイスを行っています。

また、地図データそのものは特許権として保護できないため、地図情報のデータ化やデータ活用に関するノウハウの蓄積を重要視しています。また、自動運転など地図データに連動する制御に関しては特許出願をして、ノウハウと特許出願の知財ミックスに取り組んでいます。

また、新しいニーズを掘り起こすため、IPランドスケープにも取り組んでいます。

また、社内のコミュニケーションについては、事業部門の商品開発と連動して、知財部門は事業部門のリーダーとコミュニケーションを密にしています。新商品をリリースする際には、事業部門が知財部門と商標や意匠などを含めた確認をした上で、事業部門が経営会議に諮り、経営層の承認を得ています。

ステークホルダーへの開示については、サステナビリティへの取組の一環として、地図データとそれに関わる研究開発の戦略や方向性などを開示していくことを考えています。また、ホームページで、自動運転関連の同社が保有する日米の特許権の特許番号を開示することで、顧客に対して特許に関する安心感を与え、信頼を獲得することを意識しています。

事例3:株式会社 デンソー「カーボンニュートラルの推進と業績向上の両立」

株式会社デンソーは、カーボンニュートラルの推進と業績向上の両立を目指し、事業ポートフォリオの組み替えを加速する中、CASE領域の成長領域を拡大させています。具体的には、内燃機関などの成熟領域をスリム化しつつ、電動化、自動運転などの成長領域を拡大させています。

出典:企業価値向上に資する知的財産活用事例集(特許庁)

同社は技術開発を加速させ、「モビリティ製品によるCO₂削減」、「モノづくりでのCO₂排出ゼロ」、「生活におけるエネルギー利用時のCO₂排出ゼロ」といった幅広い領域において、カーボンニュートラル社会の実現に貢献できるよう、サプライチェーン全体で連携して取組を続けています。

知財戦略としては、「技術開発の流れに沿った着実かつスピーディな知財活動」を推進しており、現場主導の知財推進体制とすることで開発と一体となる知財活動が可能となり、環境変化の中で機動的な動きを実現しています。

出典:企業価値向上に資する知的財産活用事例集(特許庁)

また、組織連携体制については、知財部門が専門家としてのコンサルティング機能だけでなく、事業部門間の横串機能を担っています。特定のプロジェクトについては、各部署の特許専任者と特許担当者がワーキンググループを結成し、一体となって開発における知財活動を推進しています。

出典:企業価値向上に資する知的財産活用事例集(特許庁)

同社のトップは、他社の技術を回避しつつ自社のオリジナリティを出してきた経験から、知財活動を重視するマインドを持っています。また、知財部門から経営層に「投資家にとって知財情報が重要である」など情報やデータのインプットを様々なシーンで行っているようです。

また、顧客や投資家に知財戦略を分かりやすく訴求するため、経営企画部門と連携して確認したストーリーに沿った知財情報の開示の準備を行っています。

また、統合報告書2021では、同社の知財戦略の推進やグローバル知財体制の強化の方針、特許出願件数や特許保有件数が明記されており、同社の持続的な成長に対する知的財産の貢献について説明するなど、対外的な発信を詳細かつ広範囲に行っています。

まとめ

前回に引き続き、特許庁から発行された「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」の概要を解説しつつ、中小・ベンチャーの参考となる知財活動事例を紹介しました。

経営層と知財担当者とのコミュニケーションを深く行うにあたり、特許分析や特許調査が必要となります。また、事業部門と知財部門が連携を取るためには、タイムリーにクリアランス調査や自社技術の出願を行っていく必要があります。

しかし、中小企業やベンチャーでは知財部員の数が大企業のように多くはありませんので、出願や調査を専門家へ外注することをおすすめします。

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