企業価値向上に資する知財活用事例!中小企業の活動ポイントを企業知財部の目線で解説!
2022年5月9日に特許庁から「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」が発行されました。
経営層が知財部門を頼りにし、知財部門が経営層に働きかけができている企業やそのような風土の獲得に向けて前進している企業を対象にヒアリングをした結果を事例集としてまとめたものです。
知財部門と経営層との間のコミュニケーションをより良くしたい企業には必見です!
<この記事でわかること>
・「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」が発行された背景
・経営層と知財部門とのコミュニケーション、ステークホルダーへの開示等に関する活動まとめ
・中小企業、ベンチャーの参考となる活動ポイント
(執筆:知財部の小倉さん)
特許庁が「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」を発行
知財経営の浸透が不十分な現状
2002年7月に策定された「知財戦略大綱」には、「経営者の意識向上と戦略的な特許取得の活用」が掲げられ、約20年を経過した現在では知的財産を経営に活かして新たな価値を創出する企業も現れています。特許庁はこのような企業の知財戦略を調査し、事例集を2018年から毎年発行してきました。
しかし、特許庁が令和2年に企業へ行ったアンケート結果では、約3分の1の回答者が「自身の所属する企業には知財担当役員がいない」と回答していました。また、約4分の1の回答者が「知財が経営に貢献していない」、「経営層が知財を重視していない」と回答していました。
このように、知的財産を活用した企業経営は、まだ十分に浸透しているとは言えない状況でした。
参考URL
令和2年3月 経営に資する知財マネジメントの実態に関する調査研究報告書(特許庁)
CGコードの改訂で高まる知財の重要性
こうした中、2021年6月にコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が改訂され、上場企業は知財投資の情報開示やそれに対する取締役会による監督が求められるようになりました。
CGコードについては、以下の記事で詳細に解説しています。
コーポレートガバナンス・コード改訂による中小企業・ベンチャーの知的財産活用への影響
コーポレートガバナンス・コード改訂による中小企業・ベンチャーの知的財産活用への影響 Vol. 2
CGコードの改訂に加え、DX(デジタルトランスフォーメーション)やSDGsなど持続可能な社会の実現に対する機運の高まりにより、経営層と知財部門との距離が近づいています。
特許庁は、経営層が知財部門を活用して頼りにし、知財部門が経営層に働きかけができるようなところにまで、企業内風土を昇華させることを助けるために、「知財部門と経営層との間のコミュニケーション」に着目した調査を行いました。
上記調査の結果として、特許庁は「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」を発行しました。
参考URL
「企業価値向上に資する知的財産活用事例集-無形資産を活用した経営戦略の実践に向けて-」について(特許庁)
事例集のエグゼクティブサマリー
本事例集には20の事例が載っており、「経営上の課題/中長期的な事業の方向性」、「成長戦略の事例」、「成長戦略の事例における知財戦略」、「知財部門と経営層とのコミュニケーション」、「知財戦略のステークホルダーへの開示」について、事例全体を通してまとめると、以下の概要図にまとめられます。
「経営上の課題/中長期的な事業の方向性」 及び 「成長戦略の事例」のまとめ
事例ごとに、現状(As is)やありたい姿(To be)、As isからTo beへの移行のための事業戦略は多種多様です。その中で比較的共通している事例を、以下の1~6にまとめられています。
- サービスやソリューション事業を展開する事例
- 事業ポートフォリオを転換する事例
- オープンイノベーションを活用した事例
- デジタルトランスフォーメーションに関する事例
- カーボンニュートラルに貢献する事例
- その他、SDGsなどに貢献する事例
特に、事業ポートフォリオを転換する事例として、カーボンニュートラルの高まりによる自動車の電動化にシフトする事例、自動運転へのニーズからデータ事業への変革を進める事例など、社会課題に取り組むため、モノ・コトに限らず、製品群や分野などの事業ポートフォリオの転換や新分野への参入を図る企業も複数取り上げられています。
「成長戦略の事例における知財戦略」のまとめ
各事例における知財戦略を概観すると、以下に類型化できます。
- 知的財産の活用戦略(知財ミックス戦略 、ブランド戦略、オープン・クローズ戦略、データ/AIでの知財戦略)
- 知的財産に関する組織・プロセス(知財部門と他部門との連携、グローバルな連携)
知財ミックス戦略について、B to C事業やB to B to C事業では、エンドユーザーを意識したブランディングが重要なため、特許権に加えて、商標権や意匠権を組み合わせて事業を保護する事例が見られます。
また、知財部門と他部門との連携について、IPランドスケープなど開発の初期段階から知財部門が関わり、開発や事業の方向性に合致した知財戦略を行っている事例が多く見られました。
「知財部門と経営層とのコミュニケーション」のまとめ
知的財産を活用した経営を行うには、経営層と知財部門との十分なコミュニケーションが求められます。各事例において、知財部門と経営層とのコミュニケーションについては、以下の3つにまとめられます。
- IPランドスケープを活用したコミュニケーション
- 経営層と知財部門との定常的なコミュニケーション
- 中小企業、ベンチャー、スタートアップでの経営層と知財担当者とのコミュニケーション
大企業で見られる例として、IPランドスケープの分析結果を用いて経営層とのコミュニケーションを行っています。自社の強み弱み、市場における自社の立ち位置の把握、新規事業の検討、事業のパートナー企業の発掘などの目的でIPランドスケープが活用されています。
一方、中小企業やベンチャーでは、トップダウンで知財活動が進められている例、知財担当者が経営層や事業部門と連携して知財活動を進める例が見られました。企業規模がそれほど大きくない場合、経営者の目が社内に行き届くため、経営層とのコミュニケーションの壁がそれほど高くないようです。
「知財戦略のステークホルダーへの開示」のまとめ
ステークホルダーへの知財戦略の開示については、以下の3つにまとめられます。
- IR資料などでの開示
- 知財戦略などの紹介のためのホームページでの開示
- 中小企業、ベンチャー、スタートアップにおける取組
大企業においては、統合報告書などのIR資料やサステナビリティ報告書などに知的財産に関する記載がされている事例が見られました。
一方で、中小企業やベンチャーでは、海外向け事業に焦点をあててホームページ上で保有する特許数などを公開する事例、資金調達などの目的で投資家や金融機関向けに知的財産への取組や保有権利数などを説明する事例など知財情報の提供を重視した活動が見られました。
中小企業、ベンチャーの参考となる活動ポイント
経営層と知財担当者とのタイムリーな情報共有
中小企業、ベンチャーは経営者と知財担当者の距離が近いことが大企業とは異なりますのでタイムリーな情報共有が可能となります。また、経営者と直接に意思疎通ができるため、知財方針と経営方針がズレにくいということがメリットです。
ホームページを活用して信頼を獲得
費用も高額となるため、海外で特許を取っている中小企業は多くはありません。特許のグローバルな権利化状況をホームページで発信することで、知財権を取得したうえで海外展開していることをアピールでき、顧客や金融機関からの信頼に繋がります。
まとめ
今回は特許庁から発行された「企業価値向上に資する知的財産活用事例集」を策定背景から解説しつつ、中小・ベンチャーの参考となる知財活動ポイントを紹介しました。
経営層と知財担当者とのコミュニケーションに関して、IPランドスケープが紹介されていましたが、特許分析をするには特許調査が必要となります。特に、検索式の立案にはノウハウがありますので、専門家に相談するのがよいでしょう。
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特許関係の仕事に従事して10年。5年間は特許事務所で500件以上の出願原稿の作成に従事。その後、自動車関連企業の知財部に転職し、500件以上の発明発掘から権利化に携わってきました。現在は、知財部の管理職として知的財産活用の全社方針策定などを行っています。
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