ファスト映画における著作権法上の問題点について解説します

ファスト映画とは
ファスト映画は、著作権者に無断で、映画の内容を10分程度に編集した動画です。
ファスト映画は、2020年頃からYouTube等の動画配信サイトに登場し、再生回数は多いもので数百万回になるものもありました。
その一方で、ファスト映画については、著作権法上の問題点がいくつかあり、著作権法違反による逮捕者も出ました。
今回は、ファスト映画における著作権法上の問題点と、実際に生じた事件について解説します。また、静止画の利用やいわゆるネタバレ動画と著作権(複製権)の関係についても解説します。
著作法上の問題点
ファスト映画における著作権法上の問題点は、大きく分けて「元の映画の入手時」「制作時」「公表時」で、以下のように異なります。
- 映画の入手時:複製権(著作権法21条)
- 映画の制作時:複製権、翻案権(27条)、同一性保持権(20条)
- 映画の公表時:公衆送信権(同23条)、二次的著作物の利用権(28条)
そのため、例えば、ファスト映画の制作のみを行った場合や、公表(例えばアップロードなど)のみを行った場合でも、原則として、著作権侵害になります。
また、ファスト映画の元となる映画は、ほとんどの場合、著作者(映画監督、美術など)が映画制作者の制作に参加しているため、映画の著作権者は映画制作者(映画会社)となります(29条)。
この場合には、複製権、翻案権、公衆送信権、二次的著作物の利用権の権利者は映画制作者となります(同一性保持権は著作者人格権であるため、権利者は著作者のままです)。
複製権(21条)の侵害について
複製権は著作権者が有する権利の一つであり、著作物を複製する権利です。また複製とは、録音、録画などの方法により有形的に再製することをいいます(2条1項15号)。
したがって、映画のDVDやBlu-rayを録音、録画などをすると原則として複製権の侵害となります。
もっとも、個人的に又は家庭内などで使用する(私的使用)ことは、プロテクトを違法に解除するなどの行為をしない限りで、認められています(30条)。そのため、映画を個人の機器にダウンロードして個人的に楽しむことは認められています。しかしファスト映画の場合は広く一般に公表されるため、この複製行為は私的使用には該当しません。
また録画などの再製をする場合であっても、元の映画を引用することは認められています(32条)。ですが引用が認められるためには、公正な慣行に合致するものであり、かつ、批評など引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものであることが要求されています(32条)。
ファスト映画での使用が、引用の目的上正当な範囲内に該当することは、まずありません。
静止画やネタバレ動画なら「引用が認められるか」
また、静止画の利用やネタバレ動画の場合には、引用が認められるかどうかが問題となります。
引用における「公正な慣行に合致している」では、社会において妥当であると認められており、かつ、引用する箇所が明確で引用する必要性があることが要求されます。また、「正当な範囲内」では、自らの著作物が主であり、引用される他の著作物が従の関係にあることが要求されます。
そのため、静止画の利用やネタバレ動画の制作は、引用が認められず、複製権の侵害となる可能性も否定できないと考えらえます。
映画紹介やレビューについても、引用との関係が問題となりますが、映画紹介やレビューの多くは、上記の「公正な慣行に合致して」おり、かつ、「正当な範囲内」で引用しているため、複製権の侵害には該当しない可能性が高いと考えられます。
複製権以外の権利侵害について
翻案権(27条)
翻案権も著作権者の有する権利の一つであり、著作物を変形、脚色などの翻案をする権利です。翻案については判例で、以下の要件を満たす行為であると判示されています。
- 既存の著作物に依拠している
- 表現上の本質的な特徴の同一性を維持している
- 具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現している
- 既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物
多くのファスト映画はこれらの要件を満たすため、ファスト映画の製作は翻案権の侵害となることが多いです。
公衆送信権(23条)
公衆送信権も著作権者の有する権利の一つであり、インターネット等の送信手段により、著作物を公衆向けに送信することのできる権利です。
この送信には、無線・有線を問わず、あらゆる送信形態に含まれます(同2条1項7号の2)。しがたって、ファスト映画をインターネット上にアップロードする行為は、公衆送信権の侵害となります。
同一性保持権(20条)
同一性保持権は著作者の人格に関する権利であり、著作者のみが有する権利です。そして、同一性保持権は、著作物及びその題号の同一性を保持する権利であり、著作者の意に反して変更、切除その他の改変を受けない権利です。
ファスト映画は、映画を短時間に編集しているため、著作者の意に反した改変であるとして、同一性保持権を侵害する可能性が高いと言えます。
ファスト映画は見た人も違法になるか?
公表されたファスト映画を見る行為自体は、複製権、翻案権、公衆送信権、同一性保持権のいずれにも該当しないため、違法ではありません。
しかし、ファスト映画を見るため機器に保存した場合には、頒布(公表)の目的を持っているとして、複製権の侵害とみなされる可能性も否定できないため、注意が必要です(113条)。
ファスト映画に対する著作権侵害訴訟【事例・判例】
ファスト映画に対しては、映画会社が著作権違反に基づいて、ファスト映画チャンネルの運営者3名を刑事告訴をすると共に、損害賠償請求も行うという事件がありました。
この事件では、ファスト映画チャンネルの運営者3名が2021年6月に逮捕され、刑事事件において有罪が確定し、民事事件で損害賠償が認められるという結論になっています。
民事訴訟
民事訴訟では、原告である映画会社13社が、翻案権と公衆送信権の侵害に基づいて、13社の合計で約5億円の損害賠償を請求したところ、被告は反論をしませんでした。
そのため、原告らの主張通りに、5億円の損害賠償が認められるという判決が2022年11月になされました。被告(運営者3名)は控訴しなかったため、この判決が確定しています。
刑事訴訟
刑事訴訟については、ファスト映画チャンネルの運営者3名が起訴され、2021年11月に判決がなされました。3名とも、いずれも以下の通り有罪となりました。
被告人A 懲役2年(執行猶予4年)及び罰金200万円
被告人B 懲役1年6月(執行猶予3年)及び罰金100万円
被告人C 懲役1年6月(執行猶予3年)及び罰金50万円
刑事事件についても被告は控訴しなかったため、判決が確定しています。
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特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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