教えて柴田先生!SNSで音楽をアップするとダメなの?
SNSはすっかり身近なツールで、友人知人と近況のやり取りをしたり、ちょっとした日常を共有するのに有益なツールです。SNSは、従来マスコミなど特定の事業者が専ら行ってきた「発信」の間口を、一般に開放しました。
しかしながら、「発信」が一般化するということは、旧来特定の事業者(プロ)のみが理解しておけばよかったコンテンツのルールを、SNSで発信する一般の人もきちんと理解しておかないといけないことも同時に意味します。今回は、SNSと音楽について、著作権や関連する権利の観点を中心に解説したいと思います。
音楽は複雑?!
音楽は、原始的には
- (1)歌詞
- (2)メロディー
から構成されますが、これらは作者の個性を工夫を凝らして表現したもの(「著作権って何?」をご参照)といえる場合が大半なので、著作物に該当します。
よって、作詞家・作曲家の方に、著作者人格権・著作財産権がある、ということになります。
しかしながら、市販されている音楽は、上記のような歌詞・メロディーのみからなる原始的構成に留まらず、
- (3)伴奏が追加され、
- (4)有名な歌手が歌唱し、プロの演奏者が伴奏を演奏、
しますね。
伴奏についても、作者の個性を工夫を凝らして表現したものにあたることが大半で、著作物に該当するので、伴奏の作者について、著作者人格権・著作財産権がある、ということになります。
また歌唱・演奏については、歌う人・演奏する人に、実演家の権利が生じること、また有名な歌手には、パブリシティ権があることを「著作権って何?」では解説しました。
さらに、市販されている音楽は、
- (5)レコード会社が音を作り込んで録音したCD、データその他音源の形態
で、販売されていますね。
音を固定した録音物については、音を固定したレコード会社に、レコード製作者の権利が生じることを「著作権って何?」では解説しました。
このように考えると、音楽には、以下の権利が関与しうることとなり、非常にたくさんの人の権利が関わる複雑なものであると言えると思います。
要素 | 権利者 | 権利 |
---|---|---|
歌詞 | 作詞家 | 著作者人格権・著作財産権 |
メロディ | 作曲家・編曲家 | 著作者人格権・著作財産権 |
伴奏 | 作曲家・編曲家 | 著作者人格権・著作財産権 |
実演 | 歌手・演奏者 | 実演家の権利・パブリシティ権 |
音源 | レコード会社 | レコード製作者の権利 |
以下では、事例別にどのような権利問題が生じるのかを見ていきたいと思います。
- 事例1:路上ライブ
- 事例2:歌ってみた動画
- 事例3:踊ってみた動画
事例1:路上ライブ
有名歌手の代表作を、アマチュアバンドが路上ライブでカバーしていました。これを目撃したAさんは、あまりの上手さに感動して、スマートフォンで撮影し、友人・知人と共有しようとSNSにアップしました。
1.どこに権利がありそう?
(1)有名歌手の代表作
まず、有名歌手の代表作のカバーということなので、(1)歌詞、(2)メロディ、(3)伴奏は少なくとも関係ありますね。
これらは、上述のとおり、作詞家・作曲家(編曲家)の著作者人格権・著作財産権が関係します。
一方で「カバー」(=別途に演奏し別途に音源を作る)ということなので、有名歌手の代表作のCDを流しているわけではなさそうです。
とすると、有名歌手の実演家の権利・パブリシティ権やCD出版社のレコード製作者の権利は関係なさそうです。
(2)アマチュアバンド
歌を歌い演奏をしているのはアマチュアバンドですね?
「著作権って何?」では、プロの歌手や演奏者でなくとも、歌唱・演奏の行為によって誰しもが「実演家」となり、実演家の権利が発生することをお話しました。
また「著作権って何?」では、人には誰しも勝手に撮影されない権利(肖像権)や自分の私生活をみだりに公開されない権利(プライバシー権)があることをお話しました。
よって、歌唱・演奏・肖像について、アマチュアバンドの実演家の権利・肖像権・プライバシー権が関係するといえます。
一方、アマチュアバンドということで、有名人ではないのでパブリシティ権は発生しないと考えてよいかと思います。
2.Aさんの行為ってどんな行為?
この事例でAさんは、(1)撮影行為、(2)アップロード行為の2つの行為をしています。
(1)撮影行為
撮影するというのは、その場面をカメラを使ってコピーすることになります。
よって、著作財産権でいえば、複製権が働く行為となりますし、実演家の権利でいえば、録音録画権が働く行為です。また、肖像権の観点では、「撮影」に該当することは言うまでもありません。
(2)アップロード行為
アップロードというのは、自分の端末にあるデータを、SNSのサーバーに「コピー」して、他人からのアクセスがあれば、いつでも「配信」できるようにすることを意味します。
よって、著作財産権でいえば、複製権(=サーバーへのコピー)、自動公衆送信権(=配信。ただし厳密にいえば送信可能化権)が働く行為となりますし、実演家の権利でいえば、送信可能化権(=配信)が働く行為です。
肖像権・プライバシー権の観点でいうと、「配信」されれば、アマチュアバンドがこの日にここで路上ライブしていたという私生活が公開されることになるので、「公開」に該当することとなるでしょう。
Aさんの行為は、法律上問題がある雰囲気になってきました。
3.権利はクリアされている?
関係する権利をクリアするには、(1)権利者から許諾をもらう(=OKをもらう)か、(2)権利の及ばない例外に該当する、の2択であると「著作権って何?」では解説しました。
(1)有名歌手代表作の歌詞・メロディ・伴奏
「クリア」といえるからには、作詞家・作曲家(編曲家)のOKがある必要がありますが、Aさんは、特にOKをもらいに行っているわけではありません。
しかしながら、SNSの中には、利用者の利便を高め、積極的にコンテンツ投稿を行ってもらうために、SNSサービスの運営元がJASRACやNexToneなどの音楽著作権団体と契約を締結して、これらの団体が管理する楽曲をアップロードしても問題ないようにしていることがあります。
このようなSNSサービスの例として、現時点では、YouTube、Facebook、Instagram、TikTokなどがありますが、Twitterは含まれていないようです(詳しくはこちらを参照)。
もしAさんの利用したSNSが、上記に含まれるのであれば、Aさんが何もせずとも、権利クリアとなっていることもあるでしょう。
一方、「例外」にあたるかについて、代表例としては私的複製がありますが、私的複製は「コピー」行為のみを例外とするもので、配信(配信可能化)までは例外にしてくれません。
よって、Aさんが個人的に友人・知人と共有したいと思っていたとしても、配信をしてしまっている以上、私的複製とはいえません。
(2)アマチュアバンドの歌唱・演奏・肖像
上述のとおり、アマチュアバンドには、その歌唱・演奏・肖像について、実演家の権利・肖像権・プライバシー権を持っていましたね。
Aさんは、アマチュアバンドから特にOKをもらっているわけではありません。
また、SNSサービスの運営元が音楽著作権団体と締結している契約は、団体が管理している歌詞・メロディを対象とするもので、歌唱・演奏はその範囲に含まれません。
よって、アマチュアバンドからOKをもらっていない以上、許諾によりクリアされているとは言えません。
私的複製が成立しないことは上述のとおりです。
4.小括
以上より、Aさんの行為は、少なくともアマチュアバンドがその歌唱・演奏・肖像について有する、実演家の権利・肖像権・プライバシー権を侵害している、ということになります。
もしアップロードしたSNSサービスが、例えばTwitterであれば、有名歌手代表作の歌詞・メロディ・伴奏に関する著作財産権(複製権・自動公衆送信権)も侵害している、ということになります。
事例2:歌ってみた動画
Aさんは、大好きな有名歌手の代表作をギターで演奏して歌い、それを自分で撮影してYouTubeにアップロードしました。
1.どこに権利がありそう?
有名歌手の代表作
まず、有名歌手の代表作を自分でカバーしたということなので、(1)歌詞、(2)メロディ、(3)伴奏は少なくとも関係ありますね。
これらは、上述のとおり、作詞家・作曲家(編曲家)の著作者人格権・著作財産権が関係します。
2.Aさんの行為ってどんな行為?
この事例でAさんは、(1)歌唱・演奏行為、(2)撮影行為、(3)アップロード行為の3つの行為をしています。
(1)歌唱・演奏行為
「著作権って何?」の解説のとおり、著作財産権には「演奏する権利」(演奏権)が含まれていますので、Aさんの歌唱・演奏行為には、作詞家・作曲家(編曲家)の演奏権が働くといえます。
(2)撮影行為
上述のように、撮影=コピーなので、作詞家・作曲家(編曲家)の複製権が働く行為となります。
(3)アップロード行為
上述のように、アップロード=サーバへのコピーかつ配信なので、作詞家・作曲家(編曲家)の複製権、自動公衆送信権(=配信。ただし厳密にいえば送信可能化権)が働く行為となります。
3.権利はクリアされている?
上述のとおり、権利をクリアするには、(1)権利者から許諾をもらう(=OKをもらう)か、(2)権利の及ばない例外に該当する、の2択です。
作詞家・作曲家(編曲家)のOKについて、Aさんは、特にOKをもらいに行っているわけではありませんが、YouTubeは、上述のとおり、JASRAC等の音楽著作権団体と契約を締結しています。
よって、この楽曲が、音楽著作権団体の管理対象であれば、YouTube側で既にOKを獲得している、といえるかと思います。
管理対象かどうかについては、例えばJASRACであれば、こちらで曲名などから検索し、ヒットすれば管理対象(すなわちYouTubeで既にOKをもらっている)、そうでなければ対象外(YouTubeで確保したOKに含まれない)ということになります。
一方、「例外」にあたるかについて、上述のとおり、私的複製は「コピー」行為のみを例外とするもので、配信(配信可能化)までは例外にしてくれません。
よって、Aさんが個人的に友人・知人と共有したいと思っていたとしても、配信をしてしまっている以上、私的複製とはいえません。
4.小括
以上より、Aさんの行為は、有名歌手代表作が音楽著作権団体の管理楽曲であれば、YouTube側でOKをもらっているものとして、権利クリアされている(侵害にならない)ということになりますが、そうでなければ、有名歌手代表作の歌詞・メロディ・伴奏に関する著作財産権(複製権・自動公衆送信権)の侵害、ということになります。
事例3:踊ってみた動画
Aさんは、大好きな有名歌手の代表作のCDをBGMにして、それにあわせて自作のダンスをし、自分で撮影してYouTubeにアップロードしました。
1.どこに権利がありそう?
(1)有名歌手の代表作
上述のとおり、作詞家・作曲家(編曲家)の著作者人格権・著作財産権が関係します。
(2)音源としてのCD
ここではAさんは、CDをBGMにしていますよね?
ということは、「カバー」(=別途に演奏し別途に音源を作る)ではないので、有名歌手の歌唱に関する実演家の権利・パブリシティ権、伴奏奏者の伴奏演奏に関する実演家の権利、CD出版社のレコード製作者の権利が関係してきます。
(3)ダンス
Aさんの踊ったダンスは「自作」ということなので、ここでは特に問題になりませんが、もし有名歌手が踊っているダンスをそのまま踊ったということになると話は変わってきます。
実は、ダンスも著作物になりえることが判例において確認されており(舞踊の著作物)、これを真似て踊る行為には、ダンスを考えた人の「上演権」が働く可能性がありますので、踊ってみた動画の場合には、このあたりにも注意が必要です。
2.Aさんの行為ってどんな行為?
この事例でAさんは、(1)撮影行為、(2)アップロード行為の2つの行為をしています。なお、ダンスをしていますが、これは自作ダンスなので、誰かの著作物を利用する行為には該当しません。
(1)撮影行為
上述のように、撮影=コピーなので、作詞家・作曲家(編曲家)の複製権が働く行為となります。実演家の権利でいえば、録音録画権が働く行為、レコード製作者の権利でいえば、複製権が働く行為です。
(2)アップロード行為
上述のように、アップロード=サーバへのコピーかつ配信なので、作詞家・作曲家(編曲家)の複製権、自動公衆送信権(=配信。ただし厳密にいえば送信可能化権)が働く行為、実演家・レコード製作者の権利でいえば、送信可能化権が働く行為となります。
また、配信にあたって、もし有名歌手の名前をキャッチ―に使ったり、CDの写真を使ったりすれば、有名人の顧客吸引力を勝手に使ったとして、パブリシティ権侵害も疑われることになるおそれがあります。
Aさんの行為は、法律上問題がある雰囲気になってきました。
3.権利はクリアされている?
上述のとおり、権利をクリアするには、(1)権利者から許諾をもらう(=OKをもらう)か、(2)権利の及ばない例外に該当する、の2択です。
(1)有名歌手代表作の歌詞・メロディ・伴奏
作詞家・作曲家(編曲家)のOKについて、Aさんは、特にOKをもらいに行っているわけではありませんが、YouTubeは、上述のとおり、JASRAC等の音楽著作権団体と契約を締結しています。
よって、この楽曲が、音楽著作権団体の管理対象であれば、YouTube側で既にOKを獲得している、といえるかと思います(管理対象か否かの確認については事例2をご参照)。
一方、「例外」にあたるかについて、上述のとおり、私的複製は「コピー」行為のみを例外とするもので、配信(配信可能化)までは例外にしてくれません。
(2)音源としてのCD
Aさんは、CDの発売元に問い合わせるなどして、特にOKをもらったわけではありません。
重要な点として、YouTubeがJASRAC等から確保した許諾の範囲には、歌唱・演奏(実演家の権利の対象)やレコード録音物(レコード製作者の権利の対象)は、含まれません。あくまで、歌詞・メロディについてYouTube側でOKをもらっているものです。
よって、CDの発売元たるレコード会社に問い合わせてOKをもらっていない以上、許諾によりクリアされているとは言えません。
私的複製が成立しないことは上述のとおりです。
4.小括
以上より、Aさんの行為は、少なくとも、(1)CDに録音されている有名歌手の歌唱に関する実演家の権利、(2)CDに録音されている伴奏奏者の伴奏演奏に関する実演家の権利、(3)CDに関するCD出版社のレコード製作者の権利を侵害している、ということになります。
もし有名歌手代表作が音楽著作権団体の管理楽曲であれば、有名歌手代表作の歌詞・メロディ・伴奏に関する著作財産権(複製権・自動公衆送信権)の侵害、ということになります。
おわりに
このように、音楽には様々な権利が複雑に絡んでいること、使っている側ではそんなに違いがあると思えない行為でも、OKとなったり、NGとなったり結論が分かれること、が理解いただけたかと思います。
特に、音楽の権利というと、歌詞・メロディの権利のみをとらえ、「JASRACに申請したから大丈夫」と考えてしまいがちで、実演家やCD出版社の権利を見落とす例がよく見られます。
SNSによりコンテンツ発信のハードルが非常に低くなり、一般の方でも気が付かずに権利侵害してしまっている時代になりました。気軽に使えるSNSだからこそ、発信の前に、「他人の権利」にふと意識を向けて一度立ち返ってみることが重要です。
著作権関連問題は非常に複雑で込み入っています。特にコンテンツで事業をされようという方は、知的財産を専門とする弁護士や弁理士に相談されてはいかがかと思います。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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