ITベンチャーの特許分析!モバイルメッセンジャーのLINEを解説
ITベンチャーの特許出願動向や事業情報から注力している技術分野や今後の展開が見えてきます。分析方法もJ-PlatPatやExcelなど無料ツールを使っていますので参考になれば幸いです。
今回はLINE株式会社の分析を行います。スマホのメッセンジャーアプリとして、皆さんもLINEを使っているのではないでしょうか?身近なIT企業がどのような特許戦略を持っているのか一緒に見ていきましょう。
<この記事でわかること>
・LINE株式会社の特許出願傾向
・LINEの機能に関連した特許事例
・ふるふる機能をめぐる特許訴訟
(執筆:知財部の小倉さん)
LINE株式会社の概要
会社概要
LINE株式会社( LINE Corporation)は、Zホールディングスの完全子会社で、モバイルメッセンジャーアプリ「LINE」を中心にインターネット関連事業を展開する日本の企業です。
その前身は、韓国最大のインターネットサービス会社であるNAVER(ネイバー)が運営するオンラインゲームサイト「ハンゲーム」の日本法人「NHN Japan」で、2000年に設立されました。
さらに、2010年にライブドアの株式を取得した後、2011年に社名が「LINE株式会社」に変更されました。アプリのLINEは、NHN Japanが始めたもので大ヒットにより、NAVERグループの業績に貢献しました。
2019年にはソフトバンクグループでYahoo!Japanを運営するZホールディングスとの経営統合を果たしました。現在、LINE株式会社はZホールディングスの完全子会社となっています。
参考URL
Wikipedia LINE (企業)
LINE株式会社 ホームページ
Z HOLDINGS 統合報告ポータル
特許動向分析
分析に使用したツール
今回の分析には以下のツールを使用しました。検索ツールは無料ですし、分析ツールもなるべく利用者の多いソフトウェアとしてExcelを使っています。
【検索ツール】J-PlatPat
【分析ツール】Microsoft Excel(Office365)
また、分析の詳細な手順については過去の記事で紹介していますので、ご参照ください。
参考URL
パテントマップ実践!J-PlatPatとExcelを使った知財状況の可視化
特許マップ(パテントマップ)の作り方!知財部員がやさしく解説!
母集団の取得
まずは分析の対象となる母集団を取得しましょう。
「文献種別」は国内文献にチェックを入れます。「出願人/権利者/著者所属」にはLINE株式会社と記入します。
国内で510件の文献がヒットしました。そのうち30件は登録公報でしたので、残りの480件が出願して公開された案件になります。
さらに出願人をよく見てみるとLINE株式会社とは異なるもの(ノイズ)が含まれていましたので、それらを除外すると母集団は475件となりました。
出願件数の推移
得られた475件をグラフにすると以下のようになります。国内出願は2016年から減少傾向にあります。年間60件ほどが実力値と思われます。
さらに出願のIPC分類を見てみると下のようになります。分類内容を知りたい場合は「特許・実用新案分類照会(PMGS)」から確認できます。
G06(計算または計数)をメインとして、2011年ごろはA63(スポーツ;ゲーム;娯楽)が多かったようです。その後にH04(電気通信技術)が増え、最近はG10(楽器;音響)の割合が増えています。
登録件数の推移
出願件数と同じように、登録件数の推移を見ていきます。青が出願件数で、オレンジがその中で登録になった件数を示しています。
2016年の登録率でいうと68%で、その後は徐々に登録率が低下しています。もちろん、出願から3年間ほどは特許庁で審査されますので審査中の案件もあります。
登録のIPC分類も出願と同様の傾向です。最近はH04(電気通信技術)やG10(楽器;音響)の割合が増えています。
G10の出願の内容を見てみると、音声認識による機器の制御に関するものでチャットボット用の技術も含まれているようです。
特許事例紹介
LINE株式会社の気になる特許を事例として紹介します。
「友だちの追加」(特許第5380638号)
特許第5380638号は2012年とLINEアプリがリリースされて間もなく出願された特許です。
その目的は、或るユーザがメンバー(友だち)を集めてグループを生成した場合には、その後、当該グループに属する構成員であれば誰でも、他のメンバー(友だち)を当該グループに招待することが可能なメッセージングサービスシステム及び方法を提供することです。
これはトークルームのメンバーであれば、誰でも他のメンバーを招待できるという非常に基本的な特許ですね。他社にマネされる前にこのような基本的な特許は取っておかないといけないですね。
「音源のハイライト区間を決定」(特許第6998449号)
次に、拒絶査定を一度受けながらも特許庁に反論し、最終的に特許査定を勝ち取った案件を紹介します。
特許紹介の前に拒絶査定不服審判をした案件の抽出方法を説明します。まず、以下のようにLINE株式会社の出願人で検索し、CSVでその結果をダウンロードします。
次に、CSVデータの中に「審判番号」という列がありますので、この列に「拒絶●●」と記載されている案件が拒絶査定不服審判をした案件で、さらに「登録番号」の列に「特許●●」と記載されている案件が登録査定となった案件です。
上記方法で特許第6998449号を抽出しました。本特許は「音源のハイライト区間を決定する方法」に関するもので、音源を時間軸に複数分割して、それぞれの区間の特徴値を使って学習し、ハイライト区間の決定性能を上げるものです。
この特許の背景として、音源ファイルの需要が増大しており、音源全体でなく一部のハイライト区間を提供する需要が発生していると記載されています。
ひょっとすると音楽付きのスライドショーの提供などに本技術を使うのかもしれませんね。
その他の公開情報
「ふるふる機能」が他社の特許権を侵害で損害賠償
LINEアプリの機能で、スマートフォンを振ると連絡先が交換できる「ふるふる機能」をご存知でしょうか?実は本機能に関して、京都市のIT企業「フューチャーアイ」が特許権を持っており、3億円の損害賠償を求めた訴訟を起こしました。
LINE社は、「簡単に発明でき特許は無効だ」と反論しましたが、2021年5月に出た判決では「特許は無効でなく、LINE社が特許権を侵害している」と結論付けられました。そして、LINE社はフューチャーアイに1400万円を支払うよう命じられました。
結局、2011年から開始されていた「ふるふる機能」は2020年に終了することとなりました。判決が出る前にサービスを終了したということは、途中で敗戦が濃厚だったのでしょうか。
参考URL
判決 平成29年(ワ)第36506号 損害賠償請求事件
日経新聞 「ふるふる」機能は特許権侵害 LINEに賠償命令
まとめ
LINE社はZホールディングスの完全子会社となり、Yahoo!Japanと同じグループに入りました。
ふるふる機能などで特許権の侵害訴訟を起こされてしまいましたが、今後はYahoo!Japanの特許権も使わせてもらうことも可能でしょうから、特許リスクの観点からも経営統合のメリットはあったのかもしれません。
今回紹介したLINE社のように、事業が大きくなる前に他社特許クリアランスをしながら製品をリリースしないと、特許権を回避するために製品仕様を変更したり、賠償金の支払いが発生してしまいます。
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特許関係の仕事に従事して10年。5年間は特許事務所で500件以上の出願原稿の作成に従事。その後、自動車関連企業の知財部に転職し、500件以上の発明発掘から権利化に携わってきました。現在は、知財部の管理職として知的財産活用の全社方針策定などを行っています。
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