ITベンチャー向け!AI関連発明の特許の取り方を徹底解説
最近のソフトウェアは、機械学習による予測やおススメ機能などAIを使ったものが目立っています。2021年に特許庁から「AI関連発明の出願状況調査向について」や「AI関連技術に関する特許審査事例について」という情報が公開されており、AI分野での特許取得に注目が集まっています。
今回はITベンチャー向けに、AI分野の特許出願動向や特許取得のポイントを分かりやすく解説します!
<この記事でわかること>
・AI関連発明の出願動向や時代背景
・AI関連発明の特許審査事例
・AI関連発明の特許の取り方のポイント
(執筆:知財部の小倉さん)
AI関連発明の動向
まず、特許庁から公開されている「AI関連発明の出願状況調査向について」の内容を参考にAI関連発明の定義や動向を確認しましょう。
AI 関連発明とは
AI関連発明の出願状況調査の報告書本体によれば、「AI関連発明」は以下の①AIコア発明と②AI適用発明から構成されています。
①AIコア発明:ニューラルネットワーク、深層学習、サポートベクタマシン、強化学習等を含む各種機械学習技術のほか、知識ベースモデルやファジィ論理など、AI の基礎となる数学的又は統計的な情報処理技術に特徴を有する発明(付与される FIは主に G06N)
②AI適用発明:画像処理、音声処理、自然言語処理、機器制御・ロボティクス、診断・検知・予測・最適化システム等の各種技術に、AI の基礎となる数学的または統計的な情報処理技術を適用したことに特徴を有する発明(付与が想定される FI は多数)
IoTのモデルにおけるAI関連発明
2021年8月に特許庁から公開された「ビジネス関連発明の最近の動向について」には以下のIoTのモデル図が記載されています。
IoTのモデル図では、①様々なセンサ等からデータを取得、②取得されたデータを通信、③通信されたデータをクラウド等にビッグデータ化し蓄積、④当該データをAI等によって分析、⑤分析によって生まれた新たなデータを、何らかのサービスへ利活用、⑥IoTにおけるビジネスモデルの確立、というモデルが想定されています。
ビジネス関連発明はAI(特に、データの学習に基づいて判断を下す機械学習技術)と親和性が高く、AIを活用してビジネス上の課題解決を図ることが増えています。
AI関連発明の出願動向
下図にAI 関連発明の出願件数の推移を示します。AI 関連発明の出願件数(ピンク)は2014 年以降に急増し、2019 年には約5,000 件に達しています。
AI 関連発明は、第二次 AI ブームの影響により、1990 年代前半に一度出願ブームが到来しましたが、その後 20 年近く出願件数は低調に推移していました。
第二次 AI ブームでは、知識ベースモデル、エキスパートシステム等の技術が流行しました。事前にあらゆる事象のルールをコンピュータに教え込むことの難しさから、ブームは終わりを迎えました。また、ニューラルネットも盛んに研究されていましたが、性能の限界が生じ、こちらも一時的なブームで終わりました。
2014 年以降の出願増は、第三次 AI ブームの影響と考えられます。その主役はニューラルネットを含む機械学習技術で、特に深層学習技術が主要な地位を占めています。
第三次 AI ブームが生じた要因は、機械学習における過学習を抑制する手法の開発や、計算機の性能向上とデータ流通量の増加によって、AI 関連の理論の実用化が可能になったことがあります。
AI関連技術の特許審査事例
特許庁は「AI関連技術に関する事例の追加について(説明資料)」という資料も公開しており、AI関連技術の審査基準や10の審査事例を載せています。ここでは、事例を通じてAI関連技術の特許取得のポイントを確認します。
実施可能要件に関する事例
実施可能要件とは特許法36条4項1号に記載されており、「発明の詳細な説明は、当業者が、明細書及び図面の記載と出願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に記載しなければならない。」という内容です。
以下の事例は、実施可能要件違反の例です。
発明の内容は、人物の顔画像と野菜の糖度をAIに読み込ませることで、生産者の顔画像から野菜の糖度を推定するシステムです。
出願明細書の中には、「人相とその人が育てた野菜の糖度に一定の関係性があること」や「人相を特徴付けるものの例として頭の長さ、頭の幅、鼻の幅、唇の幅」が記載されています。
しかし、具体的にどのような相関関係があるか記載されておらず、実際に本発明によって出力された判定の性能評価結果も示されていません。
サポート要件に関する事例
次に、サポート要件とは特許法36条6項1号に記載されており、「請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであってはならない。」という内容です。
以下の事例は、サポート要件違反の例です。
発明の内容は、人物の顔の形状を表現する特徴量と身長をAIに読み込ませることで、人物の顔の特徴量と身長から体重を推定するシステムです。
出願明細書の中には、「人相と体格には一定の関係が存在すること」や「フェイスライン角度の余弦と、その人物のBMI(体重/(身長の二乗))との間に、統計的に有意な相関関係があること」が記載されています。
しかし、フェイスライン角度以外の顔の形状を表現する特徴量が記載されておらず、明細書の内容に対して請求項の内容が広すぎる結果となっています。
進歩性に関する事例
最後に、進歩性とは特許法29条2項に記載されており、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有
する者(当業者) が先行技術に基づいて容易に発明をすることができたときは、その発明について、特許を受けることができない」という内容です。
以下の事例は、進歩性違反の例です。
発明の内容は、被験者の血液を分析して得られるAマーカーとBマーカーの測定値を入力し、AIによって癌レベルを算出する算出装置です。
先行技術として、被験者の血液から得られるAマーカーとBマーカーの測定値から、医師が癌レベルを算出する算出方法が引用されています。
特許庁の審査官は、医療の分野において医師が行っている推定方法を、コンピュータ等を用いて単にシステム化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないと判断し、進歩性が否定されました。
特許の取得で注意すべきポイント
特許庁が公開しているAI関連技術の審査事例から、以下のことが分かりますね。
実施可能要件については、複数のデータ間に相関関係があると記載するだけでは不十分であり、相関関係の根拠となるデータを記載しておくことがポイントです。
具体的な相関関係の根拠が記載されていない場合でも、出願時の技術常識から相関関係の存在が推認できるなど実施可能要件違反にならない場合もあります。
サポート要件については、請求項の範囲が明細書の記載内容を超えてしまうことに注意しましょう。特にAIで予測した結果を根拠とする場合には、予測精度の検証がないとサポート要件違反となるようです。
進歩性については、今まで人が手作業でやっていたことをAIに置き換えただけでは認められません。また、AIに入力するデータの組み合わせも既知のデータ種類の組み合わせですと進歩性が認められません。今までにない効果を発揮するデータの組み合わせを記載しましょう。
まとめ
今回は、特許審査事例を通じてAI関連技術の特許の取り方を解説しました。
記載要件(実施可能要件、サポート要件)や進歩性の判断など審査結果がどんどん蓄積されていきますので、特許を取得するときには最新実務に詳しい専門家へ相談することをおススメします。
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特許関係の仕事に従事して10年。5年間は特許事務所で500件以上の出願原稿の作成に従事。その後、自動車関連企業の知財部に転職し、500件以上の発明発掘から権利化に携わってきました。現在は、知財部の管理職として知的財産活用の全社方針策定などを行っています。
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