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化学特許の取り方!知財部が徹底解説!

最終製品の特徴が構造でなく、新規の化学物質を使っていることであったり、複数の化学物質の配合であったりすることがあります。

特に、材料メーカーで生まれる発明は化学物質が特徴となりますね。このような発明の場合には、どうやって特許登録や権利活用をしていけばよいのでしょうか?

今回は「化学特許の種類」、「化学特許の取り方」について特許出願書類の書き方を中心に分かりやすく解説します。

<この記事でわかること>
・化学特許とは?
・なぜ化学特許を取るのか
・化学特許の種類
・化学特許登録のポイント

(執筆:知財部の小倉さん

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化学特許とは

化学物質に関連する特許のことで、「化学物質そのもの」、「組成物の配合」、「化学物質や組成物の製造方法」があります。「化学物質そのもの」という中には、「物質の特性」、「化学構造式」などを特徴とする発明が含まれます。

なぜ化学特許を取るの?

新製品の特徴は、構造のように目に見えるものばかりではありません。従来製品と同じ構造だが材料を改良して耐久性を上げたなど、材料や物性を特徴とした製品もあります。そのような場合、化学特許を取ることで他社の模倣から適切に製品を保護することができます。

どうやって保護するの?

特許法で規定されるように、「物の発明」、「製造方法の発明」という発明のカテゴリごとに保護される範囲はそれぞれ異なります。ただし、化学物質という特性を考えると本当に侵害立証ができるかという観点も重要です。

例えば、樹脂組成物の配合は完成品から特定するのは難しいでしょう。単純な配合であれば特定できるのかもしれませんが、微量の添加物や混合後の分離が困難な物質などもあります。そのような場合、特許明細書の中に詳しい配合や狙いなどを書いてしまうと公開損になってしまいます。したがって、流通形態から特定可能な権利範囲で特許登録しましょう。

ノウハウの流出については製造方法でも同じことが言えます。製造方法は基本的に社内でしか実施しない発明です。もし他社に権利行使するのであれば、他社の工場に入って確認しなければなりませんが実質的に不可能でしょう。そこで、製造方法を使った結果が完成品から分かれば特許出願するという判断がよいです。例えば、「特殊な製法で作った物質なので、硬度が〇〇以上である」という場合です。

また、経時変化するものも要注意です。例えば、ゴムは経時変化で硬くなって性能が劣化しまいます。他にも金属などは酸化することで表面状態が変わってしまうこともあります。他社が模倣するのは製品が流通してから時間が経っていることが多く、そうなると経時変化によって権利範囲から外れていることもあるかもしれません。なるべく経時変化が少ないパラメータで権利化しましょう。

化学発明の種類

化学発明は化学物質や組成物など、さまざまな態様で保護されると説明しましたが、もう少し詳しく発明の種類を見ていきましょう。

化学物質の発明

化学物質は、例えば以下のように請求項に【化1】として化学式が示されている。原則、化合物名か化学構造式によって物質が特定されます。

【請求項1】
  陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、
  前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含み、 
  前記化1で示される化合物は、イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを 超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である有機電界発光素子。
【化1】


参考:特開2020-004992

組成物の発明

組成物は、例えば以下のように(A)や(B)などの材料が示され、その割合が質量で特定されている。質量パーセントは質量の比に100をかけたもので、質量ppmは質量の比に100万をかけたものです。質量の比を表すのに質量部という単位を使うこともあります。

【請求項1】
  潤滑油基油と、(A)モリブデンジアルキルジチオフォスフェート、及び(B)ジアルキルジチオリン酸亜鉛とを含有し、該潤滑油組成物全体の質量に対するリンの量が300~1500質量ppmであることを特徴とする潤滑油組成物。
参考:特開2018-123240

パラメータ発明

「自己の発明を特定するために独自に創出したパラメータ(特殊パラメータ)や独自に創出したものではないとしても、発明の属する技術分野では慣用されていないパラメータを用いて特定された発明」をパラメータ発明といいます。例えば、以下のような発明です。

【請求項1】
  安定した酸素欠陥を有する二酸化チタンであって、真空中、77K、暗黒下で測定されたESRにおいて、g値が2.003~4であるシグナルが観測され、かつこのg値が2.003~4であるシグナルは真空中、77Kにおいて少なくとも420nm~600nm範囲の波長の光を照射下で測定した場合、上記暗黒下で測定された場合よりシグナルの強度が大きいことを特徴とする可視光照射下で活性を有する光触媒。
参考:特許3252136

パラメータ発明のメリットは、構造の特定が難しい場合でもパラメータで技術内容を容易に表現できます。ただし、第三者としては実施予定品が権利範囲に含まれるか判断しづらく、公知技術が含まれた内容で特許登録されてしまうことが問題となっています。権利行使のときに疑義が生じないよう明細書の中に測定方法などを明記しておきましょう。

用途発明

「ある物の未知の属性を発見し、この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明」を用途発明といいます。例えば、以下のような発明です。
参考:特許庁 審査基準 特定の表現を有する請求項等についての取扱い

例1:特定の4級アンモニウム塩を含有する船底防汚用組成物

(i) 「船底防汚用」という用途が、船底への貝類の付着を防止するという未知の属性を発見したことにより見いだされたものであるとき。
(ii) その属性により見いだされた用途が、従来知られている範囲とは異なる新たなものであるとき。
(i)及び(ii)の両方を満たすときには、「船底防汚用」という用途限定も含めて発明として認定されます。

用途発明のメリットとしては、用途以外の構成が公知であったとしても特許登録できる点が挙げられます。しかし、米国では「船底防汚用」用途の部分が考慮されずに特許性が判断されるなど国によって取扱いが異なる点は注意しましょう。

化学特許を登録するポイント

化学特許を登録するには、審査官に発明の進歩性を認めてもらう必要があります。ここでは、特許登録するために有効な出願書類の記載方法を説明します。

権利範囲は広いところから徐々に狭めよう

当然、権利範囲は広い方が権利行使しやすいですので、権利範囲に不要な限定を入れず登録することを心がけましょう。例えば、「滴下」というと垂らす意味が入りますので、「混合」とすれば方法を問わず混ぜ合わせる意味となります。「全ての~」や「~のみ」といった限定的表現もよく使われる表現ですが、本当に必要な表現か見直すようにしましょう。

広い権利というのは従来技術を含みやすくなりますので、拒絶理由を受ける可能性があります。その場合には、複数のポイントを段階的に請求項で限定することをお勧めします。例えば、「酸」、「無機酸」、「塩酸、硫酸、硝酸」という風に徐々に限定していきます。もちろん、それぞれの発明の効果は異なるものを書きます。「無機酸」は「酸」の効果にプラスしてより特殊な効果を持っていると思います。さらに「塩酸、硫酸、硝酸」を使えば、プラスの効果を生じるという風に段階的に記載します。

「無機酸」のような途中の概念を中位概念とも言います。このように段階的な記載とすることで不必要に限定せずとも特許が認められます。反対に中位概念を書いていないと中国や欧州など補正が認められない国もあります。外国を含めて権利化したい場合には気を付けましょう。

実施例をたくさん書こう

請求項を広く書けば特許登録となるわけでなく、発明の効果があるということを実験データで示す必要があります。この要件は特許法36条6項1号に規定されており、サポート要件とも言います。

権利範囲が広い場合には、その範囲の中で分散した実験データを取りましょう。もちろん、権利範囲外では発明の効果がないという実験データも取る必要があります。権利範囲内のデータを実施例、権利範囲外のデータを比較例として、効果を比較しやすいように表形式にしてまとめてください。

中位概念を請求項に書いているのであれば、中位概念に対応した実験データも必要です。全ての酸はAという効果を奏し、全ての無機酸はBという効果を奏し、塩酸はCという効果を奏するという実験データです。データが多くなってくると比較例も含めて文章と矛盾していないかチェックが重要になってきます。

予測不可能な効果を書こう

せっかく実施例をたくさん書いても、従来技術から容易に発明できるので進歩性なしと拒絶されてしまうと苦労が報われません。従来技術には書いていない異質な効果を生じること、もしくは同質だが際立って優れた効果を生じること、を記載できれば進歩性が認められやすくなります。

まとめ

今回は化学特許の取り方のポイントを出願書類の記載を中心に解説しました。化学特許は特殊パラメータや用途発明などのテクニックを使うことで特許を登録させることができます。

知財タイムズでは、上記のテクニックに長けた化学分野の弁理士を見つけることができます。化学分野に強い弁理士に相談し、パラメータや構造など多観点での保護を検討しましょう。

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