特許リエゾンとは?企業における役割と必要性を徹底解説!
特許を出願することは重要と分かっているけど開発業務が忙しい。外部の専門家に相談する前に自分の発明が出願に値するのか相談したいけど相談方法が分からない。そのように思いながら特許出願を見送っていませんか?
今回は開発者と特許事務所との橋渡しとなる特許リエゾンの役割や必要性について、企業知財部が解説します!
<この記事でわかること>
・特許リエゾンとは?
・特許リエゾンの役割と必要性
・特許リエゾンの配置の仕方
・特許リエゾンの育成方法
(執筆:知財部の小倉さん)
特許リエゾンとは?
「リエゾン」という言葉はフランス語の「Liaison」に由来し、「関係」「連絡」などの意味があります。つまり特許リエゾンとは、開発者と特許庁との間に入って両者を繋ぐ役割をする特許の専門家です。
パテントリエゾンマン、リエゾン担当者とも呼ばれます。
特許リエゾンの業務
具体的な業務としては、知財戦略立案、発明発掘、出願、中間処理、という出願から権利化までの業務になります。
開発者からは開発品の技術ポイントをヒアリングし、発明提案書を書くためのアドバイスを行うことで、特許出願を活発化します。
特許庁へは出願した発明と拒絶理由で引用された先行技術との差異を説明し、拒絶理由を解消することで、出願した特許を登録させます。
特許リエゾンに必要なスキルと適正
それでは、どのような人材が特許リエゾンとして適しているのでしょうか?
特許リエゾンに最も必要な能力、それは「コミュニケーション能力」です。
開発者とのヒアリングにおいては、傾聴力や深堀する力が必要です。開発者はその道のプロですが特許出願の着眼点を持っていない人も多いです。
そこで特許リエゾンが「この発明をしたきっかけは何ですか?」、「その目的でしたら材料は〇〇でも技術的に成立しますか?」など質問をして発明の本質を引き出す必要があります。
また、特許庁とのやり取りでは、論理的思考力や説明力が求められます。審査官といっても人間ですから発明の内容を間違って理解することもあります。
そのときに特許リエゾンが発明者に成り代わって発明の内容を説明し、従来技術にない技術的意義を認めてもらう必要があります。
つまり、特許リエゾンという役割は、コミュニケーション能力が低いと円滑に業務が進みません。一方で、技術知識は発明者に聞けますし、法律知識は特許事務所を頼ることができます。周りを巻き込みながら成果を出していくマネージャーのような動きができる人が適任です。
自社に特許リエゾンを配置する
実際に特許リエゾンを組織のどこに配置するのがよいのでしょうか?いろいろなパターンがありますので見てきましょう。
外部委託する
社内に適した人材がおらず、育成するノウハウや時間がない場合、特許事務所にリエゾン業務を委託することもできます。
出願書類作成や特許庁手続きを代理してもらっている特許事務所に相談してみましょう。特許事務所としても出願依頼が増えますのでwin-winの関係が期待できます。
知財部に担当者を置く
既に知財部や法務部などの組織がある場合には、その組織の一員として配置することも考えられます。
知財部には出願権利化の他にも契約や渉外など様々な業務があります。特許リエゾン業務以外にも一通りの知財業務を経験することができ、全体を理解したうえでリエゾン業務にあたることができます。また、育成についても指導できる人材が揃っているためスムーズです。
開発部に担当者を置く
開発者と同じ部門に特許リエゾンを配置して、物理的な距離を無くすことも有効です。
別の部門に特許リエゾンがいても、聞きたいことがすぐに聞けないなど、コミュニケーションを取るのが難しいときもあります。その点、同じ部門にいる人であれば毎日顔を合わせているため、開発者が相談しやすい環境となり発明が出願されずに埋もれていくこともありません。
特許リエゾンの育成方法
担当者を配置したとしても勝手に育ってくれるわけではありません。ここではどのように担当者を特許リエゾンとして一人前に育てるかを説明します。
外部研修に参加させましょう
まずは、特許に関する知識を付けなければなりません。独立行政法人 工業所有権情報・研修館に初心者にも分かる動画や資料が無料で公開されています。
これらの資料を読んで知識を身に付けたら、一般社団法人 日本知的財産協会などの有料研修に参加するとよいでしょう。研修の参加者と人脈形成もできますので、さまざまな情報交換の場としても活用できます。
特許リエゾンとして基本的な知識が身に付いたら実践あるのみです。開発者に業務内容をヒアリングさせてもらう機会を設け、実務経験を積んでいきましょう。
発明発掘で心がけること
発明発掘とは開発者から開発品のポイントを聞き、発明を抽出する業務です。
一般的には発明提案書という定型フォーマットに全発明に共通の質問を準備します。代表的な発明提案書の項目は以下のとおりです。
- 従来技術の内容
- 技術的な課題
- 発明の内容(課題をどう解決したか)
- 発明の効果
通常であれば、開発者は自分の開発品について説明することになります。特許リエゾンは特定の開発品の技術内容を一般化して発明を抽出しなくてはなりません。
ポイントは「何が必須の構成か」ということです。例えば、スプーンの発明だとしてスープをすくうという目的ならばスプーンの柄はいろいろな形態が考えられます。真っ直ぐでもよいし、曲がっていてもよいでしょう。
このように、開発者に「こんな形状でも目的は達成されますか?」と質問を繰り返すことで発明の本質を抽出することができます。不要な限定があると権利範囲が狭まり、他社が回避容易で牽制力の低い特許となってしまいます。
特許事務所との面談で気をつけること
発明発掘が完了し、公開済みの他社特許にも類似の技術が見当たらない場合、特許事務所と出願原稿の内容を決めるための面談をすることになります。
ここで注意したいのは、「権利範囲を決めるのは企業である」ということです。つまり、いくら特許が取りやすいからと言って実施されない形態について特許登録をしても企業としては意味がありません。
発明と類似する公開技術がある場合には、実施される製品形態から外れない範囲で、発明を限定していきましょう。開発者もリサーチをしたうえで開発していますので、類似の公開技術があったとしても発明との差異はあるはずです。発明との差異を見つけて技術的意義を主張できる出願書類を弁理士に作成してもらいましょう。
中間処理での注意点
特許庁に出願して審査請求をすると、審査結果が特許庁から届きます。発明の特許性が認められれば特許査定となりますが、公開技術と比較して特許性が認められなければ拒絶理由が通知されます。
拒絶理由への対応は高い特許法や審査の知識が求められますので、基本的には特許事務所にアドバイスをもらいながら特許が取れる範囲を探っていきます。
ここでも出願時の面談と同様、「権利範囲を決めるのは企業である」という意識を持ち、開発者に現状の製品形態をヒアリングしましょう。自社の製品形態だけでなく競合の製品形態もヒアリングし、どちらかを含む権利範囲としましょう。
自社開発品に目が行きがちですが、競合に自社のアイデアを模倣させないことが特許取得の目的であることを忘れないでください。
知財戦略の立案は開発戦略と連携して
単体の特許だけでなく、群としての特許網をデザインするのも特許リエゾンの重要な役目です。知財戦略は社内の開発戦略と合致させる必要がありますので、外部に委託するのではなく社内の担当者に立案させたいところです。
まずは開発の前段階として、同じテーマについて競合が特許出願しているかを調べます。次に自他社特許を同じ指標で比べて、自他社の技術的な強みや弱みを可視化します。そして自社の強みを活かしつつ、他社特許を侵害しないような開発品の仕様を決定します。
知財戦略は立案して終わりでなく、出願権利化をしている途中で計画どおりの状況となっているか自他社特許の状況を定期的にチェックしていく必要があります。
まとめ
特許リエゾンの役割と必要から育成方法まで解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
特許リエゾンは、開発者が頭の中に持っているアイデアを出願という具体的なアクションにつなげていく必要があります。開発者も顧客対応などで忙しいですので、特許リエゾンの力量次第でどれだけ効率よく開発成果を知的財産として保護できるかが決まります。
最初から特許リエゾン業務のすべてを正社員で対応せずに、弁理士など専門家へ委託することで自社の特許実務の運用を優先することも重要です。その場合、弁理士と社内の出願方針や知財戦略を共有して理解してもらうことが必要です。
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特許関係の仕事に従事して10年。5年間は特許事務所で500件以上の出願原稿の作成に従事。その後、自動車関連企業の知財部に転職し、500件以上の発明発掘から権利化に携わってきました。現在は、知財部の管理職として知的財産活用の全社方針策定などを行っています。
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