知財部がない会社必見!特許の出願書類でチェックするべきポイント
知財部がない会社の場合「特許の出願書類をチェックすることになったものの、どのような書類であるかよくわからない」ということもあると思います。
今回はそんな時に役立つ、特許出願の書類で確認するべきポイントを現役弁理士が解説します。
出願書類の構成
まず最初に、特許の出願書類の構成を確認しましょう。
特許の出願書類は、願書、明細書、特許請求の範囲、図面、要約書という5つの書類で構成されています。
- 願書…出願人や発明者の氏名など、書誌的な事項を記載する書類。弁理士に出願書類の作成を依頼すると、代理人として弁理士の氏名などが記載される
- 明細書…特許を取得したい技術(発明)を説明するための書類。明細書には従来技術、発明が解決しようとする課題、発明の効果、発明を実施するための形態などの項目があり、この項目に沿った説明が必要
- 図面…明細書と同じく、特許を取得したい発明を説明する。斜視図、分解図といった図の他、フローチャートやグラフなども記載OK
- 特許請求の範囲…特許権の権利範囲を定めるための書類。特許請求の範囲は請求項によって区分されており、各請求項に特許を取得したい発明を書く
- 要約書…特許を取得したい発明の要点を、代表図と共に記載する。特許公開公報のフロントページに掲載されるのが要約書
出願書類の確認ポイント
出願書類は願書、明細書、図面、特許請求の範囲、要約書ごとに確認ポイントがあります。
ですが特許出願書類の確認ポイントとして共通している点は、技術内容が正確に記載されているかどうか。
それぞれの書類ごとに、確認点を解説します。
なお願書は、発明者の氏名、出願人の氏名などの情報を確認すればOKです。
特許請求の範囲のチェック事項
特許請求の範囲は独特の書き方をするので、まずはその内容について押さえておきましょう。
特許権の権利範囲は原則として、特許請求の範囲の記載によって定められます。具体例として、以下の請求項1が記載されている場合を考えてみます。
【請求項1】断面が非円形状であり、一方の端に消しゴムを取り付けた鉛筆。
このとき、断面が正六角形で一方の端に消しゴムを取り付けた鉛筆は、請求項1の権利範囲に含まれます。しかし一方の端に消しゴムを取り付けていない鉛筆は、「一方の端に消しゴムを取り付けた」という構成を有しないため、請求項1の権利範囲に含まれません。
したがって、特許請求の範囲に余計な構成が記載されていると、必要以上に権利範囲を狭くすることになるのです。ですから余計な構成が記載されているかどうか、をチェックする必要があります。
また特許請求の範囲は、なるべく権利範囲を広くするために抽象的な表現をしていることが多いです。
例えばさきほどの例では、断面が正六角形と正五角形の鉛筆を開発したときに両方を保護し、権利範囲をより広くするために「断面が非円形状」であると表現しています。
ですから、このような抽象的な表現によって製品がカバーできているか、どこまで権利範囲が及ぶか、という点もチェックしましょう。場合によっては弁理士に確認する必要もあります。
明細書で注目する箇所3つ
明細書では、特許を取得しようとする発明が説明されています。そのためこの説明が技術的に正確であるか、をチェックすることがまず求められます。
また明細書の
- 従来技術との違い
- 発明が解決しようとする課題
- 発明の効果
は、権利範囲を定める際に考慮される個所なので、より慎重な確認が求められます。
1.従来技術
この箇所は、従来行われていた技術と、その従来技術の課題が正確であるか、という点を確認しましょう。
もしも従来技術の課題が正確に書かれておらず、そのために「新規に開発した技術で解決する課題が、既に従来技術で解決しているものである」と解釈されてしまうと、この出願書類に記載されている技術は、
- 従来技術に対する進歩性が不十分であると扱われる
- 権利範囲の解釈に影響を及ぼす
こともあるからです。
2.発明が解決しようとする課題、課題を解決する手段、発明の効果
こちらの3つは従来技術における課題から繋がっており、かつ審査時に進歩性を主張できるように記載がされています。
- 発明が解決しようとする課題
請求項1に記載されている「技術が解決しようとする課題」を記載。この「解決しようとする課題」は従来技術における課題と繋がっている - 課題を解決する手段
特許請求の範囲の内容が書かれている - 発明の効果
請求項1に記載された技術によって得られる効果を書く箇所
そのため、これらをチェックするときは、それぞれの記載内容が従来技術における課題から繋がっていて、課題を達成できるというストーリーを表現できているか、に注目してください。
3.実施形態
実施形態では、特許を受けようとする技術の説明、具体的には技術の各構成や機能を説明します。特許請求の範囲に記載されている事項が、漏れなく実施形態に記載されているか、をチェックしましょう。
これは仮に、特許請求の範囲に記載されている事項で、実施形態に記載されていない、ということがあると、記載要件を満たさないとして、特許を取れない可能性があるためです。
機械系・電気系のチェック箇所
機械系・電気系では、特許を受けようとする技術の構成や機能の他、動作について説明しなければいけません。ですから、これらの構成・機能・動作が正確であるか、チェックが必要です。
化学・材料系のチェック箇所
化学・材料系では、特許を受けようとする技術の構成や機能の他、製造方法や、これらの技術による効果を説明するための実施例を記載する必要があります。そのため、これらの事項が正確であるか、チェックする必要があります。
図面のチェック箇所
図面における確認ポイントは、図面が技術内容を正確に表現しているか、という点です。
ただし特許における図面は、縦横比などの大きさが正確でない場合でも、技術内容が正確に表現できていれば、権利範囲に影響が生じることはほとんどありません。
もしも発明分野が機械系や電気系なら、特許請求の範囲に記載されている事項が図面で表現されているか、についてもチェックする必要があります。
なぜかというと、特許請求の範囲に記載されているのに図面に記載されていない、という事項は実施形態でも記載されていない可能性もあるからです。
特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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