商標のファストトラック審査とは?概要から活用方法まで徹底解説
注!2023年3月31日をもってファストトラック審査は休止をしています。
申請・費用負担なしで商標登録出願の審査期間を短縮しよう
商品・サービスに用いられる商標は、出所表示機能・品質保証機能・宣伝広告的機能を担います。
自身が用いる商標が第三者に使用されておらず、また登録されるかどうかは、少しでも早く確認したいものです。
特許庁では、審査期間の短縮を目的とした、ファストトラック審査を運用しています。
本記事ではファストトラック審査の概要・利用の際のメリット・デメリット、商標の審査制度の使い分け方法などをまとめました。
出願から権利化までに必要な期間・費用・手続きを比較する際の参考にしてください。
ファストトラック審査とは?導入の背景
一般的に、商標登録出願から一次審査通知までは、約10ヶ月かかります。
一方でファストトラック審査を利用すると、一次審査通知までの期間は6ヶ月弱に短縮されます。
ファストトラック審査は出願人からの審査期間短縮の要望を受け、2018年10月より運用が開始されました。
2020年2月に運用方法が変更され、利用が促進されています。
現在ファストトラック審査の対象となる案件は、商標登録出願全体の約40%に登ります。
参考:令和2年度に特許庁が達成すべき目標に対する実績評価について
ファストトラック審査の条件
ファストトラック審査は、出願人が自由に審査利用の有無を選択できるわけではありません。
ここでは
- 対象となる商標登録出願
- 申請費用・手続き
- 審査のサポートツール
についてご説明します。
ぜひ、商標登録出願の詳細を検討される際の参考にしてください。
対象となる商標登録出願は?
ファストトラック審査の対象となる条件は以下の2つです。
- 出願時に、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務のみを指定している
- 審査着手時までに指定商品・指定役務の補正を行っていない
このような条件が付けられているのには、理由があります。
上記1の条件を満たしている出願は、指定商品・指定役務が不明確であるかを審査する必要がないため、特許庁が審査する項目を減らせます。
また上記2の条件を満たしている出願は、出願後の手続きの数を減らせるため、特許庁による確認時間を短縮できます。
以上の理由から、2つの条件を満たすとスムーズな権利化が期待できるのです。
申請費用・手続きは?
ファストトラック審査を受けるために追加の費用はかかりません。
また、出願時の特別な手続きも不要です。
ファストトラック審査の条件を満たす内容で出願を行えば、自動的に審査期間を短縮できます。
権利化までの期間を短くするだけでなく、出願人の手間がかからないのは、企業・特許事務所にとって大きなメリットと言えるでしょう。
早期権利化のためにサポートツールを活用しよう
企業・特許事務所が、ファストトラック審査の対象となる出願を行いやすいように、特許庁よりサポートツールが提供されています。
「ファストトラック審査サポートツール」と呼ばれるこのツールは、以下の2つから構成されます。
- 検索支援ツール:ファストトラック審査の対象となる商品・役務の検索支援
- 確認支援ツール:入力した商品・役務がファストトラック審査の対象となるものかの確認支援
ファストトラック審査の利用を検討されている企業・特許事務所は、ぜひこのツールを活用しましょう。
事前にツールを用いて審査の対象となるか否かを確認すれば、不要な中間処理を防ぐことができ、より早く権利化を行えます。
ファストトラック審査のメリット・デメリットをご紹介
商標登録出願から権利化までに重視すべき点は、期間の短さだけではないでしょう。
一定の条件を満たせば特別な費用・手続きなしで利用できるファストトラック審査には、メリットだけでなくデメリットも少なからずあります。
制度を有利に用いられるよう、メリット・デメリットをそれぞれご紹介します。
ファストトラック審査のメリットとは?
ファストトラック審査のメリットとして
- 第三者の商標を模倣していないか早期に確認できる
- 早期の権利化が期待できる
- 権利化後の第三者の模倣に対する警告を迅速に行える
などがあげられます。
たとえば商品発売後、売上が順調に伸びてきた頃に第三者の商標を模倣していることが分かり、商品名を変えて1から販売しなければならない、といったリスクを回避しやすくなります。
製品を販売する上では、第三者品の模倣をしていないことが何よりも重要です。ファストトラック審査を利用しなければ、商標の模倣有無の判断に約10ヶ月かかってしまいます。
また第三者が自社製品を模倣している場合における、警告の時期を早められるのもメリットの一つです。
品質の異なる模倣品が市場に出回り、自社製品の売上が低下するのを防ぎやすくなります。
ファストトラック審査のデメリットとは?
ファストトラック審査のデメリットとして
- 自社が希望する範囲の商品・サービスの権利を取得できない可能性がある
- 出願後から審査着手までの期間に補正(内容修正)ができない
などがあげられます。
ファストトラック審査では、特許庁が素早く審査を行えるように、出願の内容を簡素化する必要があります。
そのため、商品・サービスの詳細まで権利化できない場合があるのです。
例えば、コーヒー豆ひき器について商標を登録したいと仮定します。
下図は、J-PlatPatの商品・役務名検索で「コーヒー」と検索した際の結果の一部です。
商品・サービス国際分類表(写真の「N」マーク)に含まれる「コーヒー豆ひき器(手動式のものを除く。)」はファストトラック審査の対象となります。
一方で、過去の審査において採用された商標(写真の「審」マーク)である「家庭用電気式コーヒー豆ひき器」や「家庭用電気式コーヒーミル」は対象となりません。
このようにファストトラック審査を受けるには、表記にかなり気を遣う必要があり、自社サービスの独自ポイントが記載できないなどの危険性があるのです。
また、補正可能な期間が限定されているのもデメリットの一つです。
第三者よりも早く出願をしなければ権利を取得できない、といった理由からスピード重視での出願を避けられない場合もあるでしょう。
その際、出願後に修正点が見つかった場合でも、審査期間を優先するのであれば、補正ができません。
デメリットを考慮しても早期の権利化を望むのかを、出願前に慎重に検討するようにしましょう。
商標の登録を急いでいる人は早期審査の利用もおすすめ
ファストトラック審査の利用により、商標登録出願から一次審査通知までの期間を6ヶ月弱まで短縮できます。
しかし商品の発売時期といった都合から、さらに迅速な審査を望まれる人もいらっしゃるでしょう。
そんな人にとって選択肢の一つとなる制度が、早期審査制度です。
早期審査制度を利用しますと、一次審査通知までの期間が約2ヶ月に短縮されます。
商標の早期審査とは?
早期審査は、ファストトラック審査よりもさらに短い期間で一次審査通知を受け取れるシステムです。
早期審査とファストトラック審査の違いは下表の通りです。
早期審査 | ファストトラック審査 | |
---|---|---|
審査期間 | 2ヶ月 | 6ヶ月 |
出願から審査着手までの期間における補正 | 可能 | 不可能 |
申請書類 | 必要 | 不要 |
出願時における商標の使用実績 | 必要 | 不要 |
早期審査は、すでに使用している商標について、申請の手間をかけてでも早急に権利化を行いたい人に向いていると言えます。
早期審査・ファストトラック審査・通常審査の違いとは?【使い分け例】
まとめると、商標出願には早期審査、ファストトラック審査、通常審査の3種類があります。
それぞれの特徴は以下の通り。ぜひ、出願の際にどのシステムを使うか検討する際の参考にしてください。
通常審査 | ファストトラック審査 | 早期審査 | |
---|---|---|---|
商標登録の緊急度 | 小 | 中 | 大 |
権利化できる商品・サービスの制限 | なし | あり | なし |
追加申請の必要性 | なし | なし | あり |
出願から審査着手までの補正可否 | 可 | 不可 | 可 |
出願時における商標の使用実績の必要性 | なし | なし | あり |
通常審査は一般的でない商品・サービスに関する商標登録をしたい人向きの方法と言えます。逆にファストトラック審査は、一般的な商品・サービスに関する商標登録をしたい人に向いています。早期審査は、既に使用している商標を早急に権利化したいときに有用です。
とりわけ商標登録の緊急度と権利化できる商品・サービスの制限の有無が、申請方法の検討時に重要となるでしょう。
出願を予定している企業・特許事務所の人は参考にしてみてください。
まとめ
特許庁では、商標登録出願の権利化を早めるために様々な制度を運用しています。
商標を使用する商品・サービスにとって有利となるよう、制度を利用していきましょう。
ぜひ本記事を、自社の商標権の保護方法を検討する際の、参考としてみてください。
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企業の研究開発部門と知財部門での業務を経験。
知財部門では、主に特許出願・権利化業務を担当してきました。
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