にじさんじがライバーの立ち絵を商標で守っているワケ
「にじさんじ」や「ホロライブ」などのVtuberに興味を持ち、調べていったところ、にじさんじは立ち絵で一部のライバーさんの商標登録をしていることがわかりました。
「漫画やアニメキャラなら商標登録しなくても著作権で保護されるのになぜ?」「動いたりポーズが変われば登録している立ち絵と変わるのに意味あるの?」と不思議に思った私は詳しく調べてみました。
そこで分かったのは
- キャラクター自体は著作権で保護されない
- 不正競争防止法による保護が難しい
- 権利の所在を明確にすることでグッズ展開などがしやすくなる
- 商標登録していればキャラクターが動いても総合的に同一のものとして保護されうる
と、いう事でした。
目次
キャラクター自体は著作権で保護されない
これは意外に思いますよね。漫画やアニメを保護しているのはあくまでも、「作者の思想や感情が表現された芸術」という点であって、キャラクター自体には著作権は無い!ということでした。あくまでも漫画やアニメ、絵本、イラストなどに出てくる総合的な表現を著作権は保護しているんです。
著作権は申請しなくても作者に自動的に発生する権利ですが、ライバーさんの立ち絵は著作権での保護では不十分なので、それを補うためにわざわざ申請してキャラクターの商標登録しているようです。
もちろんライバーさんの配信動画はそのまま映像作品として著作権の保護を受けるんですけどね。
ちなみに商標登録には最低十数万円の費用がかかり、登録を受けてからの有効期限は10年です。とはいえ継続申請をすれば、ほぼ永続的に権利を維持することができます。
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不正競争防止法による保護が難しい
不正競争防止法による保護。一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
不正競争防止法はその名の通り、経済活動での不正な競争を防止する目的で制定されています。
例えとして有名ブランド風のバッグを販売した場合、販売者は無名のメーカーであるにも関わらず有名ブランドの知名度にタダ乗りして稼ぎを上げようとしていると解釈されることがあります。それを真似された有名ブランドが司法に訴えると、有名ブランド風バッグがどれほど類似しているかなどの総合的な判断で、不正なタダ乗りと判定されると刑事罰の可能性も含む罰則を受けることになります。
不正競争防止法で保護される範囲は広く、にじさんじのライバーの知名度にタダ乗りしているようなそっくりキャラクターを他者が使用した場合には、司法の判断により差し止めが可能です。
しかし不正競争防止法による自社サービス等の保護のためには、デザインなどを盗用された側、今回で言うならにじさんじ側が「自社サービスの知名度を盗用した側が不正に利用している」ことを証明しなければなりません。
証明として必要な条件はいくつかあるのですが、特に問題となってくるのは自社サービスの知名度の証明です。これを裏付けるのは実際のところ難しいものです。
その点、商標権による保護は、自社が登録している商標と盗用した側が使用しているデザインの類似性を指摘するのみで良く、自社サービスの保護がしやすくなっています。
ちなみに、知的財産権ではなく不正競争防止法で保護する大変さについては、下の記事で詳しく解説しています。
内装の意匠権は必要?建築物・内装デザインを意匠で保護するメリット
権利の所在を明確にすることでグッズ展開などがしやすくなる
先に書いたように著作権は申請不要で、作品が出来たら自動的に発生する権利です。申請不要なのは良いことでもあるのですが、権利の所在が分かりにくくなるという欠点もあります。
Vtuberで言うと…
- イメージとなるビジュアル→外部のイラストレーターが描く
- Live2D/3Dモデル→専門の人が作成
- ライバー→ANYCOLOR株式会社所属の個人
そのため著作権では権利の所在がバラバラでややこしくなってしまいます。
ですが、もしもANYCOLOR株式会社で権利を持つことができれば、権利の所在が明確になりグッズ展開などをしやすくなります。会社で商標登録をすれば、権利が会社に所属するとはっきり分かりますよね。
ちなみに商標登録する際には、その商標を使うサービスや商品の区分もあわせて登録するのですが、にじさんじのライバーさんはキーホルダーや文房具など一般的なグッズの他にもホテル予約の取り次ぎや占いなんかも登録しています。
これは、実際にそのサービスを行うことがなくても先に登録しておくことで他者が似たキャラクターを使用してそのサービスを行うことを防ぐ意味合いもあります。
関連では、東京五輪2020のキャラクター「ミライトワ」と「ソメイティ」も立ち絵で商標登録されています。こちらのキャラクターも基本は立ち絵ですが、色々なポーズをしたりもしますがそれもまとめて保護されています。
商標登録していれば、キャラクターが動いても総合的に同一のものとして保護されうる
商標登録しても動いたりポーズが変われば登録した立ち絵と変わってしまうのに意味がないのでは……。と、思いましたが、商標登録では、立ち絵とは違ったポーズなどであっても総合的に同じものとして保護されることがあるので、登録画像と全く同じでなくても大丈夫なのです。
また、先に書いた通り配信画像はそのまま映像作品として著作権の保護を受けるので、その点でも動いたり服を変えたりしたモデリングでも保護されます。
最後に、最近の動向は…
以上がライバーさんの立ち絵を商標登録する理由と言えますが、にじさんじは最近では立ち絵でのライバーさんの商標登録を行っていないようです。
これは登録のメリットよりも手間や金銭的負担の方が上回っているための判断なのかなあと思います。
商標登録をするためには、最低でも16万円が必要、かつ区分数に応じて費用がかさみます。にじさんじの場合は基本的に17区分を選んでいるので、70万円ほど必要になるでしょうか。
にじさんじのライバー関連出願は2019年を最後にしています。
しかし「ホロライブ」では全く違った商標戦略があるようです。次回は「にじさんじ」と「ホロライブ」の戦略の違いについて、分析していこうと思います。
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ウェブライターの星野小夜子と申します。知財、特に著作権法に興味があります。
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