ITベンチャー向け!ビジネス関連発明の特許の取り方を徹底解説
ソフトウェア特許やシステム特許などIT関連技術は、どのように特許を取得するのが適切か判断が難しいですよね。2021年8月に特許庁から「ビジネス関連発明の最近の動向について」という情報を公開され、「ビジネス関連発明」という分類も出てきました。
ビジネス関連発明の定義や特許の取り方を企業知財部目線で分かりやすく解説します。特に、特許出願を検討しているITベンチャー企業は必見です!
<この記事でわかること>
・ビジネス関連発明の出願動向や時代背景
・IoT関連発明の特許審査事例
・IoT関連発明の特許の取り方のポイント
(執筆:知財部の小倉さん)
ビジネス関連発明の動向
まずは、2021年8月に特許庁から公開されている「ビジネス関連発明の最近の動向について」に記載されている内容を参考にビジネス関連特許の動向を見てみましょう。
ビジネス関連発明とは
ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明です。特許庁ホームページでは、IPC又はFIとしてG06Qが付与された特許出願をビジネス関連発明と定義しています。
特許は技術を保護する制度ですので、販売管理や生産管理などビジネス方法に関する画期的なアイデアを思いついたとしても、アイデアそのものは特許の保護対象になりません。ただ、このようなアイデアがICT(ハードウェア)を利用して実現された場合には、ビジネス関連発明として特許の保護対象となります。
IoTのモデルにおけるビジネス関連発明
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)等の新しい技術が出てくる中で、ビジネス関連発明の活用が注目されています。
例えば、下図のようなIoTのモデルを想定した場合、「⑤分析によって生まれた新たなデータを何かのサービスへ利活用する」「⑥IoTにおけるビジネスモデルを確立する」という段階において、自社のビジネスモデルが組み込まれたシステムをビジネス関連発明の特許として保護できる場合があります。
ビジネス関連発明の出願動向
日本のビジネス関連発明の特許出願件数は下図のように推移しています。2000年に生じたビジネスモデル特許の出願ブーム後の減少傾向でしたが、2012年頃から増加に転じており、2019年には10,769件の出願となりました。
出願増加の背景には、「モノ」から「コト」への産業構造の変化が進んだことで、ソリューションビジネスに関するを想定した研究開発が活発化していることが考えられます。
また、スマートフォンやSNSの普及、AIやIoT技術の進展により、ICTを活用した新たなサービスが創出される分野が拡大していることも一因に挙げられます。
下図は分野別のビジネス関連発明の出願件数の推移で、2019年に出願されたビジネス関連発明のうち上位を占めるのは、以下の3分野です。
(1)サービス業一般(宿泊業、飲食業、不動産業、運輸業、通信業等)
(2)EC・マーケティング(電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等)
(3)管理・経営(社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等)
規模が大きくかつ近年出願件数が増加している分野は、「金融」です。近年はスマホ決済や家計簿アプリといった、ユーザがスマホを介して気軽に受けられる金融サービスが増えているためです。
IoT関連技術の特許審査事例
特許庁は「IoT関連技術の審査基準等について」という資料も公開しており、IoT関連技術の審査基準や12の審査事例を載せています。ここでは、事例を通じてIoT関連技術の特許取得のポイントを確認します。
発明該当性に関する事例
発明該当性では、審査する技術が特許法上の発明に該当するかを議論します。例えば、以下の技術は発明に該当するでしょうか?
サーバー上にユーザーIDに対応する顔画像が保存されており、ユーザーが無人走行車をスマホから呼び出すと、無人走行車はユーザーのもとへ自動走行し、顔画像と本人を認証して配車を行うという技術です。
結論は「発明に該当する」です。無人走行車の配車という使用目的に応じた特有の演算が、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって実現されていることがポイントです。
それでは、次の技術は発明に該当するでしょうか?
サーバーがユーザーから配車依頼を受けると、サーバーはユーザーに対して無人走行車を配車するという技術です。先ほどの事例とかなり似ていますよね。
結論は「発明に該当しない」です。無人走行車をユーザーに配車するという使用目的は特定されていますが、どのような情報処理を行うか具体的な処理手順が特定されていないためです。
新規性に関する事例
新規性では、世の中に既に存在する技術(公知技術)と比較して新規であるか(差異があるか)を議論します。
例えば、以下の技術が公知であったとします。ロボットがサーバーに質問を送信し、サーバーからの回答に応じた動作をする技術です。サーバーから回答される情報は物体の種類に関する情報です。
この公知技術に対して新規性のある発明とは、以下のようなものです。
ロボットがサーバーに質問を送信し、サーバーからの回答に応じた動作をするという点は同じです。サーバーから回答される情報は物体個々の属性情報および個体識別情報という点で公知技術と異なります。
また、この例のように「二以上の装置を組み合わせた全体装置、二以上の工程を組み合わせた製造方法」のことをコンビネーションと言います。
ここでのコンビネーションはロボットとサーバーの組み合わせです。コンビネーションの一部(ここではロボット)を請求項として表現することをサブコンビネーションのクレームと言います。
進歩性に関する事例
進歩性では、公知技術との差異について専門家(当業者)であれば容易に思いつくかを議論します。
例えば、以下の技術が公知であったとします。ユーザーの毎日のランニングの履歴を腕時計型デバイスに記録し、記録されたラップタイムの情報を比較し、表示してくれる技術です。例えば、同じ100m地点のタイムは前日よりも今日のほうが早いという風に表示してくれます。
この公知技術に対して進歩性のある発明とは、以下のようなものです。
ユーザーの毎日のランニングの履歴を腕時計型デバイスに記録し、記録されたラップタイムの情報を比較し、表示してくれることは同じです。ただ、比較する情報が他ユーザーのラップタイムである点が公知技術と異なります。
公知技術ではユーザー同士の関連性には言及されていません。さらに発明は、ユーザが一人でランニングしていても他者との競争感覚を得られるという効果が得られますので、専門家が容易に思いつくものではありません。
特許の取得で注意すべきポイント
特許庁が公開しているIoT関連技術の審査事例から、以下のことが分かりますね。
発明の該当性については、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって使用目的に応じた特有の情報処理システムを構築するという点がポイントです。ただし、目的だけでなく具体的な処理手段や処理手順も記載しましょう。
新規性については、従来技術との差異を明確にしましょう。また、サーバーやロボットなど複数の装置の組み合わせの場合には、サブコンビネーションの発明となることがあります。
サブコンビネーションの発明(例えばロボット)の場合には、他のサブコンビネーション(例えばサーバー)の動作によって影響を受ける処理手順などを特定することも有効です。
進歩性については、その技術分野における専門家が公知技術から容易に思いつく発明でないことを、明細書や請求項といった出願書類の中に記載しなければなりません。発明が持っている今までにない機能や付加価値を明確にすることが重要です。
まとめ
今回はビジネス関連発明の特許の取り方として、特許審査事例を通じてIoT関連技術の特許の取り方を解説しました。
発明の該当性や進歩性の判断などは専門家でないと判断が難しく、特にIT関連の発明は新しい分野なので専門家に相談することをおススメします。
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特許関係の仕事に従事して10年。5年間は特許事務所で500件以上の出願原稿の作成に従事。その後、自動車関連企業の知財部に転職し、500件以上の発明発掘から権利化に携わってきました。現在は、知財部の管理職として知的財産活用の全社方針策定などを行っています。
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