企業知財部が語る!基本的な構造特許の取り方!
特許は発明を対象としていますが、発明の中には様々な技術的特徴が含まれます。例えば、物の構造、製造方法、材料の配合、ソフトウェアの処理、データ構造などです。
特許出願書類はもちろん専門家である弁理士に依頼し、作成してもらいます。しかし、最終的にどのような権利範囲で登録されたかは権利者である企業が把握し、活用していく必要があります。
今回は、最も基本的な特許である「構造特許」(物の構造の発明)について、権利範囲の設定や特許の取り方を解説します。
<この記事でわかること>
・構造特許とは
・広く強いクレームの書き方
・明細書で記載すべき内容
(執筆:知財部の小倉さん)
構造特許とは
特許法には「構造特許」という言葉はありません。本記事でいう構造特許とは「物の発明のうち、物の構造に技術的特徴を有する発明」を指します。技術は実物の製品として世の中に出ることが多いため、特許も構造特許が多く出願されています。
構造特許のメリット
製法特許でなく構造特許で権利化するメリットとして、「他社が実施しているかどうか見た目で分かる」という点があります。製法特許の場合には、他社の工場内でその製法を実施しれいるかを証明しなければならず、権利活用に難しさがあります。
構造特許のデメリット
デメリットとしては、特定の構造を権利化するため権利範囲が狭くなりやすいという点があります。また、物の構造に関する特許は各社から出願されており、類似の構造が既に出願や公開されているため特許登録されにくいという点もあります。
構造特許のクレームの書き方
クレームとは「特許請求の範囲」と呼ばれる書類で、特許庁に特許権として登録してほしい権利範囲を請求する書類です。上述した構造特許のメリット・デメリットを考慮したクレームの書き方を紹介します。
構成要件列挙型で書く
クレームの形式は1つではありません。その発明を表現するのに最適な形式を弁理士が選定します。代表的なクレームの記載形式を以下に示します。
【構成要件列挙型】
・・・である要件1と、
・・・である要件2と、
・・・である要件3と、
を備える装置A。
構成要件列挙型(構成要素列挙型ともいう)は現在主流の記載形式で、構造特許に限らずこの形式をオススメします。理由は、権利範囲が明確で侵害立証が容易だからです。上の例で言うと、装置Aが要件1~要件3を備えることを証明すればよいのです。
この形式は米国でも標準ですので、外国出願することも考えて日本出願でも構成要件列挙型で記載するのがよいでしょう。
【書き流し型】
・・・である要件1が・・・である要件2と接続され、
これに要件3に設けられた装置A。
書き流し型は昔に主流だった記載形式ですが、各構成要件の関係が一続きで記載されています。どこまでが1つの要件か分かりづらいですね。審査官も誤って発明を認定してしまう可能性があります。
【ジェプソン型】
・・・である要件1と、
・・・である要件2とを備える装置Aにおいて、
・・・である要件3が設けられたことを特徴とする装置A。
ジェプソン型は前提部分と特徴部分を明記した形式です。発明の特徴部分(従来技術との差異)が分かりやすいので、発明のポイントを審査官に強調できます。
しかし、米国では前提部分(プリアンブル)に記載された発明は従来技術とみなされ、特許性の主張に前提部分の構成が使えなくなってしまうので注意が必要です。
大きな概念から段階的に実施品へ向かう
クレームの記載形式が決まったら次は内容です。クレームの内容を決めるには、従来技術の把握が必要不可欠です。まずは先行技術調査をして発明に最も近い従来技術を把握しましょう。
次に、従来技術と発明との構成上の差異を見つけましょう。一般的には、開発者から発明に関する説明資料をもらい、その中から差異を抽出します。例えば、従来技術が「ガソリン車」で、発明が「電気自動車」だったとします。すると、それらの違いは以下のようなものがあります。
電気自動車は、ガソリン車と比較して・・・
- 「燃料タンク+エンジン」が不要となり、「電池+モーター」で駆動するので、走行中の振動が少なく静か。
- ガソリンでなく電力を使うので、排気ガスが出ず、走行による環境への悪影響が少ない。
請求項1(メインクレーム)には必要最低限の構成の差異だけを記載します。見つけた差異ごとに請求項を作成し、下位の請求項(サブクレーム)として請求項1にプラスしていき徐々に開発品に近づけます。最終的に一番最後のクレームが開発品そのものの構成となるように請求項を記載します。
このように段階的に請求項を書くのは、発明を少しずつ狭めていきながら最も広く権利が取れる構成を探るためです。なるべく広い権利が取れた方が他社にとっては脅威となります。
部品と完成品のクレームを書く
発明が部品である場合、想定される完成品の請求項もクレームに入れておくことをオススメします。また、完成品が発明である場合、部品のクレームも作成できるか検討してみてください。
例えば、部品メーカーであれば自社製品は部品で、顧客の製品が完成品となります。もちろん、無断で特許登録されている部品を使用することは顧客であろうと許されませんので、部品のクレームでも牽制力はあります。
しかし、完成品のクレームがあれば、それを直接販売しているのは顧客ですから、さらに強い牽制力を発揮することとなります。したがって、「請求項1に記載のエンジンを備える車両」のようなクレームも作っておくとよいでしょう。
構造特許の明細書に記載すべき内容
クレームに記載した内容を出願し、特許庁の審査で登録査定をもらうには、明細書の記載が大変重要になります。明細書で開示した内容が充実していれば、広い権利を登録しやすくなります。
しかし、明細書の内容が薄いと、開発情報だけを開示して権利にならない可能性が高くなります。ここでは特許を登録しやすくするためのポイントを見ていきます。
権利範囲に含まれる変形例を書く
メインクレームは必要最低限の構成を記載すると記載しましたが、広い特許を取るためには1つの実施例だけでなく、権利範囲に含まれる変形例も記載しておく必要があります。
- 例1)「モーターの回転によりタイヤが回転して走行する車両」
この権利は、ハイブリッド車も電気自動車も含みますので、両方の形態を明細書の実施例や変形例として記載しておく必要があります。
- 例2)「外形が非円形のハンドルを備える車両」
この場合、明細書に三角形や四角形など実施可能な複数の形態を開示しなければ、審査官としては実施例の構成に限定した権利範囲しか認められないと考えるかもしれません。
構造特許は化学系の特許とは異なり、権利範囲を特定するのに実験データは不要です。しかし、明細書に書いた構造が実際に作れるように記載しなければなりません。実際に開発した構造に加え、自社や他社が実施しそうな構造を変形例として製造方法と一緒に記載するようにしましょう。
発明の効果を構成ごとに書く
従来技術と発明との差異、実施例や変形例を記載することが話してきましたが、ここで重要なのは構成とその効果をセットで記載することです。「~という構成があるので、~という効果がある」といった感じです。従来技術にはない利点を書いておくことで、特許性(新規性、進歩性)の主張をしやすくなり、特許登録しやすくなります。
製法特許との使い分け
製造方法に技術的特徴がある場合には、他社に特許を取られないよう製法特許のクレームを入れることも検討したほうがよいでしょう。その場合、以下の点に注意しつつクレームを作りましょう。
製造ノウハウを書かない
製造方法を記載する場合、どの程度記載すれば特許登録できるのか分からず、ノウハウを書いてしまう場合があります。例えば、温度や処理時間など詳しい製造条件です。従来技術には無い有利な効果が主張できればよいので、実際の製造条件と同じ数字を書く必要はないかもしれません。
製品の形状から製造方法が特定できる
製造方法の中には、その処理を行うと製品に痕が残り、製品形状から製法が特定できるものもあります。そのような場合、構造特許に加えて製法特許を権利化することでより強い牽制力を発揮できるかもしれません。
まとめ
今回は特許の中でも出願が多い構造特許について、基本的なクレームや明細書の書き方を解説しました。最終的な出願書類や特許庁への手続きは、特許事務所の弁理士に依頼することになります。
あなたの会社にも構造特許として出願できる発明がありそうなら、他社よりも先に特許登録するため、専門家にまずは相談しましょう。知財タイムズでは、完全無料であなたにぴったりの特許事務所を見つけることができます。お気軽にご相談ください。
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特許関係の仕事に従事して10年。5年間は特許事務所で500件以上の出願原稿の作成に従事。その後、自動車関連企業の知財部に転職し、500件以上の発明発掘から権利化に携わってきました。現在は、知財部の管理職として知的財産活用の全社方針策定などを行っています。
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