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オープンイノベーションのための知財戦略!仲間づくりの特許活用事例!

近年、プロダクトライフサイクルの短期化、新興国企業を含めた競争の激化、顧客ニーズの多様化などの背景から、企業はグローバルでの競争を勝つことが難しくなっています。そこで、社外から技術やノウハウを活用して革新的な製品やサービスを開発する経営戦略であるオープンイノベーションが重要となっています。

今回は、オープンイノベーションで自社の技術やノウハウだけを提供するのではなく、知財を活用してWin-Winの仲間づくりができるよう「オープンイノベーションの知財戦略」を企業知財部の目線で解説します。

<この記事でわかること>
・オープンイノベーションの知財戦略の必要性
・知財戦略による仲間づくりの事例紹介
・オープンイノベーションの知財戦略における注意事項

(執筆:知財部の小倉さん

特許事務所・知財部の専門求人サイト「知財HR」

オープンイノベーションでの知財戦略の必要性

知財戦略については、特許庁の「オープンイノベーションポータルサイト」やIP BASEの「オープン・イノベーション(企業連携)」に参考となる情報がたくさん掲載されています。オープンイノベーションポータルサイトには、知財リスクに関する資料が公開されており、オープンイノベーションと知的財産との基本的な関係が説明されています。

オープンイノベーションのメリット

なぜ、オープンイノベーションが必要なのでしょうか。それは社外から技術やノウハウを取り入れることで、以下のメリットが享受できるからです。

  • 開発スピードのアップ
  • 多様な顧客ニーズに対応できる
  • 企業同士で強みを伸ばしたり、弱みをカバーできる

大企業は株主の意向が優先されること、イノベーション初期は市場規模が小さいことから合理的に判断するとイノベーションに後れを取る判断をしてしまいます。そこで、中小ベンチャーや大学など意思決定しやすい組織がシーズを出しつつ、大企業がその事業化を支援するというモデルが日本では機能するようです。

オープンイノベーションに潜む知財リスク

大企業と中小企業が連携する場合、どうしても大企業の方が優位な立場となりやすいのが現実です。特許庁の資料で、製造業者3万社に書面調査した結果、以下のような知財・ノウハウの不当な吸い上げ事例が多数報告されています。

  • 片務的な秘密保持契約(相手の秘密は守られ、自社の秘密は守られない)
  • 知財の無償譲渡等(一方的な無償ライセンス)
  • ノウハウの開示強要(レシピを記載されられた後、取引停止される) 等

これは、大企業に比べて中小企業に契約や取引の内容をチェックする担当者や相談できる外部専門家が少ないことが原因となっているようです。今後は、取引先の契約ひな形にサインするのではなく交渉をする必要があり、中小企業の中で技術法務の専門家を育成していかなければなりません。

知財戦略による事業リスクの低減

オープンイノベーションにはリスクがあると解説しましたが、このリスクは知財戦略によって低減することができます。

それでは、どのような知財戦略でオープンイノベーションに臨めば、自社の知的財産を適切に保護しつつパートナー企業と事業を発展させることができるのでしょうか?

オープンイノベーションを成功させる知財戦略のカギは、自社や提携先の状況を考慮し、両者にとって最適な関わり方を選択することです。

特許庁が運営するIP BASEというサイトで「オープン・イノベーションのベストプラクティス」が公開されており、知財戦略の指針が示されています。このサイトでは、大企業とベンチャー企業(中小企業)のオープンイノベーションの類型として両者の関わり方を解説しています。

オープンイノベーションの類型(パターン)

オープンイノベーション
  • パートナーシップ型(強い束縛はせず、緩やかな関係)
  • コミット型(知財獲得への意識が強く、リスクを取って深くコミット)
  • 共生型(長期間かけて研究開発、協調・共生)

新規事業の創出など企業同士の関係を築く段階ではパートナーシップ型で進め、共同研究や開発段階では共生型、オープンイノベーションの成熟期ではコミット型と、オープンイノベーションの目的に応じて協力関係を変化させていくとよいです。

また、大企業は多くの特許を保有しており、中には使われていない休眠特許もあります。中小企業はそのような特許を活用して事業化ができれば、安いライセンス料で他社参入を防止できます。

共同研究や共同開発を行った場合、大企業としては知財権を自社で単独保有して安心したい、中小企業としては広く活用して自社技術として単独保有してPRしたいという思惑が衝突するかもしれません。技術アイデアが中小企業のものであれば、単独保有を主張しつつ、大企業には無償でライセンスするという交渉も一案です。大企業としても特許の管理が不要となり、自社実施も担保されていますので交渉の余地があります。

中小企業としてはどのような権利を保有しているかが、企業価値を評価するうえで重要な指標になりますので、大企業に無償ライセンスしたり、自社が実施する地域や業界を限定するなど交渉することによって、単独で知財権を保有することが1つの戦略となります。

オープンイノベーションにおける知財戦略の事例紹介

次に、特許庁の広報誌「とっきょ」Vol.41で紹介されているオープンイノベーションの事例を紹介します。

KDDI:ベンチャー企業を積極的に支援し事業共創

大手通信事業者のKDDIは早くからベンチャー企業の支援事業を行っています。KDDIは、ベンチャー企業の利益を第一優先としてベンチャーコミュニティーの運営にあたっています。

ベンチャー企業に対して人や場所、ノウハウなどの事業支援を行う「KDDI ∞ Labo」を開始し、2012年には、国内外の有望なベンチャー企業に投資を行う「KDDI Open Innovation Fund」を立ち上げて、資金面でもベンチャー企業を支援しています。2018年には、大手企業とベンチャー企業とをマッチングさせた事業共創も推し進めています。

さらに、弁理士を招いたセミナーなどでの啓発、契約書の書き方といった実務面までベンチャー企業をサポートし、ベンチャー企業の知財意識の向上を図っています。

FLOSFIA:京都大学発の技術シーズを産業化

FLOSFIAは、京都大学発の技術を発展させ、大手企業との協業を進めるベンチャー企業です。多様な原料をミスト化して成膜する「ミストドライ法」の事業化、それを活用したパワー半導体の新材料「コランダム構造酸化ガリウム(α-Ga₂O₃)」を用いたパワーデバイスを軸に、さまざまな分野で応用の可能性を探っています。

2018年にはデンソーとの資本提携を行い、α-Ga₂O₃の車載応用に向けた共同開発を開始しました。ハイブリッド車や電気自動車向けのパワーコントロールユニットに搭載する低損失パワー半導体の研究開発を進めています。そのほか、複数の企業との資本提携・協業も進んでいます。

ベンチャー企業として、開発技術の詳細などを提示しすぎないよう注意し、さらに基本特許を保有するという特許戦略で競合他社から技術を守っています。

知財戦略を実践するにあたっての注意点

特許庁の運営するIP BASEでは、「知財を使った企業連携4つのポイント」という資料で大企業との契約における失敗事例がまとめて公開されています。よくある事例として2つのポイントを紹介します。

秘密情報管理の失敗

<事例>
A社の営業社員は B 社に求められるままに素材 Xの技術情報(ノウハウ)を開示してしまった。 A社とB社の取引が始まってしばらくしたある日、A社が提供したノウハウを基礎とした特許が B社より出願されてしまった。

失敗としては、A社内で社内情報の管理がされていなかったことでした。例えば、社内情報をレベル分けして管理し、社内で共有することで、相手に教えてよい情報かどうかを判断することができたと思われます。社外に渡してならない情報であれば、情報へのアクセス権を制限することも必要です。

共同開発契約の失敗

<事例>
E 社は F社との共同開発終了後に、共同開発時に提供したノウハウを基礎とした特許を F 社より出願されてしまった。また、F 社は E 社と同時に F2 社とも類似のテーマについて共同開発を進めていたことが判明した。

失敗としては、共同開発前にお互いが保有している情報の開示がされていないことでした。そして共同開発前に自社の技術に関しては出願完了しておくなどの対応が必要でした。共同開発中に他社との開発を禁止するなどの規定を設けることも必要でした。

まとめ

今回は、オープンイノベーションの戦略について、特に中小企業が注意すべき点について解説しました。中小企業は知財に詳しい人材が少ないのですが、上手く大企業と連携していくことで知識を得られたり、開発費を援助してもらうことができます。

ただ、契約書の内容や知財戦略の立案に関しては、大企業とも利害が反するところですので、弁理士などの専門家の助けが必要となります。

またオープンイノベーションを視野に入れた権利化の方法と、その他を目的とした権利化の方法では、明細書の言葉遣いなど細かな点で違いが出てきます。

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