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キルビー特許訴訟から分かる権利行使の注意点!

特許 訴訟

今回は他社に権利行使する際に注意しないと、権利濫用と判断され権利行使が認められない場合があるという裁判例を紹介します。

特許は登録されたとしても無効理由を抱える場合があるということを具体的な事例に沿って見ていきましょう。

<この記事でわかること>
・キルビー特許訴訟の概要
・平成16年の法改正で追加された内容(特許法104条の3)
・企業として権利行使の際に気を付けること

キルビー特許訴訟の詳細

キルビー特許とは

テキサス・インスツルメンツ (TI)社 の集積回路に関する特許です。2000年ノーベル物理学賞を受賞した発明者のジャック・キルビーの名前を取ってキルビー特許と言われています。日本では特許第320249号、特許第320275号として、米国ではUS3138743、US3138747、US3261081、US3434015として登録されています。

訴訟の経緯

TI社が特許第320275号を根拠として、富士通に対しラインセンス料の支払いを求めました。富士通は自社製品であるDRAMがTI社の特許を侵害しないと主張し、非侵害であることを確認するために訴訟を提起しました。米国で1959年に出願された集積回路を広く含む特許でしたが、判決としては富士通の非侵害でした。

裁判例の原文は裁判所ホームページから以下のとおり確認できます。

当事者の主張

キルビー特許の権利範囲は以下の内容でした。

特許第320275号の権利範囲
 複数の回路素子を含み主要な表面及び裏面を有する単一の半導体薄板と;
 上記回路素子のうち上記薄板の外部に接続が必要とされる回路素子に対し電気的に接続された複数の引出線と;
を有する電子回路用の半導体装置において、
(a) 上記の複数の回路素子は、上記薄板の種々の区域に互に距離的に離間して形成されており、
(b) 上記の複数の回路素子は、上記薄板の上記主要な表面に終る接合により画定されている薄い領域をそれぞれ少くともひとつ含み;
(c) 不活性絶縁物質とその上に被着された複数の回路接続用導電物質とが、上記薄い領域の形成されている上記主要な表面の上に形成されており;
(d) 上記互に距離的に離間した複数の回路素子中の選ばれた薄い領域が、上記不活性絶縁物質上の複数の上記回路接続用導電物質によって電気的に接続され、上記電子回路を達成する為に上記複数の回路素子の間に必要なる電気回路接続がなされており;
(e) 上記電子回路が、上記複数の回路素子及び上記不活性絶縁物質上の上記回路接続用導電物質によって本質的に平面状に配置されている;
ことを特徴とする半導体装置。

富士通の製品は「複数のメモリセルを含むメモリセルアレイを有し、各メモリセルは回路素子であるMOSFETとキャパシタからなる、DRAM」でした。TIは富士通のDRAMが本特許を侵害するとして実施料相当額を請求しました。

技術的範囲の議論

富士通の製品はどの部分で侵害しないと言うことができたのでしょうか?

東京高等裁判所は、富士通の製品はTI社の特許権の構成要件(c)「不活性絶縁物質とその上に被着された複数の回路接続用導電物質とが、上記薄い領域の形成されている上記主要な表面の上に形成されており;」を満たさないと判断しました。

より詳細には、以下のように述べています。
本件発明の「被着」の意義を、導電物質を絶縁物質上にマスク蒸着 し、CVDにより密着し、スパッタリングにより密着する技術手段を含むものと解することはできない。

最高裁判所の判断

最終的にTIと富士通は最高裁判所で争いました。最高裁判所は東京高等裁判所の判決を是認しつつ、以下のように判断しました。

  • 特許第320275号は分割出願であり、分割元の親出願と実質的に同じ権利範囲である。
  • 親出願は公知技術から容易に発明できるとして拒絶確定している(登録されていない)。
  • 特許第320275号は親出願を根拠に拒絶されるべきもので無効理由を含む。
  • このような無効とされる蓋然性が極めて高い本件特許権に基づき第三者に対し権利を行使することは、権利の濫用として許されるべきことではない。

この判決が出た時には、本特許権について無効が確定していませんでした。しかしながら、裁判所は権利の濫用にあたるとして損害賠償の請求を認めませんでした。

従来は無効審決が確定しなければこのような判決が出ることはありませんでしたが、裁判所が特許無効の判断をした画期的な事件となりました。

法改正のポイント

平成16年改正

裁判所法等の一部を改正する法律により特許法104条の3という条文が追加されました。条文の具体的文言は以下のとおりです。

「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。」

まさに最高裁の判断をそのまま法律にした感じですね。

これによって、無効審決の確定までは特許権が有効に存続するものの、無効理由の存在が明らかな場合には本条文で差止請求や損害賠償請求が認められないことになりました。

企業として今後すべき対応

キルビー特許訴訟から企業として何を学ぶべきでしょうか?

TI社も登録特許に基づいて権利を主張したので本来なら問題は無いはずです。自社が同じ状態にならないよう以下のことを気を付けるとよいでしょう。

特許調査をしっかりとやる

とても基本的なことですが、出願前の特許調査をしっかりとやりましょう。

特許出願をすると登録した気持ちになってしまいますが、特許性がなくともお金を払えば出願自体はできてしまいます。また、「出願日をいつまでに(試作やプレゼンなど)」という期限が決まっていることも多いと思いますので、時間が無いかもしれません。

そのような中で出願前の特許調査(先行技術調査)をやるのは難しいことですが、自社製品の開発が進み始めた段階、例えば製品コンセプトが決まった段階で知財部や特許事務所などの専門家に入って調査してもらうのがよいでしょう。

そうすれば、時間に余裕をもって調査することができ、出願期限にも間に合わすことができます。

登録特許でも安心できません!

キルビー特許もそうでしたが、登録特許だからといって無効理由が無いとは限らないです。特許庁の職員も人間ですので、拒絶理由を見逃してしまうこともあるかもしれません。だからこそ無効審判という制度があるとも言えます。

実際に差止請求や損害賠償請求などの権利行使をするタイミングで、特許の有効性調査をやりましょう。

つまり、権利行使の根拠となる特許権が無効理由を含まないかチェックしましょう。具体的には調査範囲を変えた特許文献の再調査、製品レベルで公知資料が無いかという調査になります。

これは先行技術調査の結果なども専門家に提供して効率的に行うとよいです。また、自他社の製品情報などは開発部門しか持っていないこともありますので、自分で製品を買ってきて調べることになるかもしれません。

このような調査をして無効理由がないことを確認してから権利行使の段階に移りましょう。

まとめ

今回は知財判例の中でも特に画期的な判決が出たキルビー特許訴訟を解説し、企業が特許を取る時や権利行使をする時に必要な対応についても触れました。

特許を有効に活用しようとするなら、出願前や権利行使前の特許調査が重要となります。特許調査についてはこちらの記事で詳細に解説しています。

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