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特許訴訟の事例!ダイムラーVSノキアの標準必須特許をめぐる訴訟!

自動車業界は今、100年に一度の転換期を迎えています。CASE(Connected、Autonomous、Share & Service、Electric)を合言葉に「車外との通信、自動運転、商用車、電動化」に関する技術が積極的に開発されています。

この開発動向の変化により、自動車業界の外からプレイヤーが参入してくることが増えました。その一つに今回のノキアに代表される通信技術を有するメーカーです。

今回は、自動車大手のダイムラーと通信機器大手のノキアとの特許訴訟の経緯と結果を解説し、本訴訟から日本企業として標準必須特許に注意すべきポイントもあわせて解説します。

<この記事でわかること>
・ノキアのLTE(4G)必須特許のダイムラーとの特許訴訟の経緯
・本訴訟が自動車業界に与える影響
・日本企業として標準必須特許に注意すべき点

(執筆:知財部の小倉さん

ダイムラーとノキアの特許訴訟の経緯

ダイムラーがノキアへ特許使用料を支払うことで決着!

2021年6月1日、インターネットとの通信機能を備えた「コネクティッドカー(つながる車)」に関する標準必須特許をめぐる訴訟で、ドイツ自動車大手のダイムラー(Daimler)とフィンランド通信機器大手のノキア(Nokia)は、ダイムラーがノキアに特許使用料を払うことで合意(和解)しました。

ノキアは4月にも中国レノボとの間で、レノボが特許使用料を支払うことで合意する契約を結んでいます。また、BMW、フォルクスワーゲン、ボルボなど他の自動車大手もノキアに特許使用料を支払っています。これらを合わせると、ノキアが得ているライセンス収入は年額14億ユーロとなります。

ノキアの特許はLTE(4G)の標準必須特許

ジェトロ(日本貿易振興機構)から公開されている資料「デュッセルドルフ地方裁判所、標準必須特許のライセンス交渉に関する質問を欧州連合司法裁判所に付託」によると、本訴訟は欧州特許EP2087629B1に関するもので、本特許は通信規格LTE(4G)の技術を使う場合に必須となります。

2019年3月、ノキアはライセンス料は最終製品メーカーであるダイムラーが支払うべきだと主張し提訴しました。一方、ダイムラーは通信制御ユニットを生産する部品メーカーとノキアが交渉すべきだとして要求を拒否していました。本訴訟の経緯は日経クロステックの記事「ノキア対ダイムラー、通信特許争いが5G時代の製造業に暗雲」にも詳しく載っています。

ダイムラーは反撃に出るも敗訴

ダイムラーはノキアの訴えに対して欧州委員会で苦情を申し立てました。ダイムラーは「ノキアは当社のサプライヤーへの特許ライセンス供与を拒否している。通信に不可欠な標準必須特許を持つ企業は公正かつ被差別的に特許ライセンスを提供すべきだ」とコメントしました。

さらに、ダイムラーの主要サプライヤーであるコンチネンタル(Continental)が19年5月、ノキアやスウェーデンの通信機器大手エリクソン(Ericsson)などが参加するパテントプール「Avanci」が法外な特許ライセンス料を設定しているとして米国の地裁に訴えました。コンチネンタルは、特許ライセンス料が通信ユニットの価格の20%を占めていることを主張しました。

このようにダイムラーは反撃しましたが、2020年8月18日ドイツのマンハイム地裁はノキアの主張を認め、ダイムラーに対してノキアの特許技術を使用することに対して差し止め命令を出しました。この判決に対し、ダイムラーは「判決は受け入れられない」として控訴する方針を明らかにしました。

最後はダイムラーが特許使用料を支払うことに

2021年6月1日、冒頭で述べたように本訴訟は、ダイムラーのノキアへのライセンス料の支払いで決着しました。契約の内容は非公開ですが、ノキアはダイムラーに対する特許訴訟を取り下げ、ダイムラーは欧州委員会への訴えを取り下げます。本和解の内容は日本経済新聞の記事「ダイムラー、「つながる車」でノキアに特許使用料」にも詳しく載っています。

ノキアはダイムラーを相手にドイツで複数の裁判を起こしており、ノキアが勝訴した裁判ではダイムラーは控訴していました。しかし、ダイムラーとしてはノキアが特許使用を許諾しなければ、本特許を使用している製品の生産や販売ができなくなるリスクがありました。

和解の後、ノキアは「今回の和解は、ノキアの自動車向けのライセンス事業の成長の機会を証明する非常に重要な節目だ」と述べ、ダイムラーは「経済的な観点、そして長期間にわたる法廷での論争を避けられるという点からも和解を歓迎している」と述べています。この両社のコメントからすると、和解する方が訴訟を継続するよりも互いにメリットがあるということなのでしょうね。

本訴訟が自動車業界に与える影響

今後の特許保証の方針として活用できる

カーメーカー(自動車メーカー、OEMとも言う)はコネクティッドカーの対応車種を増やしています。調査会社の富士経済によれば、コネクティッドカーの新車販売台数は2035年に2020年見込み比で3倍の約9000万台になる見通しで、世界の新車の8割強がコネクティッドカーになる見込みです。

本訴訟は特許使用料をカーメーカーが支払うのか、部品メーカーが支払うのかが争点となっており、注目度が高い裁判でした。今回は部品メーカーの権利を尊重する形で終結したことから、部品メーカーが主張しやすくなるのかもしれません。

特許を活用して顧客と対等になれる!

ノキアのように最終製品に必須な自社技術を特許権にしておけば、力関係が弱くなりがちな部品メーカーが顧客と対等に交渉できます。権利範囲が多少狭くなっても、製品を設計したら必ず使う技術は特許出願しておきましょう。また、1つの特許では製品のバリエーションをカバーできなければ、複数の特許でカバーしてもよいです。異なる仕様で同じ効果を発揮するものは特許出願しておきましょう。

日本企業として標準必須特許に注意すべき点

カーメーカーは高額なライセンス料を請求される?

コネクティッドカーは付加価値の高い自動車ですので、カーメーカーに巨額のライセンス料が請求されるようです。これにより、カーメーカーの危機感は強まっており、日本自動車工業会ではホンダやトヨタなど有志で通信特許に関わる専門部会を設立し、情報収集などを進めているようです。

カーメーカーが負担した特許使用料は、自動車の販売価格として上乗せされると思いますので、消費者にしわ寄せがくることとなりそうです。自動車が売れなければ、部品メーカーもビジネスが縮小するでしょうから、そのあたりのバランスを見てコネクティッドカーに関わる企業全体で負担を分散していくのかもしれません。

自動車業界の既存プレイヤー以外の特許も調査しましょう

従来は、他社特許調査をする際、出願人で絞っていたこともあったかと思います。当然、自他社の事業が大きく異なれば他社が参入してくることもないでしょうから、その考え方も成り立っていました。しかし、今後は自動車業界に通信機器メーカー、家電メーカー、ICチップメーカーが参入してきますので、既存プレーヤー以外の特許もチェックしておく必要があります。

まとめ

今回はダイムラーVSノキアの訴訟を解説し、本訴訟が自動車業界に与える影響や日本企業として注意すべき点を説明しました。車も携帯電話のように今後は、さまざまな物とつながるようになりますので、自社の知財戦略も変化させていく必要があります。

特に、通信特許に詳しい専門家に相談して他社特許の監視を強化したり、製品に必須となる自社技術の出願に力を入れていくべきです。知財タイムズでは、あなたに合った特許事務所を提案させていただきます。相談は無料ですので、こちらのページからご依頼ください。

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