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完成品メーカーと部品メーカーの攻防!キャノンのインクカートリッジ関連訴訟!

プリンターのインクカートリッジに関して、エプソンやキャノンなどのプリンターメーカーとインクメーカーとの間で争いが何度も起きています。

プリンターメーカーは当然、交換用インクを販売することで、長く利益を出そうとします。ただ、純正の交換用インクは高価です。

消費者としては、互換インクやリサイクルインクを安く買ってランニングコストを抑えたいと思うでしょう。インクメーカーとしてはそのような消費者のニーズに応えた製品をリサイクルインクとして販売しています。

今回はキャノンがインクメーカーと争った事例を紹介し、リサイクル品が裁判でどのように取り扱われたのか、企業知財部の目線で解説します。

<この記事でわかること>
・キャノンVSリサイクルアシストの特許訴訟の内容
・キャノンVSエコリカの独占禁止法訴訟の内容
・完成品メーカーと部品メーカーがとるべき特許戦略

(執筆:知財部の小倉さん

キャノンがリサイクルインクメーカーを訴えた!

リサイクルアシストのビジネスモデル

2004年にキャノンは、中国でインクカートリッジにインクを再充填して日本に再販していたリサイクルアシストが同社の特許第3278410号を侵害するとして訴えを提起ました(東京地判平成16年12月8日(平成16年(ワ)第8557号))。

ここで注意すべきなのは、「キャノンの空インクカートリッジにインクを再充填することは新しい製品の生産なのか、修理なのか」という点です。もちろん、キャノンは新しい製品を生産しているとして、リサイクルアシストはキャノンの特許権を侵害していることを主張しました。

第一審ではキャノンが敗訴

リサイクルアシストは、第一審で権利消尽を主張し、「キャノンの特許権侵害には当たらない」との結果を得ました。権利消尽とは、正当な権利者から購入した製品については、特許権の効力が生じないという考え方です。ただし、生産する権利については消尽せず、特許製品の取得者が新たに個別の実施対象を生産する行為をすれば、特許権を侵害することになります。

裁判所は、本件インクタンクはインクを使い切った後も、容器として十分再利用が可能であり、注入孔を開ければインクの再充填が可能であることから、純正品を使うかリサイクル品を使うかはプリンターの所有者が決めるべきことであると判断しました。

また、インク自体は特許された製品ではないため、使用後のインクタンク本体にインクを再充填することが新たな生産に当たらないと判断しました。

さらに、リサイクルアシスト側の弁護士は、特許第2801149号を無効とする請求を特許庁に提出し、特許庁は本特許を無効と判断しました。本特許は「キヤノンのプリンタと互換性を保つために不可欠であり,リサイクル品を排除する上で重要な特許」でしたので、キャノンとしては大ピンチと言えます。

高裁・最高裁ではキャノンが逆転勝訴!

もちろん、キャノンとしては引き下がる訳もなく、高裁へ控訴して2006年に「リサイクルアシストの行為は特許侵害に当たる」との結論を得ました。リサイクルアシストは、商品の輸入・販売差し止めと製品の廃棄を命じられました。

控訴審でも特許権の消尽が争点となりました。対象となる製品のうち、特許の本質部分を構成する部材の全部か一部について加工・交換が行われた場合、販売後ももはや同一の製品とは言えなくなるため、特許権は消尽せず、特許権者は権利行使が可能と判断され、キヤノン側の特許権行使が認められました。

その後、2007年の最高裁判決最一小判平成19年11月8日(平成18年(受)第826号))でも、高裁の判決を維持し、再生カートリッジがキヤノンの特許を侵害していると判断され、ほぼ全面的にキヤノンの主張が認められました。

エコリカがキャノンを独占禁止法違反で訴えた!

今まではプリンターメーカーの特許権をインクメーカーが侵害するという話でしたが、次はインクメーカーがプリンターメーカーを独占禁止法違反で訴えた事例です。インクメーカーはプリンターメーカーの特許権に対抗することができるのでしょうか?

キャノンがインクカートリッジの使用を変更

2017年9月から発売している一部のインクカートリッジに関して、ICチップのデータ初期化が不可能な仕様にキャノンが変更しました。この変更により、リサイクル品をプリンターにセットしても正常に認識されずリサイクル品が使えないようになりました。

エコリカは、リサイクル品の製造販売業者として、同社の製品を販売することができなくなります。そこで、2020年10月にエコリカはキャノンを独占禁止法違反行為の差し止めと、3,000万円損害賠償を請求するため、大阪地裁に訴訟を提起しました。

エコリカは消費者の味方?

エコリカがキャノンを提訴した背景としては、インクの仕様変更による同社の売上低下があります。

訴状によると、キャノンの新カートリッジでは、回収したカートリッジにインクを詰めてプリンタに入れても「インクなし」と表示され、そのまま使うとプリンターを破損する恐れがあるとのことです。

そのため、キャノンが2017年に仕様変更をしてから約3年はキャノン用のリサイクル品を製造・販売することができませんでした。

エコリカは、「消費者の選択の余地を広げるため」「エコだから」という理由で純正品より2割ほど安くしたリサイクルカートリッジを販売しています。エコリカの製品は安価で品質も良く、大手企業などでも利用されているようです。その点では、消費者の味方と言えるかもしれません。

どのように独占禁止法違反を問うか

エコリカは「技術上、必要な変更ではなく、再生インクカートリッジを製造・販売させない目的でしかない」と主張し、独占禁止法が禁じる「競争者に対する取引妨害」に該当すると訴えています。一方で、キャノンからコメントは出てきておりません。

2004年に公正取引委員会がキヤノンのカートリッジの仕様変更を問題視し、調査を開始したケースがありました。その時には、キヤノンが再生品をつくれるように仕様を改善しました。

このような経緯から、まったくエコリカの負けが決まったわけではありません。十分にエコリカの主張が認められる可能性はあります。後は、キャノン側に事業上の仕様変更理由でなく、技術上の仕様変更理由があるか否かが問題となりそうです。

本訴訟は、完成品メーカーがリサイクル品の流通を阻止できるか、部品メーカーとしては市場を奪われずに守ることができるかを判断する基準となりそうですので、注目したいですね。

完成品メーカーと部品メーカーがとるべき特許戦略とは?

完成品メーカーは製品リリース前に出願チェックすべき

特許権は無効にされる可能性もありますが、やはり相手に文句を言う際には権利が必要となります。そこで、自社製品は完成品だけれども、部品の特許権も取っておくことで、優位にビジネスを進めることができます。

例えば、完成品としての自社製品の特徴的な構造や機能から、部品の形状や機能に変化があるのであれば、部品の特許も完成品のリリース前に洗い出して出願しましょう!

部品メーカーは完成品の仕様を先取りして出願しておくべき

完成品メーカーと異なり、部品メーカーは製品仕様を決めることができません。そのような中で、主導権を取ろうとするには、市場動向や顧客の好みなどから製品仕様を予測して出願していくことが有効です。

顧客情報から黙って出願するのではなく、あくまでも予測することが重要ですので、ある程度ムダな出願も発生するかもしれませんが、同じ技術思想同士を合わせて1つの出願に収めるなど費用を削減することが必要となります。

まとめ

今回は、キャノンのインクカートリッジに関する訴訟を2件(特許、独禁法)紹介し、完成品メーカーと部品メーカーがお互いにどうやって自社の売上を伸ばそうとしているか解説しました。

最終的には、完成品メーカーでは製品リリース前に部品特許を出願したり、部品メーカーでは完成品の仕様を予測して出願したりと、他社製品を予測して特許出願をしていくことが非常に有効となります。

他社製品を予測するには特許調査も必要となりますし、出願するには代理人へ特許戦略を相談することも重要です。知財タイムズでは3ステップで簡単にあなたにぴったりな特許事務所を無料で探すことができます。問い合わせは無料ですので、お気軽にご相談ください。

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