落合ライト化学、異業種からのメーカー転身で脱下請け!
今回も中小企業が脱下請けに成功した事例を紹介します。落合ライト化学は、本業で培った技術を他の業界に転用して自社オリジナル製品を開発しましたが、知財戦略についてアイデアがありませんでした。そこで、知財総合支援窓口を活用し、外国特許を含めた知財戦略を実行できています。
落合ライト化学の事例を通して異業種からの市場参入に際し、中小企業が気を付けるべきことを学びましょう。
<この記事で分かること>
・知財総合支援窓口の活用方法
・製品を多面的に保護する知財ミックスとは
・外国出願は国内出願から1年以内に行いましょう
(執筆:知財部の小倉さん)
パチンコ市場の縮小をきっかけに、オリジナル製品を開発!
落合ライト化学の事業背景
落合ライト化学は1989年に創業し、パチンコ(遊技機)関連部品の開発から製造までを主な業務として行っています。営業・開発・製造までを一部外注を活用しながら、ほぼ自前で行っています。
しかし、昨今の娯楽コンテンツの多様化により、遊技機市場は半分以下に縮小し、売上はピーク時の半分以下に減少してしまいました。そこで、将来に危機感を持った落合社長は異業種への進出を決意しました。
落合ライト化学の知財活動は特許庁発行のRightsや知的財産権活用企業事例集2018ど様々な記事で、脱下請けの成功事例として紹介されています。オリジナル製品ができた経緯をもう少し詳しく見ていきましょう。
業界の壁を越え、道路保安用品に参入
異業種への進出を決意し、自動車関連や家電関連等への営業活動を開始しましたが、異業種である遊技機業界の企業ということで取り合ってもらえない日々が長く続いたようです。
しかし、落合社長は諦めることなく「モノを売るのではなく、ヒトを売る」という精神で営業活動を続けました。その結果、取引先から道路保安用品の試作品開発を受注しました。
道路保安用品の業界は新製品のニーズが高く、グローバル市場をもっており、将来を期待できる市場でした。さらに、落合ライト化学の強みである開発から製造までの一貫体制や多様な素材を扱う業者とのパイプなど遊技機業界で培った技術を活かせることから、道路保安用品の開発に着手しました。
知財総合支援窓口(専門家)に相談して知財戦略を補強
知的財産を強化するきっかけは取引先からの一言
取引先から「路側帯の雑草を刈るときに、草刈機の回転刃がガードレールの支柱に当たって飛んでしまったりするので、改善してほしい」と開発のニーズを受け、落合ライト化学は樹脂製の防草機能付支柱保護カバーを開発しました。
回転刃でなく得意の樹脂製品である保護カバーを支柱に取り付けるということに目を付けたのがポイントです。自社で設計できるため、取引先の要望に応じて構造やデザインを変更することができます。
しかし、取引先から「特許は取ってありますよね?」と質問されたとき、特許のことが全く頭になく、落合社長はハッとしたようです。そこで知人から知財総合支援窓口に相談するとよいとを聞き、愛知県知財総合支援窓口に相談しました。
→参考:知財ポータルホームページ
専門家からのアドバイスによりオリジナル製品を多面的に保護
落合社長は知的財産の専門家にアドバイスを受け、知的財産に関する知識を深めていき、約3年間に自社のオリジナル製品に関する特許・意匠・商標権を7件取得しています。
例えば、上で説明した防草支柱保護カバーとして商品名「ダブルテクトS&G」を開発し、特許第6224789 号、意匠登録第1561754 号、商標登録第5835633 号を取得しました。このように特許だけでなく、意匠や商標も組み合わせて保護することを知財ミックス戦略と言います。
さらに、工事現場において既存のコーンに被せるだけでコーンの形状に沿ってLED が点滅するコーンカバーとして商品名「ぴっカバー」を開発し、特許第5846619 号、意匠登録第1544528 号、商標登録第5834278 号を取得しました。このカバーは乾電池で動作するため、手軽に保安用コーンの視認性を向上することができます。
経験が浅いため、時には失敗も
「ぴっカバー」については大手商社から取引要望があり、アメリカおよびオーストラリアへの進出計画が進展していますが、出願当時は外国出願を想定しておらず、外国での特許取得が困難となってしまったという知財面での失敗も落合ライト化学は経験しました。
この経験を糧にして、工業所有権情報・研修館(INPIT)の海外知的財産プロデューサー制度を活用して、進出予定国の知財制度や知財に関する契約等に関する情報収集し、海外展開に係るリスクを低減しています。
落合ライト化学の事例から学ぶこと
専門家の無料相談を活用しましょう
落合ライト化学は知財総合支援窓口という無料相談のサービスを活用することで、専門家からのアドバイスを受けるという選択をしました。中小企業向けに様々な無料サービスや減免を受けることができます。インターネットである程度調べたら、専門家へ相談することをオススメします。
知財ミックス戦略で多面的に自社製品を保護しましょう
製品の保護は特許権だけではありません。技術は特許、デザインは意匠、ロゴは商標というように様々な制度を使って製品を多面的に保護する必要があります。
このように複数の権利で保護するメリットとして、1つの権利で他社を訴えることができなくても別の権利で訴えることができます。例えば、特許権で侵害立証が困難な場合、意匠権で権利侵害を主張できます。特に、そのまま製品形状をコピー(デッドコピー)された場合、意匠権なら図面との対比で素早く侵害立証することができます。
将来を見据えて外国出願をしておきましょう
特許出願は外国出願まで含めると1つの発明でも数百万円の投資となりますので、国内出願だけで十分と思われるかもしれません。しかし、権利を主張できるのは登録になった国のみで、その他の国では公知技術として誰でも自由に使うことができてしまいます。
通常、外国出願は国内出願から1年以内に行わないと、他社特許との関係で不利に扱われることがあります。しかし、1年以内に将来技術についてどの国で登録したいか決めることが難しいこともあるでしょう。
そこでPCT出願という、アメリカや中国など個別の外国出願の時期を先延ばしにできる制度もあります。このような制度を使うことで国内出願から2年半の間は市場動向を見ながら出願国を決めることができます。弁理士に相談して最小限のお金で最大限の機会が得られるようにしましょう。
まとめ
今回は、知財総合支援窓口を活用したり、知財ミックス戦略を採ることで下請け事業者から脱却した落合ライト化学の事例を解説しました。中小企業は様々な無料サービスを受けることができますので、積極的に利用して専門家からアドバイスをもらいましょう。
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特許関係の仕事に従事して10年。5年間は特許事務所で500件以上の出願原稿の作成に従事。その後、自動車関連企業の知財部に転職し、500件以上の発明発掘から権利化に携わってきました。現在は、知財部の管理職として知的財産活用の全社方針策定などを行っています。
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