【セカイチ知財-Vol.5-】特許についての誤った常識(後編)
世界一分かり易い知財戦略
世の中は知財に対する迷信や誤解で満ちています。
誤解したままで知財に注ぎ込むお金は無駄金です。
「セカイチ知財」は名古屋に事務所を構えるブライテック特許事務所が、知財戦略を世界で一番分かり易く解説します。
「世界一分かり易い知財戦略(セカイチ知財)」を読んでいれば、知らない間に正しい知財戦略をイメージできるようになります。
(文責:ブライテック特許事務所所長 弁理士三林大介)
特許についての誤った常識(後編)
前回に引き続いて、特許に関する世の中の誤った常識についてお話しします。
先日も、世の中の特許に関する常識は誤解だらけであることを再認識するニュースがありました。
それは「大手の衣料品販売会社がレジに関する特許で訴えられた」というニュースです。
大手の新聞には「特許の内容が単純なだけに、特許を取られてしまうと対策の立てようがない」といった内容の記事が載っていました。
インターネット上にも同様な解説が挙がっていました。
私も特許については専門家の端くれですので、どんな内容の特許なのか調べて見たのですが、まるで、世の中の特許に対する誤解の縮図を見るようでした。
第5話では、このニュースにまつわるお話をしようと思います。
【特許に関する誤った常識:その3】
特許を取っておけば、有利な立場に立つことができる。
はじめに、衝撃的な事実をお伝えしておきます。それは、
「ほとんどの特許は回避できる。」
ということです。
「特許を回避する」と言うのは、自分の製品を少しだけ変更することで、特許を使っていない状態にすることです。少し変更するだけですから、一般消費者は変更されたことに気を留めることはありません。
それにも拘わらず特許は使っていないので、特許権者にとやかく言われることは無くなります。
俄には信じられないと思います。しかし、次の話を聞いた後ではどうでしょうか?
私は特許の仕事を始める前は、自動車メーカーでエンジンの設計開発をしていたのですが、同業他社の邪魔な特許が見つかることが良くありました。
つまり、開発中の部品や技術が、実は他社に特許を取られていたことが発覚するわけです。
そんな時は、会社の偉い
人から「何とか回避しろ」との命令が下るので、最初は困ったなと思うのですが、みんな
で一生懸命に考えていると、たいていは回避する方法が見つかりました。
弁理士資格を取って特許の仕事を始めた後は、メーカーの特許部の担当者から相談を受ける側になりました。
メーカーの技術部門ではどうしても回避方法が見つからない特許があると、特許部の担当者が相談に来るわけです。
そんな回避の困難な特許でも、我々のようなプロの手に掛かると、控えめに言っても2/3以上は回避できてしまいました。
如何でしょう。驚かれたのでは無いでしょうか。
回避方法が見つからずに、我々のところに持ち込まれる特許の割合は多くはない筈です。
その残った特許についても、多くは回避されてしまうのです。
「ほとんどの特許は回避できる」というのは私の実感です。
実際のところ、大手衣料品販売会社が訴えられた特許も、簡単に回避可能です。それも、特許のプロであれば、一目で直ぐに回避方法が分かるレベルです。
しかし、新聞記事などで衣料品販売会社の対応を読む限り、衣料品販売会社はそのことに気付いていません。
また、特許を持っている取引会社も、衣料品販売会社を訴えたくらいですから、自社の特許が簡単に回避されてしまうことには気付いていない筈です。
更には新聞社も「特許の内容が簡単なだけに回避が難しい」などという記事を載せるくらいですから、やっぱり気付いていません。
こうして気付かないまま書いた記事が、新聞やWEBに掲載されて広まる結果、世の中にはますます誤った常識が形成されて行くのです。
この話は、次のような結幕になる筈です。裁判自体は、特許権者が勝つと思います。
しかし、やがては大手衣料品販売会社も、問題の特許は簡単に回避可能なことを知る筈です。
何故なら、裁判の途中で特許のプロに相談する可能性が高く、相談すれば、その場で回避方法を教えて貰える筈だからです。
当然、衣料品販売会社は急いで特許を回避するでしょう。
特許を回避されてしまったら、それ以降は、特許権者は衣料品販売会社に対して何も要求できなくなります。
結局、特許が回避されるまでの短い期間に応じた僅かな賠償金が取れるに過ぎません。
その結果、特許権者は次のように思う筈です。
「何だ。苦労して特許を取ったのに、結局は逃げられてしまったじゃないか。特許なんて何の役にも立たない。二度と手を出すものか!」
特許権者の人とは何の関係もありませんし、大変にお気の毒だとは思いますが、ほぼ必ずこうなります。
これが、世の中の誤った常識を信じたまま特許を取得して、その特許を使おうとした場合の帰結です。
世の中の中小企業の実状は、このようなレベルに留まっているのではないでしょうか?だとすれば、特許を使おうとしたら最後、「特許なんて何の役にも立たない。
二度と手を出すものか!」と思う日が必ず来る筈です。
これは、特許のプロとして、極めて残念な事態です。何故なら、中小企業こそ、知財をツールとして活用する必要があるからです。
大企業は知財(特に特許)を保険と考えてます。
つまり「使わない事に価値がある」と思っているのです。しかし、知財の威力は、法律に裏付けられた絶大なものです。
中小企業こそ、知財をツールとして活用しなければいけないのです。
それにも拘わらず、特許を使おうとした中小企業は、非常に高い確率で「二度と手を出すものか」と思うようになるのですから、こんなに残念なことはありません。
特許のプロとして、何とかしなければならないと、本当に思います。
だから、こうして「世界一分かり易い知財戦略(セカイチ知財)」を無料でお配りしているわけです。
第4話および第5話と、特許に対して否定的なお話が続きましたので、この辺で止めておきます。
要するに、世の中には、特許を取っておきさえすれば役に立つと思っている節がありますが、それは誤解だということを分かって頂きたいのです。
次回からは、特許の威力(つまり、特許の正しい使い方)についてお話ししようと思います。
世界一わかり易い知財戦略【セカイチ知財】を連載。知財戦略についての深い知識と経験から、お客様に合った最適な戦略を提案してくれる事務所です。
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