中小企業における知財戦略の必要性!社内弁理士が解説します!
経営層や事業部からは知財戦略を立案して、成果を出してほしい。若しくは上司から知財戦略を掲げて、知財としての価値を発揮してほしい。と言われる事は少なからずあると思います。
しかし、
出願業務や調査業務等の従来の業務に加えて、知財戦略という業務をする時間なんてないよ。
と思われると思います。
そこで、知財戦略を検討する必要性や立て方を簡単に説明いたします。
社外の特許事務所や調査会社に依頼できる業務はアウトソーシングを活用して、知財戦略を立案しましょう。
知財戦略の定義について
戦略とは
まず、戦略とは、以下のように定義されます。
- 「一般的に、特定の目的を達成するために長期的視野と複合的シコウで力や資源を総合的に運用する技術・科学である。」
つまり戦略とは、「進むべき方向性」です。
成果をあげるためには何をするべきか。何を捨てれば効率的に進めるのか。等を総合的に準備・計画・運用の方策で、目的を達成するためにたてるものです。
知財戦略とは
そして、知財戦略とは、以下のように定義されます。
- 「自社の経営価値・事業価値を高めるためにおける大きな方向性。
つまり、自社が直面する経営的な課題・事業的な課題に対して立てられる戦略を練るためには、分析が必要です。
これは大企業に限らず、中小企業又はスタートアップ企業でも検討が必要な内容になります。
この分析を行うことで課題が明確になります。そして、この課題を解決するためにはどのようなことを行えばいいかを決定します。このどのようなことを行えばいいかを意味する方向性が、戦略に該当します。
知財戦略の必要性
中小企業であろうと、大企業であろうと、知財部等の知財業務に携わる人にとって、その業務は、特許出願・意匠出願等の出願業務、特許調査・意匠調査等の調査業務、特許を他社に使用させる等のライセンス業務等に大別されると思います。
そして、上記で説明した知財戦略の定義からすると、上記の業務は戦略ではありません。
これは、戦術に近い業務に該当します。
戦術とは、作戦・戦闘において任務達成のために部隊・物資を効果的に配置・移動して戦闘力を運用する術であります。
上記業務を実行する際に、どこを重点的に行えばいいかわからなくなり、また、闇雲に業務を行うことほど、非効率なものはありません。全ての業務を少ない人員で効率的に行えばいいのでは?と思いますが、それは経験をもって成せる業であり、皆がその状態かというと、必ずしもそうではありません。
そのために、必要となるのが、知財戦略になります。
知財戦略を立案するメリット
知財戦略を作るメリットとして以下の3つがあります。
- 業務の効率化
- 競合他社との差別化ポイントの可視化
- 他社から権利侵害等のリスク回避
1.業務の効率化
戦略があることで、戦術が明確になります。
つまり、戦略とは、目的を達成するための方向性ですので、やるべき業務、やった方がよい業務、やらないでいい業務というように、業務を断捨離することができるため、今までやらないでいい業務に時間をかけていたという事はあまりいないと思いますが、やった方がよい業務と思っていたが実はやらなくてよかった。という事もあると思います。このような業務に時間を割かずにいることで、業務の効率化を図ることができます。
2.競合他社との差別化ポイントの可視化
戦略があることで、製品に対して、どの部分で出願を行えばいいかが明確になります。
従前は、新規性がある部分を洗い出し、この部分に対してなるべく広く出願を行う。という方法だったのが、より俯瞰的に出願業務を行うことで、出願を点で捉えるのではなく、面で捉えることができ、その結果として、自社製品の権利網を構築することができます。
3.他社から権利侵害等のリスク回避
知財戦略を練る中で絶えず問題になるのが他社の権利との関係性です。
知財戦略がしっかりと検討できていれば、おのずと他社の権利の正確な把握ができています。したがって、いつ、どのような攻撃に合うかという点で予測可能性があります。
他社の権利を正確に解釈でき全く問題なく解決できる場合もあるでしょうし、場合によってはライセンスも可能だと思います。
【開発段階別】知財戦略の立案方法
あくまでも、一例としてですが、知財戦略の立案方法について説明します。
商品の企画段階
このステージでは事業戦略に基づき、商品開発のテーマを決定します。この段階では、徹底した市場ニーズの探索がまず必要となるでしょう。市場のニーズに対して、SWOT分析等のフレームワークを駆使することで、自社の強み、弱みを分析します。その上で自社の事業戦略に合致した商品を自社技術でどのように作り上げ、かつ差別化したものにするかの見極めを行い、開発テーマを選定します。
この時期に知財戦略上必要なことは2つ。
- 事業戦略の把握
- 自社の開発テーマの理解
なぜ、この開発テーマにしたのか。という点を事業戦略を理解した上で把握することで、より質の高い他社の権利調査や技術調査を行った際に、各社がどのような内容で権利を構築しているのかという点がより深い範囲で理解できます。
例えば、以下の図のように、特許マップを作成し、出願人と技術内容を軸にバブルチャートで表現した場合に、仮に自社が項目aと同じ開発テーマであれば、A社との関係でライセンスが必要で、B社・C社の件数はそこまで多くないから、大丈夫である。と判断できるでしょうし、対して、項目Cと同じ開発テーマであれば、A社乃至C社がコンスタントに権利を持っているため、参入障壁をかいくぐりながらの開発は相当大変だということを事業部に進言できると思います。
その際に、開発テーマだけでなく、事業戦略まで理解することで、事業戦略に沿った知財視点での誘導ができると思われます。
そして、更に、この開発テーマが従来にない新しいものであるならば広くて強い基本的な権利を獲得し市場を席巻することができます。
従来の改良タイプのものであれば、他社の権利との差を明確に打ち出し、自社独自の優位性のある技術を権利化する必要があり、自社と他社の差異化を図る必要があります。
更に、従来の技術と対等かそれ以下で、他社の権利が多数に存在するのであれば、出願どころではなく、開発テーマの変更を進言することを考えねばなりません。
研究開発&試作段階
開発テーマに基づき、開発業務が進んで行くと色んな要素が具体化してきます。
この段階では、企画段階よりも緻密な特許調査をする必要があります。
この段階では具体化されてきた要素に対して、他社の権利を侵害することになるか否かの見極めがきわめて重要になります。
要素そのものが他社の権利を侵害する、あるいは一部他社の権利を実施しないと開発が完成できない場合は、この段階で事業戦略又は商品戦略である開発テーマを練り直さねばなりません。
選択肢としては、他社特許を侵害しない方向に開発を変更する、変更が無理な場合は他社特許を無効にできるか否かの検討をする、確実に無効にできる可能性が大きい場合は特許を保有しているその会社と無償実施の交渉をするか、特許庁に無効審判請求を行い無効にするか等の方策を知財戦略に基づき行います。
量産化段階
研究開発段階と同様に、他社の権利に対して緻密な判断が求められます。
またこの段階では商品のデザインが決められますので、意匠の調査及び出願を検討する必要があります。デザイン戦略という戦略も立案されるように、デザインという要素は特許とは違う商品を保護する一側面を持っているため、非常にその活用が鍵になります。
まとめ
段階ごとに取りうる知財戦略は理解いただけたでしょうか。知財戦略がないと、段階毎に知財として行うべき業務が非常に見えにくくなります。
知財戦略を掲げることで、業務を効率化を少しでも図り、他社に対する競争優位性を確保するようにしましょう。
ここをもう少し知りたい。と感じた場合は、専門家である弁理士に相談してみてください。
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ゲーム業界の知財部で10年以上勤務。日々、他社の知財を警戒しながら、自社の商品を守るため、奮闘中。 調査や出願、一通りの業務をこなしてきました。
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