国内優先権制度とはどのような制度なのか?分かりやすく解説
国内優先権とは?
国内優先権とは、我が国にした「先の出願」を基礎とした「後の出願」について、「先の出願」に記載されている事項を先の出願時にされたものと同等の扱いをすることです。
具体的には、先の出願で発明Aと発明Bを記載し、後の出願で発明A,発明B、発明Cを記載して国内優先権を主張した場合には、後の出願に記載されている発明Aと発明Bの新規性・進歩性の基準は先の出願時となり、発明Cの新規性・進歩性の基準は後の出願時となります。
なお国内優先権における「先の出願」と「後の出願」は、共に日本国内の出願を指します。「後の出願」は、「先の出願」から1年以内にする必要があります。
もしも「先の出願」と「後の出願」の一方が日本国内の出願、他方が外国の出願のときには、パリ条約に基づく優先権の主張をすることができます(パリ条約に基づく優先権と国内優先権の期間や効果は、ほぼ同じです。)
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国内優先権の要件について
国内優先権が認められるための要件として主体的要件、客体的要件、時期的要件、手続的要件があります。これらの要件は、主に特許法第41条と第42条に規定されています。
そこで、今回は、これらの要件を条文に沿って説明します。
主体的要件
国内優先権の主体的要件とは「先の出願と後の出願で出願人が同一である」という内容です。
特許を受けようとする者は、次に掲げる場合を除き、その特許出願に係る発明について、その者が特許又は実用新案登録を受ける権利を有する特許出願又は実用新案登録出願であつて先にされたもの(以下「先の出願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明に基づいて優先権を主張することができる。
出典:特許法第41条1項柱書
ここで規定されている「特許を受けようとする者」とは、特許を受けようとする者であって既にされている特許出願または実用新案登録出願の出願人を指しています。つまり、先の出願と後の出願で出願人が同一であることが必要です。
ただし先の出願の権利が移転されている場合は、権利の承継人と後の出願人とが同一であればOKです。
なお要件として求められるのは出願人のみ、先の出願と後の出願で発明者が同じでなくとも構いません。
客体的要件
国内優先権の客体的要件としては、次の3要素があります。
- 後の出願の際に、先の出願が特許庁に係属している
- 先の出願が特許出願、又は実用新案登録出願である
- 先の出願の出願時に記載された発明と後の出願で記載された発明が同一である
それぞれ何を意味するのか、詳しく見ていきましょう。
「後の出願の際に、先の出願が特許庁に係属している」とは
こちらは特許法第41条1項に基づく要件です。
特許を受けようとする者は、次に掲げる場合を除き、…優先権を主張することができる。
一 その特許出願が先の出願の日から一年以内にされたものでない場合
二 先の出願が第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願若しくは第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願又は実用新案法第十一条第一項において準用するこの法律第四十四条第一項の規定による実用新案登録出願の分割に係る新たな実用新案登録出願若しくは実用新案法第十条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る実用新案登録出願である場合
三 先の出願が、その特許出願の際に、放棄され、取り下げられ、又は却下されている場合
四 先の出願について、その特許出願の際に、査定又は審決が確定している場合
五 先の出願について、その特許出願の際に、実用新案法第十四条第二項に規定する設定の登録がされている場合
要件のポイントとなる「先の出願が特許庁に係属している」とは、41条1項三号、四号、五号のいずれにも該当しない場合に当てはまります。
つまり先の出願が放棄、取り下げ、却下が確定しておらず、拒絶査定や拒絶審決が確定しておらず、特許査定や特許審決もなされておらず、実用新案権の設定登録がされていない場合です。
「先の出願が特許出願、又は実用新案登録出願である」について
先の出願が意匠登録出願である場合には、国内優先権は認められないというルールがあります。
この要件は、先に述べた特許法41条1項柱書の「その特許出願に係る発明について、その者が特許又は実用新案登録を受ける権利を有する特許出願又は実用新案登録出願であつて先にされたもの(以下「先の出願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明に基づいて優先権を主張することができる。」に基づいています。
「先の出願の出願時に記載された発明と後の出願で記載された発明が同一である」について
この要件は、先に述べた特許法41条1項柱書の後半部分、「(以下「先の出願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明に基づいて優先権を主張することができる。」に基づきます。
したがって、先の出願において出願後に補正した事項については、国内優先権を主張できません。
時期的要件
国内優先権の時期的要件としては、先の出願から1年以内に後の出願をするという要件があります。
特許を受けようとする者は、次に掲げる場合を除き、…優先権を主張することができる。ただし、…場合に限る。
一 その特許出願が先の出願の日から一年以内にされたものでない場合」に基づく要件です。
出典:特許法第41条1項一号
手続的要件
国内優先権の手続的要件としては、国内優先権を主張する旨と、先の出願の表示を記載した書面を経済産業省令で定める期間内に提出するというものがあります。
第一項の規定による優先権を主張しようとする者は、その旨及び先の出願の表示を記載した書面を経済産業省令で定める期間内に特許庁長官に提出しなければならない。
出典:特許法第41条4項
また、ここで規定されている「経済産業省令で定める期間内」は特許法施行規則第27条の4の2第3項によって、優先日から1年4ヶ月以内もしくは後の出願から4ヶ月以内の遅いほうの日までと決められています。
国内優先権の効果・メリット
国内優先権のメリットとしては、先の出願では記載されていない新規な事項を追加で盛り込める点があります。特に、補正では「新規事項の追加に該当する」として認められないような事項を追加したい場合に有効です。
また、国内優先権の効果としては、以下のものがあります。
- 先の出願で記載されている事項に基づいて、国内優先権に基づく後の出願をした場合には、先の出願で記載されている事項の新規性・進歩性等について、先の出願時を基準にして判断される
- 先の出願で記載されている事項については、出願公開されることで、拡大された先願の地位を得られる
- 先の出願は、出願日から経済産業省令で定める期間の経過後に取下擬制される
新規性・進歩性等の判断基準時について
国内優先権を主張すると、基本的には先の出願時時点での新規性・進歩性等で、特許性の有無が判断されます。
前項の規定による優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明(当該先の出願が同項若しくは実用新案法第八条第一項の規定による優先権の主張又は第四十三条第一項、第四十三条の二第一項(第四十三条の三第三項において準用する場合を含む。)若しくは第四十三条の三第一項若しくは第二項(これらの規定を同法第十一条第一項において準用する場合を含む。)の規定による優先権の主張を伴う出願である場合には、当該先の出願についての優先権の主張の基礎とされた出願に係る出願の際の書類(明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に相当するものに限る。)に記載された発明を除く。)についての第二十九条、第二十九条の二本文、…の規定の適用については、当該特許出願は、当該先の出願の時にされたものとみなす。出典:特許法第41条2項
ただし先の出願が国内優先権やパリ条約の優先権を主張している(優先権の累積主張)なら、この条文のかっこ書きにも記載されているように、国内優先権の効果は認められず、新規性・進歩性は後の出願時で判断されます。
拡大された先願の地位について
この効果は、特許法第41条第3項に規定されています。
第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明については、当該特許出願について特許掲載公報の発行又は出願公開がされた時に当該先の出願について出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされたものとみなして、第二十九条の二本文又は同法第三条の二本文の規定を適用する。
この規定は、国内優先権を主張した場合、先の出願は出願公開されることなく取下擬制されますが、後の出願が出願公開されたときに、先の出願が出願公開されたとみなし、特許法第29条の2に規定されている拡大された先願の地位を有するとした規定です。
先の出願の取下擬制について
擬制とは「法律上の取扱いで、本質はちがうものを同一と見なして、同一の効果を与えること(引用:精選版 日本国語大辞典)」という意味です。
特許法第42条第1項に規定されているように、国内優先権を主張すると、先の出願は取り下げたとみなされます。
前条第一項の規定による優先権の主張の基礎とされた先の出願は、その出願の日から経済産業省令で定める期間を経過した時に取り下げたものとみなす。ただし、当該先の出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されている場合、当該先の出願について査定若しくは審決が確定している場合、当該先の出願について実用新案法第十四条第二項に規定する設定の登録がされている場合又は当該先の出願に基づく全ての優先権の主張が取り下げられている場合には、この限りでない。
国内優先権の利用形態3つ
国内優先権には主に3つの利用形態があります。
- 後の出願で実施例を補充する形態(実施例補充型)
- 先に出願した内容をまとめて後の出願する形態(上位概念抽出型)
- 先に出願した内容が発明の単一性を満たすとして後の出願で纏める形態(単一性利用型)
実施例補充型
実施例補充型の国内優先権とは、先の出願で、既に判明している実施形態を記載したうえでこの実施形態を上位概念化して特許請求の範囲に記載しておき、その後、国内優先権を主張する後の出願で実施形態を補充する(特許請求の範囲は変わらない)ことをいいます。
この実施例補充型では例えば、先の出願の実施形態が特許請求の範囲に記載されている事項を十分にカバーしておらず、記載要件を満たしていない可能性があるときに、実施形態を補充することで、記載要件をクリアする、という対応も可能です。
上位概念抽出型
実施形態が得られ次第順次出願しておき、そのあと後の出願でこれらの実施形態をまとめて出願する。このやり方の国内優先権は上位概念抽出型と呼ばれています。
上位概念抽出型では、後の出願の特許請求の範囲が、先の出願の特許請求の範囲よりも上位概念化されていることが多いです。
しかし上位概念化することで拡大された部分については、先の出願に記載されていないとして、優先権の効果が認められない可能性もあります。
単一性利用型
単一性利用型の国内優先権とは、先に出願した複数の発明が「発明の単一性」を満たす場合に、まとめて後の出願として出願することをいいます。
単一性利用型では、先に出願した複数の発明が実質的に同一に近い発明であり、両者が先後願の対象となる可能性があるときに有効です。
国内優先権のデメリットはあるか
国内優先権のデメリットとしては、費用面が挙げられます。
国内優先権を主張する出願を特許事務所に依頼した場合、出願時にかかる費用として、先の出願で30万前後の費用がかかり、後の出願で10万~20万円程度の費用が生じます。そのため、国内優先権を主張しない出願よりも高額の費用が生じます。
特許事務所に勤務している弁理士です。中小企業のクライアントを多く扱っています。特許業務が主ですが、意匠・商標も扱います。
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