情報提供とは?現役弁理士が教える有効活用法や対処法
今回は特許の情報提供制度について、有効活用法や対処法なども含めて現役弁理士が紹介します。情報提供制度は、非常に活用のしがいがある制度ですので、参考になれば幸いです。
情報提供制度とは?
情報提供制度は、出願された発明や考案が新規性・進歩性などを有していないこと(特許性、又は考案の有効性、を有していないこと)について、特許庁に対して情報を提供できる制度です。特許庁として、このような情報提供を公式に広く受け付けています。
情報提供の件数は、近年は5,000件前後で推移しています。
日本における特許出願件数が年間29万件前後であり、情報提供の件数の割合としては特許出願件数に対して2%も無い程度ではありますが、ぜひこの制度について知っておきましょう。
いつ、誰ができる?
特許出願、実用新案登録出願がなされた後は、いつでも情報を提供することができます。
ただし実際には、公開がされるまで出願人以外の第三者は出願の事実を知り得ません。情報提供可能なタイミングとしては、現実的には出願公開後(出願の事実を知った後)、ということになるでしょう。なお出願がされた後であれば、特許付与後、実用新案登録後でも情報提供は可能です。
また情報提供は誰でもできます。匿名による情報提供も可能です。
情報提供の対象となる拒絶理由、無効理由
情報提供は、以下の拒絶理由、無効理由に関して可能です。下記に該当しない拒絶理由、無効理由に関しては情報提供を行っても受け入れられませんので留意ください。
- 第17条の2第3項(新規事項追加)
- 第29条第1項柱書(非発明又は産業上利用可能性の欠如)
- 第29条第1項(新規性欠如)
- 第29条第2項(進歩性欠如)
- 第29条の2(拡大先願)
- 第39条第1項から第4項(先願)
- 第36条第4項第1号(明細書の記載要件違反)
- 第36条第4項第2号(先行技術文献情報開示要件違反)
- 第36条第6項第1号から第3号(特許請求の範囲の記載要件違反)
- 第36条の2第2項(原文新規事項追加)
提出できる資料
提出できる資料は書面による資料に限られます。音声データや動画データなどの提出は認められません。
書面としては、
- 刊行物又はその写し
- 特許出願又は実用新案登録出願の明細書又は図面の写し
- 実験報告書などの証明書類
などが挙げられます。
なお、インターネット上の情報などを提供する場合には、プリントアウトしたものや、以下の内容などを書面に記載して提出しましょう。
- 情報の内容、掲載日時
- URLアドレス
- インターネット上に公開された問い合わせ先等
どう手続きすればいいの?
ここからは、提出の具体的な手続きについて見ていきましょう。
提出する書類(フォーマット)
「刊行物等提出書」を作成し、情報提供として提出する書類を付属書類という形で送りましょう。
刊行物等提出書は、注意書きに沿って作成すれば難しいことはないはずです。
提出方法・宛先
郵送の場合には、特許庁長官宛てに郵送します。具体的には、封書の宛先に次のように記載します(2022年12月現在)。
〒100-8915 東京都千代田区霞が関3-4-3 特許庁長官宛
インターネット出願ソフトによるオンライン提出も可能です。なお、オンライン提出にてデータ(PDFデータや画像データ等)を提出する場合、データのプロパティに作成者情報が含まれることもあります。
匿名で提出するときは、データから素性がばれないように作成者情報を削除するといったステップを挟みましょう。
手数料
特許庁に対する手数料は一切不要です。また郵送にて提出する場合の、電子化手数料も不要です。
ただし弁理士等の代理人に手続きを依頼する場合には、代理人費用が必要です。
情報提供があった場合に起きること
情報提供がなされた場合、その後どのようになるのか紹介します。
- 情報提供した者へのフィードバック
- 情報提供があった事実の公開
- 特許出願人または権利者への通知
情報提供した者へのフィードバック
情報提供者が希望すれば、情報提供後の次の起案時(審査官での、拒絶理由通知などの庁通知の起案時)に情報提供された内容が審査に利用されたか否かのフィードバックが、情報提供者に対して行われます。
フィードバックは書面の郵送にて行われます。
希望する際は「刊行物等提出書」の作成の際、【提出の理由】の欄に、フィードバックがほしい旨を追記します。
なお匿名にて情報提供を行う場合には、フィードバックを受けることはできません。
事実確認の方法
情報提供があった場合には、その事実を「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で誰でも確認することができます。
まず、J-PlatPatから対象の出願情報にアクセスします。
情報提供があった場合には、対象の出願情報の「審査記録」の欄の中に、例えば、「刊行物等提出書: 差出日(…) 受付日(…) 作成日(…)」のように表示されます。
この表示の有無によって、情報提供の有無の事実を確認できます。
特許出願人または権利者への通知
情報提供があると、特許出願人や権利者に対して、特許庁から速やかに通知がなされます。
特許出願人や権利者がこの通知に対して応答する義務はありませんが、反論したい場合には、反論を記載した「上申書」を提出することができます。
上申書の内容を考慮するか否かについては審査官の裁量によりますが、考慮されないということはまず無いようです。
弁理士が教える、制度の活用法・対処法
情報提供は知財戦略において、特に競合他社の権利化を阻止する手段として、とてもコスパの良い手段です。
異議申立や無効審判では、それなりに費用と時間がかかってしまいます。また異議申立や無効審判は、いったん権利が成立したものに対しての取り消し手段という点で、難易度も上がります。
これに対し情報提供は、特許庁費用が不要ですし、代理人費用も異議申立や無効審判と比較すればかなり低額で済みます。
また権利成立前に情報提供をすることで、権利成立阻止の効果も高まります。
特許庁によれば、情報提供された情報のうち70~80%程度が審査において採用されている、とのことですが、実際の採用の是非に関わらず、情報提供されたものについて審査官は必ず一度は目を通して考慮しているようです。
情報提供の内容は審査において有効に活用されると言えますので、積極的に利用する価値はあります。
出願者・権利者から見た情報提供制度
情報提供をされた側(特許出願人や権利者)としては、いい気分はしないでしょう。しかし一方では自社の出願・権利に興味を持っている第三者がいる、言い換えると、権利が成立すると困る第三者がいる、ということを推し量れる、とも解釈できます。
そのような出願・権利は、より価値が高く自社の競争力向上に貢献するものですので、「よし、何がなんでも権利を成立させよう!」というように、知財戦略の方針決定に役立ったりします。
まとめ
以上、今回は特許の情報提供制度について見てきました。
ライバルの権利化を阻止したい者においては、情報提供制度はとても使い勝手の良い制度です。
情報提供された特許出願人や権利者側としても、見方によっては、「権利の価値が高い」といったことを推し量ることができるという点で、情報提供されたからといってネガティブに捉える必要は無く、むしろポジティブに権利化を進められるようになるきっかけにもなり得ます。
情報提供制度をよく理解することで、自社の知財戦略をまたさらにより有利に進められるでしょう。
エンジニア出身です。某一部上場企業にて半導体製造装置の設計開発業務に数年携わり、その後、特許業界に転職しました。
知財の実務経験は15年以上です。特許、実用新案、意匠、商標、に加えて、不正競争防止法、著作権法、など幅広く携わっています。
諸外国の実務、外国法にも長けています。
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