秘密意匠制度とは?
意匠とは
「特許」や「商標」は聞いたことがあるけど、「意匠」はあまり聞いたことがないという方々は多いのではないでしょうか。
意匠とは、特許や商標の仲間で、物品のデザインを保護する権利です。
例えば自動車のデザインや、携帯電話デザインなどが意匠権で保護されています。
意匠の詳しい記事については以下の記事で説明していますので、そちらをご参照ください。
→意匠権とは?5分でわかる意匠権の全て!
秘密意匠制度とは
今回は、「秘密意匠制度」について現役弁理士が詳しく説明いたします。
秘密意匠制度とは、文字通り意匠を秘密にする制度です。
新しいデザインを創作した場合、特許庁に意匠登録出願を行うことで意匠権を取得することができますが、意匠権になると「意匠公報」という特許庁の発行する公報に掲載されます。
この公報は特許庁のデータベースにアクセスすることで誰でも見ることができます。
秘密意匠とは、一定期間の間、誰でも見ることができる状態を制限して秘密にする制度になります。
そもそも秘密意匠制度なんて聞いたことがないという方も多いのではないでしょうか。
それはなぜかというと、特許や商標には秘密特許や秘密商標といった制度がなく、意匠のみに認められている制度だからです。
秘密意匠制度が設けられている理由
ではなぜ意匠のみに秘密意匠制度が設けられているのでしょうか?特許だって秘密にしたいニーズはあると思いませんか?でも特許には秘密特許制度はないのです。
それはなぜかというと、特許と意匠は性格に違いがあるからです。特許は例えばインターネットの通信技術やスマートフォンの構造など、技術的なアイデアに与えられますが、技術というのは日々進歩しています。
通信速度は日々進歩していますし、メモリーの容量も昔とは比べ物にならないくらい大きくなっています。
このように技術的なアイデアは過去の技術を研究者が参考にしつつ改良を重ねることで進歩していくので、過去の特許を秘密にされてしまうと技術が進歩していかないというデメリットがあります。
よって特許には秘密特許制度がないのです。
一方、意匠は特許のような技術を保護する制度ではなく、物品のデザインを保護する制度です。
物品のデザインは、過去のデザインを参考にしつつ改良を重ねていくという側面があまりないのです。例えば、あるお皿のデザインに意匠権が与えられ、それが秘密にされたからといって、お皿のデザイナーが困ってしまうという事態はあまり生じません。
デザインというのは主観的な好みの部分もあって全く異なるデザインというのが生まれやすく、過去のデザインを必ずしも参考にしなくてもよいからです。
また、意匠のみに秘密意匠制度が存在する理由としては、意匠は簡単に真似されてしまうという問題があるからです。
特許の場合、複雑な技術を扱う場合も多く、例えば化学物質の発明であれば実験が必要なため、発明の内容が公開されたとしてもそれを第三者が見て簡単に真似できる場合は多くないと思います。
一方で意匠はどうでしょうか。
例えば自動車のデザインなどはいったん人の目に触れてしまえば、比較的簡単に真似をすることができてしまいます。
意匠権を取ることができたけれど、自分たちが商品を売る前に真似されてしまってはせっかく意匠権を取っても意味がなくなってしまいます。意匠権を取ったんだから真似している人に対してやめさせればいいじゃないかと考える人もいるでしょう。
たしかに意匠権も特許権と同じく、他人が勝手に使うことをやめさせることができる権利ですので、デザインを真似されたらそのデザインを使うことをやめさせることができます。
しかし、デザインの特徴的部分を真似しつつ少し変更することで意匠権の範囲外となってしまう場合もあり、こういった巧妙な模倣を許してしまう可能性が出てきてしまいます。
このように、意匠は特許と比べて真似されやすいという特性があるため、意匠権となった後も真似されないように秘密にすることができる秘密意匠制度が設けられたのです。
ただし永久に秘密にすることができるわけではなく、意匠が登録となった日から3年間となります。
秘密意匠の手続
では、秘密意匠制度を使うにはどういった手続が必要なのでしょうか。
意匠を秘密にしたい場合、意匠登録出願の際または意匠登録の際に秘密にしてほしい期間などを記載した書面を特許庁に提出することで、3年を限度として意匠を秘密にすることができます。
昔は意匠登録出願の際にしか秘密意匠制度の申請をすることができませんでしたが、現在は意匠登録の際にも申請ができるようになりました。
意外と早く登録になってしまった場合に、自分たちがそのデザインを使って商品を売り始めるまで秘密にしておきたいというニーズがあったため、法改正がされました。
秘密意匠制度のメリット・デメリット
秘密意匠制度のメリットとデメリットをまとめておきたいと思います。
まずメリットとしては、先ほど説明したとおり、意匠を秘密にすることで他者の真似を防ぐことができます。
では、デメリットはなんでしょうか?手続的には申請書類を出すだけだし、そんなに煩雑なものではないのでデメリットはないとも思えます。
デメリットとしては、意匠権を使いづらくなるという点が最大のデメリットになります。
なぜ意匠権を使いづらくなるのかというと、秘密にされているからです。
例えば、秘密にしている意匠を真似している人が現れたので、その人に対して真似するのをやめるよう警告したいとします。
しかし、その意匠は秘密にされているため、その真似をしている人は果たして本当にその意匠を真似をしているのかわかりません。
よって、秘密にしている意匠権を行使するためには、秘密にしている意匠が掲載されている書面を特許庁からもらって、その真似をしている人に対してその書面を提示しないと権利行使できないことになっています。
また、真似をされてしまったことで自分の売上が下がってしまった場合、下がった売上分を損害賠償請求したいところですが、その際、真似した相手に落ち度(過失といいます)があったことを意匠権者が証明しないといけません。
なぜなら、意匠は秘密にされているため、真似した側からすれば知らなかったから落ち度はないという反論ができてしまうからです。
このように、秘密意匠制度はメリットがあるものの、いざその意匠を使いたいとなった時にいろいろと制限があります。
秘密意匠制度が使われている事例
実際に秘密意匠制度が使われている事例にはどのようなものがあるのでしょうか。
例えば自動車のデザインは秘密意匠制度が使われることがあります。
自動車のエンジンの発明などは真似をするとしても研究開発が必要なので真似するのに時間がかかりますが、外装デザインであれば真似をすることは比較的容易です。
よって、少なくとも自動車が発売されるまでは秘密にしておきたいというニーズがあるのです。
秘密意匠制度は、意匠登録出願は先にしたけど、商品化されるのはまだ先という場合によく使われる制度になります。
まとめ
秘密意匠制度は聞きなれない制度だと思いますが、うまく使えば意匠権を取得しつつ他社に真似されないようにできるメリットがあります。
秘密意匠制度については、意匠を出願する際に弁理士に相談することをおすすめします。
知財タイムズでは意匠に強い特許事務所を簡単に見つけることができますので、秘密意匠制度を使って意匠登録出願を考えられている場合はぜひご活用ください。
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2007年弁理士登録し、2012年に弁護士登録。 知財経験は約15年で、大手電機メーカー、知財系法律事務所において特許出願から特許権侵害訴訟まで数多くの知財事件に携わる。 ソフトウェア系出身のため、ITやソフトウェアの特許を得意としている。
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