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中国商標の実情と、日本商標との違い

日本人が持つ、中国の商標のイメージ

中国の商標に対しては、他人の商標を横取りしたり、有名な地名について登録したりするというイメージを持っている方がいるかもしれません。実際に、ここ数年の間にも、京都の観光地である天橋立や、衣類・生活雑貨等を取り扱う無印良品が商標登録されています。

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今回の記事では、中国商標の実情と、日本商標との違いについて、説明いたします。なおデータ件数は2020年のものを使用しています。

中国の商標登録の現状は?

中国の商標登録の現状ですが、日本と比べて非常に多くの出願を審査しており、審査をしている中国特許庁に負担が生じています。

中国と日本の商標に関する出願数、登録数、取り消される商標登録の数を解説します。なおデータは2020年のものを参照しています。

出願数

中国商標の出願数は、約934.8万件です。また、商標を担当する審査官の数は2,200人以上になります。審査官1人当たりの受け持ちは4,000件を超える計算です。

一方で、日本商標の出願数は約18.1万件、商標を担当する審査官の数は約140人です。1人当たり1000件少々担当している計算ですね。

審査官が審査する商標の数は、日本よりも中国の方が多く、それだけ審査官に負荷がかかっていることが分かります。

商標登録の数

中国の商標登録数は約576.1万件、対する日本の商標登録数は約13.5万件です。

このうち中国では約6割の商標が、日本では約7.5割の商標が登録されています。つまり中国では、日本よりも登録される割合が低い傾向にあるのです。

取り消される登録商標の数

中国の登録商標は、日本の登録商標と比べて、取り消しになる可能性が比較的高いという傾向があります。

取り消される中国商標の数は10.1万件に昇ります。

ちなみに中国の商標を取り消す法的手段としては、異議申し立てと無効審判があります。異議申し立てにより取り消される中国商標は6.3万件、無効審判により取り消される中国商標は3.8万件です。

一方、日本の商標のうち取り消されている件数は約850件です。

中国の商標と同様に、日本でも異議申し立てと無効審判により、商標を取り消せます。異議申し立てにより取り消される日本の商標は46件、無効審判により取り消される日本の商標は808件です。

日本と違う?中国の商標制度

中国の商標制度と日本の商標制度は、その多くが共通しています。

例えば、使用する見込みのない商標については登録を受けられないこと、出願後、方式審査、実体審査を経て登録されるまでの過程、実体審査において判断される内容については、中国と日本で共通しています。

その一方で、中国と日本の商標制度で相違する点として、以下の2点が挙げられます。

  1. 拒絶理由が見つかった場合の対応
  2. 不正の目的で出願された商標に対する拒絶対応

拒絶理由が見つかった場合の対応

中国と日本の商標制度で異なる主な事項として、実体審査において拒絶理由が見つかったときの対応があります。

中国では、実体審査において拒絶理由が見つかった場合、拒絶査定が通知されます。

もし拒絶査定に不服がある場合には、拒絶査定を受け取った日から15日以内に、不服審判を請求する必要があります。

この不服審判の請求に際して行う、拒絶理由に対する主張や反論は、審判請求から3ヶ月以内に提出すればOKです。

そのため中国商標の拒絶査定が出たとき、引き続き権利化を希望するか否かは早急に決める必要がありますが、具体的な反論の内容については、審判を請求した後であっても検討することが可能です。

不正目的で出願された商標に対する拒絶対応

日本の商標制度では、外国で周知な商標が他人によって無断で出願・登録されることを防止するため、拒絶理由の一つとして、「日本国内又は外国で周知な商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をする商標登録出願を拒絶する」という旨の規定があります。

すなわち日本では

  • 出願した商標が国内または外国で周知であるか
  • 周知商標の使用者と出願人が同一であるか

という点も審査した上で商標登録されるため、外国で周知となっている商標を不正に出願しても拒絶されます。

しかし中国の商標制度では使用を目的としない、つまり悪意による商標登録出願を拒絶する旨の規定はあるものの、使用の目的や悪意については特許庁で判断することが困難なのが現状です。

ですから外国で周知となっている商標を不正に出願した場合に、拒絶されず、登録されることがあります。

中国で、勝手に商標登録されていたときの対応

中国で勝手に商標登録されていたときの対応は、中国での商標登録が適法になされているか否かによって変わります。

中国で勝手に登録された商標であっても、その商標を取り消すまでは、その商標を自分で使用することはできません。その一方で、登録商標が適法になされていない場合には登録商標を取りせるため、その商標を自分で使用することが可能となります。

そのため、このような場合における対応としては、この中国商標の登録が適法であるか、その検討をすることになります。

中国の商標登録が適法になされているか?

まずは商標登録の無効理由があるか、検討します。無効理由があるということは、それすなわち適法に商標登録されていないからです。

検討する主な無効理由としては、以下の3つがあります。

  1. 商標登録出願は、先に存在する他人の権利(中国における権利)を侵害してはならない
  2. 他人が先に使用している一定の影響力(中国における影響力)のある商標を不正な手段で抜け駆け登録してはならない
  3. 使用を目的としない悪意のある出願を登録してはならない

上記の1,2については、中国における権利や影響力で判断されるため、これから中国で使用を予定している商標の場合に、これらの無効理由を主張することは困難です。

ただし権利を取得したい商標がロゴで、著作権を有する旨の主張が可能であれば話は別です。ロゴの著作権は中国でも発生するため、この著作権に基づいて上記の1を主張することも可能となります。

また3については、日本における有名な地名や、日本で周知の商標が登録されている場合「悪意がある」と主張できるでしょう。

中国の商標登録が適法になされていない場合

中国の商標登録が適法になされていない場合には、中国商標を取り消すことで、自分の商標を中国で使用することが可能となります。

中国商標を取り消す手段は以下の通り。

  • 異議申し立て(登録後の公告から3ヶ月以内)
  • 無効審判(登録から5年以内)
  • 不使用取消審判(登録されてから3年以降)

登録から5年を経過すると無効審判ができなくなるので、不使用取消審判での対応となりますが、商標権者が使用していると不使用取消審判は認められません

対応する際には、いつ商標登録されたかについて注意する必要があります。

商標を横取りされる前に、中国へ出願しよう

中国で事業をする場合には、横取りされる前に商標出願することが重要となります。

中国を含む大半の国で、商標出願に先願主義という早い者勝ちルールを採用しています。

したがって商標と商品・役務のいずれも同一の(または類似する)出願が複数なされた場合、最先の出願人のみが商標権を取得することになります。

海外進出の予定がなくても、出願したほうがいい?

海外進出の予定がない場合には、商標登録出願はしないほうがいいと思われます。

なぜなら中国では、継続して3年間商標を使用していない場合には、不使用取消審判を請求されることで、商標権が取り消されることがあり得るからです。

そのため中国での出願に際しては、中国への進出に目途がついた段階で出願することがいいと思われます。

参考

中国知財局が2020年度年次報告書を発表 ~コロナ禍においても専利・商標出願件数は共に大幅増~ | NGB株式会社

特許行政年次報告書2021年版

中国:2021 年商標審査・審理の件数は1,400万件以上 - 北京路浩 –

審査官の1年間の審査件数は何件?【日本弁理士会東海会】


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