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線引きはどこ?商標の類似について、具体例付きで分かりやすく解説

商標の類似とは

商標の類似とは言葉の通り、2つの商標を比較した場合、同一の者が使用していると誤認されるおそれがあるほど似ていることをいいます。

しかし「似ている」の判断は、人によるバラツキが生じやすいという問題があります。そのため日本では、商標の類似を判断するにあたって一定のルールが設けられています。このルールについては後述します。

類似した商標がもたらす影響は

商標の類似による影響が関係している事例としては、海賊品による被害があります。真正品よりも品質の劣る海賊品を誤って購入したという事例は、ニュースでも頻繁に取り上げられています。

このように、誤認されるおそれのある商標の使用や登録を自由に認めると、その商標を付した商品を購入した人、あるいはサービスの提供を受けた人が、不測の不利益を生じる可能性があります。

また自分の商標に類似する商標が、他人に使用されたせいで、自分の商標に生じたブランドとしての信用が毀損される可能性もあります。

そのため商標登録出願の審査や、商標権侵害の有無は、商標の類否に基づいて判断されています。

【商標の類似が影響するシーン1】商標登録出願の審査

商標登録出願の審査場面において、互いに類似する商標がある場合、以下の1~3の要件を全て満たす後願の商標登録出願は、商標登録を受けることができないとして拒絶されます。

  1.  他人の先願商標登録出願が既に登録されている
  2. 先願の登録商標における商標と自分の出願した商標が同一又は類似である
  3.  先願の登録商標における指定商品・役務と、自分の出願した商標における指定商品・役務が同一又は類似である

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

引用:商標法 | e-Gov法令検索

逆に言えば、商標が同一又は類似でも指定商品・役務が非類似であれば、後願の商標登録出願は先願の登録商標を理由として拒絶はされません

【商標の類似が影響するシーン2】商標権侵害

他人の登録商標と同一又は類似の商標を使用した場合、ライセンス契約や登録商標に無効理由がある等の権原や正当理由がなければ、商標権侵害となります。

この場合における「登録商標と使用している商標が類似」であるためには、以下の1と2の両方の要件を満たすことが要求されます。

  1. 登録商標における商標と使用している商標が同一又は類似である
  2. 登録商標における指定商品・役務と、使用している商品・役務とが同一又は類似である

第二十五条 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

第三十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用

したがって商標権侵害のシーンにおいても、登録商標と使用している商標とが同一又は類似でも、指定商品・役務が非類似であれば、商標権の侵害とはなりません

どこまでが類似か?の判断基準【具体例】

先ほど述べたように、商標の類似を判断する基準としては「商標の同一/類似」と「指定商品・役務の同一/類似」の2つがあり、両方が同一又は類似の時に「両者は類似する」と見なされます

そこで次は、判断基準の詳細について説明します。

商標の類似(主に文字商標・図形商標)はどう判断するのか

商標の類似は、商標の外観、称呼、観念によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察することで判断されます。

【商標の類似を判断する3ポイント】

  • 外観とは…視覚を通じて認識する外形(見た目)
  • 称呼とは…取引上自然に認識する
  • 観念とは…取引上自然に想起する意味または意味合い

外観(見た目)について

商標の外観の類否は、需要者に強く印象付けられる両外観を比較するとともに、視覚を通じて認識する外観の全体的印象を考察することで、判断されます。

例えば、次の商標は語尾の「X」が小文字と大文字である点で差異がありますが、その差はわずかであることから、外観上近似しているという印象を与えます。

称呼(読んだときの音)について

商標の称呼の類否は、比較される両称呼の音質、音量、音調、音節において、共通し、近似するところがあるか否かを比較するとともに、両商標が称呼され、聴覚されるときに与える称呼の全体的印象を考察することで、判断されます。

この説明だけだと分かりにくいと思いますので、要素ごとに具体例を紹介します。

音質に関する判断要素

1. 相違する音の母音を共通にしているか、母音が近似している

  「ダイラマックス」と「ダイナマックス」

  「セレニティ」と「セレリティ」

2.相違する音の子音を共通にしているか、子音が近似している

 「プリロセッティ」と「プレロセッティ」

 「ビスカリン」と「ビスコリン」

音量(音の長短)に関する判断要素

相違する1音が長音の有無、促音の有無又は長音と促音、長音と弱音の差にすぎない

 「モガレーマン」と「モガレマン」

 「コレクシット」と「コレクシト」

 「コロネート」と「コロネット」

 「タカラハト」と「タカラート」

音調(音の強弱およびアクセントの位置)に関する判断要素

1.相違する音がともに弱音であるか、弱音の有無にすぎないか、長音と促音の差にすぎない

 「ダンネル」と「ダイネル」

 「ブリテックス」と「ブリステックス」

2.相違する音が、ともに中間または語尾に位置している

 「サイバトロン」と「サイモトロン」

3.語頭または語尾において、共通する音が同一の強音である

 「アプロトン」と「アクロトン」

4.欧文字商標の称呼において強めのアクセントがある場合に、その位置が共通する

 「SUNRICHY」と「SUNLICKY」

音節に関する判断要素

1.音節数(音数)の比較において、ともに多数音である

 「ビプレックス」と 「ビタプレックス」

2.一つのまとまった感じとしての語の切れ方、分かれ方において共通性がある

 「バーコラルジャックス」と「バーコラルデックス」

観念(意味合い)について

商標の観念の類否は、商標構成中の文字や図形等から想起される意味が、互いにおおむね同一であるか否かを考察することで、判断されます。

例えば次の商標は、「でんでんむし」と「かたつむり」の語が、いずれも同じ意味を表すものとして一般に理解されているため、観念上近似しているという印象を与えます。

結合商標の類否判断

結合商標とは、文字、図形、記号、立体的形状等が結合して構成される商標です。例としては、大きい文字と小さい文字を組み合わせた「富士白鳥」や、長い称呼の 「chrysanthemumbluesky」などがあります。

結合商標の場合、商標の全体観察による外観、称呼、観念のほか、商標を構成する一部からの称呼、観念も類否判断において考慮されます

結合商標の詳細については、こちらの記事もご覧ください。

結合商標とは?文字商標との違いも解説!【知財タイムズ】

その他の商標について

ここまでは文字商標、図形商標の類似をメインにお話ししてきましたが、商標登録を受けられる商標には他に、立体商標、動き商標、ホログラム商標、色彩の商標などがあります。

これらの商標の類否判断についても簡単にご紹介します。

まずは立体商標の類否判断です。

立体商標と平面の商標との類否判断では、立体商標を特定の方向から観た姿と平面の商標との外観が近似する場合には、両者の外観は類似すると判断されます。また立体商標同士の類否判断では、特定の方向から観た姿が近似する場合に、両者の外観は類似すると判断されます。

動き商標は、動き商標同士や動き商標と図形商標との間で類否判断がなされます。また、商標の変化する状態が軌跡として線で表されることで商標が形成される場合には、この軌跡によって形成される商標も類否判断の対象となります。

文字や図形等の自他商品・役務の識別機能が認められる標章が変化する動き商標と、その標章と同一又は類似の標章からなる図形商標等とは、原則として、類似するものとする

引用:新しいタイプの商標に関する審査基準の概要(特許庁)

またホログラム商標の類否判断では、光の反射や、見える角度により変化する状態を考慮して類否判断がなされます。

そして色彩の商標は、色彩のみからなるか/色彩を組み合わせるか、で類比の判断方法が変わります。

色彩のみからなる商標の類否判断は、色相(色合い)、彩度(色の鮮やかさ)、明度(色の明るさ)を総合することで、判断されます。

そして色彩を組み合わせる商標は、これら色相、彩度、明度の他、色彩の組合せにより構成される全体の外観も総合して、類否判断がなされます。

商品の類否はどう判断されるのか

ここからは、もう一つの基準である「指定商品・役務の同一/類似」についてを解説していきます。

商品の類否は、以下の基準に基づいて、判断されます。

  1. 生産部門が一致するかどうか
  2. 販売部門が一致するかどうか
  3. 原材料及び品質が一致するかどうか
  4. 用途が一致するかどうか
  5. 需要者の範囲が一致するかどうか
  6. 完成品と部品との関係にあるかどうか

一方で、役務の類否は、以下の基準に基づいて判断されます。

  1. 提供の手段、目的又は場所が一致するかどうか
  2. 提供に関連する物品が一致するかどうか
  3. 需要者の範囲が一致するかどうか
  4. 業種が同じかどうか
  5. 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じかどうか
  6. 同一の事業者が提供するものであるかどうか

なお商標登録出願の審査段階では、特許庁が作成した類似群コードに基づいて商標の類否が審査されます。この類似群コードは、類似関係にあると推定する商品又は役務をグルーピングし、各グループに特定のコードを付与したものです。

【類似群コードの例】

区分商品・役務類似群コード
第14類宝石箱20A01
第16類鉛筆25B01
第20類家具20A01

この場合は、宝石箱と家具の類似群コードが一致しているため、商品・役務が一致しているとみなされます。

類否に関する判例4つ

ここからは商標の類否に関する判例を4つ紹介します。最高裁の判例のうち2つは昭和期と古いですが、今でも商標の類否における重要な判例として扱われています。

商標の類否に関する判例~氷山事件~

商標の類否に関する判例として、氷山事件があります(最判昭和43年2月27日(昭和39 年(行ツ)第110号)。本件では、以下の本願商標と引例商標の類否が争われ、両者は非類似と判断されました。

本願商標は、上半部に淡青色の空を、下半部に濃青色の海を表し、その中央に海面に浮き出した氷山の図形を描いた図形に「硝子繊維」「氷山印」「日東紡績」の文字が付された商標です。

この判例で、商標の類否は

  • 対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所に誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであること
  • 商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すること
  • 商品の具体的な取引状況に基づいて判断するべきである

と判示されました。

そして本件では、本願商標は氷山の図形のほか「硝子繊維」「氷山印」「日東紡績」の文字を含むものであるのに対し、引用登録商標は「しょうざん」の文字のみから成る商標であり、外観と観念(見た目と意味合い)が異なるため、両者は非類似であると判示しました。

結合商標の類否に関する事例(1)~リラ宝塚事件~

結合商標の類否に関する判例として、リラ宝塚事件があります(最判昭和38年12月5日(昭和37年(オ)第953号)。本件では、本願商標と引例商標の類否が争われ、両者は類似すると判断されました。

この判例では、商標の類否判断にあたって、結合商標として商標を構成する一部からの称呼、観念が生ずるか、全体のみから称呼、観念が生ずるかという点が争われました。

本件では、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標では、その一部だけからも称呼、観念が生じることがあると判示されました。

今回のケースでは、本願商標の図形が古代ギリシャの抱琴でリラという名称であることはそう広く知られていないうえ、”宝塚”の部分は明確な意味を持っています。ですからリラの図形と”宝塚”の文字とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないとして、両者が類似すると判断されています。

結合商標の類否に関する事例(2)~つつみのおひなっこや事件~

ほかにも結合商標の類否に関する判例として、つつみのおひなっこや事件があります(最判平成20年9月8日(平成19年(行ヒ)第223号))。本件では、本願商標「つつみのおひなっこや」と引例商標1「「つゝ み」、引用商標2「堤」との類否が争われ、本願商標と引用商標1、本願商標と引用商標2はいずれも非類似と判断されました。

この判例で判示されたのは、商標の構成部分の一部を抽出し、その部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断できるのは

  • 取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合
  • それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じない場合

に限られるということです。

そして、本件商標は「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているため、「つつみ」の部分を抽出して類否を判断することはできないと判示しました。

立体商標の類否に関する事例~エルメスハンドバッグ事件~

立体商標の類否に関する判例として、エルメスハンドバッグ事件があります(東京地判令和5年3月9日(令和3年(ワ)第22287号))。本件は、商標権者であるエルメス アンテルナショナルが、被告の販売した商品の形状が立体商標の商標権を侵害しているとして、損害賠償を請求した事件です。

原告の商標権は、こちらの2件です。

原告商標権1

登録番号 商標登録第5438059号

登録日 平成23年9月9日

商品区分 第18類

指定商品 ハンドバッグ

商標

原告商標権2

登録番号 商標登録第5438058号

登録日 平成23年9月9日

商品区分 第18類

指定商品 ハンドバッグ

商標

被告商品1

被告商品2

被告は、登録商標と使用しているハンドバッグとでは、角部及び側面の各形状、蓋部の長さ及びハンドルの形状等が相違しており、両者は外観上類似していないと主張しました。

しかしながら、裁判所は被告の主張に対して、これらの相違点はハンドバッグの細部に関するものであるにとどまることなどを理由に、これらの相違点は両者の類否の判断に当たり考慮すべき事情とはいえないため、両者は外観上類似すると判断しました。

また裁判所は、エルメスの原告商標権1と被告商品1のどちらも少なくとも百貨店にある店舗で販売されている点で、その販路が共通しているため、取引の実情を考慮しても、被告商品1の出所について誤認混同を生じるおそれがあると判断しました。

そして以上の判断に基づいて両者を類似と判示し、損害賠償請求を認めました。

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