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ザッハトルテを巡る商標権の訴訟(甘い七年戦争)について解説します

ザッハトルテの商標権侵害訴訟について

ザッハトルテはウィーンの伝統菓子であり、強い甘味に特徴のある菓子です。しかし、このザッハトルテに関しては、以前商標権を巡る訴訟があり、7年間にわたって争っていました。

今回は、ザッハトルテを巡る商標権の訴訟(甘い7年戦争)と、この訴訟を経た両社の現在の商標について、解説します。

商標権訴訟までの経緯

ザッハトルテの誕生は19世紀にさかのぼります。誕生については、いくつか説がありますが、有力なのはこちらの2説です。

  • ナポレオン戦争後のヨーロッパ再建を目的として1814~15年に開催されたウィーン会議において、料理人であるフランツ・ザッハーがデザートをふるまったのが始まりという説
  • 1832年に特別な客をもてなすために料理人であるフランツ・ザッハーがデザートをふるまったのが始まりという説

その後、ザッハトルテはレストランやカフェで販売され、フランツ・ザッハーの息子であるエドワード・ザッハーが、1876年に「ホテル・ザッハー」を開業しました。

後年ホテル・ザッハーは財政難になるのですが、ウィーンの王室御用達のケーキ店「デメル」が財政援助を申し入れ、ホテル・ザッハーはザッハトルテのレシピと「本物」を冠したザッハトルテを販売する権利をデメルに売却しました。

しかし、その後ホテル・ザッハーとデメルとの間でトラブルが起き、ホテル・ザッハーがデメルを訴える(ホテル・ザッハーが原告、デメルが被告)ことで、「本物」を冠したザッハトルテの商標権を巡る裁判が行われました。

訴訟の概要

この訴訟は、ホテル・ザッハーとデメルのどちらが、「本物」を冠したザッハトルテの商標権を使用できるか、について争われました。ただし現在の商標権に関する訴訟とは少し内容が異なり、どちらが「本物のザッハトルテ」かが争点となったようです。

訴訟では、ホテル・ザッハーのザッハトルテはアプリコットジャムが2層になっているのに対して、デメルのザッハトルテはアプリコットジャムが1層になっていることが争点となりました。

この点について証人は、初期のザッハトルテではアプリコットジャムが1層であった、と証言しましたが、裁判所はホテル・ザッハーのザッハトルテが本物であるとの判決をしました。

訴訟後の展開

その後、ホテル・ザッハーの販売するザッハトルテには、「オリジナル・ザッハトルテ」と書かれた丸いチョコレートが装飾されています。

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その一方で、デメルの販売するザッハトルテには、「エドワード・ザッハトルテ」と書かれた三角のチョコレートが装飾されています。

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Demel K.u.K. Hofzuckerbäckerei(@demel_wien)がシェアした投稿

ホテル・ザッハーの登録商標

ホテル・ザッハーが現在使用している商標はどのような商標なのか、登録商標を調べたところ、以下の商標が見つかりました。

1.

登録国:欧州

指定商品:第30類(タルト、ケーキ、クッキー、ペストリー、菓子類)

2.

登録国:シンガポール、アラブ首長国連邦, オーストラリア, カナダ, 欧州連合, イギリス, 日本, シンガポール, 米国, スイス

指定商品:第30類

3.

登録国:欧州

指定商品:第30類(タルト)

4.

登録国:中国

指定商品:第30類(コーヒー、パン、菓子など)

その他にも、“SACHER”の文字商標について、多数の国で商標が取得されていました。

ちなみにここで紹介した2の商標は、ケーキ表面に飾られているチョコプレートと同じものであり、4の商標はトルテ用ボックスに使用されています。

デメルの登録商標

またデメルが現在使用している商標はどのようなものかリサーチしたところ、以下の商標が見つかりました。

1.

登録国:デンマーク、ベネルクス知的財産局, スイス, チェコ共和国, ドイツ, スペイン, フランス, ハンガリー, イタリア, リヒテンシュタイン, モナコ, ポーランド, ロシア連邦, スロベニア, スロバキア, イギリス、アメリカ

指定商品:第30類(コーヒー、紅茶、チョコレート、菓子など)

2.

登録国:欧州連合, 大韓民国, トルコ、スイス, 中国, リヒテンシュタイン, モナコ, ロシア連邦, ウクライナ、イギリス、

指定商品:第30類(コーヒー、紅茶、チョコレート、菓子など)

その他にも、“DEMEL”の文字商標について、日本を含む多数の国で商標が取得されていました。また、1の商標は、デメルのホームページなどで使用されています。

第三者の登録商標

ザッハトルテに関する商標を調べたところ、ホテル・ザッハーとデメル以外にも、ザッハトルテに関する商標を出願・登録している者がいたと分かりました。

登録番号:5953977

商標:大人の濃厚ザッハトルテ

商標権者:森永乳業株式会社

指定商品:第30類(ザッハートルテ,ザッハートルテの風味を有するアイスクリーム,その他のザッハートルテの風味を有する菓子など)

権利の状態:権利消滅済

この商標権は、登録後5年間の分納をし、その後の納付をしなかったことで、消滅しています。

まとめ

ホテル・ザッハーのザッハトルテと、デメルのザッハトルテは、いずれも多数の国で販売されています。そのため両社とも、多数の国で商標権を取得しています。そしてホテル・ザッハーの商標には”ORIGINAL”が付されていることからも、甘い7年戦争を経た元祖のこだわりが現在まで受け継がれていることが推測されます。

またホテル・ザッハーの商標は、チョコプレートを商標の形状にしたり、トルテ用ボックスそのものの形状にしたりしています。つまり物の形状としたときのデザイン性を考慮した商標であると考えらえます。その一方で、デメルの商標はロゴについての商標であり、カタログや看板、包装やホームページなどに使用することを念頭に置いた商標であるといえます。

例えば先ほど挙げたホテル・ザッハーの4の商標は、トルテ用ボックスの意匠としても権利を取得できますが、意匠権は20年程度で権利が消滅するのに対して、商標権は更新することで半永久的に権利を存続させられます。そのためホテル・ザッハーは、商標の更新をすることで、このトルテ用ボックスのデザインを半永久的に独占的に使用することが可能となります。

その一方で、「ザッハトルテ」のみの商標については両者とも商標権を取得していません。この理由としては、「ザッハトルテ」がケーキの種類として普通名称になっており、いずれの出願人もケーキについて「ザッハトルテ」について商標登録を受けることができなくなっていることが考えられます。森永乳業の商標における指定商品に「ザッハートルテ」と記載されていることも、「ザッハトルテ」が普通名称化されていることと関係があるのではないかと思われます。

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