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AIが特許や知財実務に及ぼす影響について解説

AIが特許に及ぼす影響

近年、AI技術が急速に発展しています。最近では、生成AIを用いて書かれた小説が芥川賞に選ばれたことも話題になりました。

芥川賞作家・九段理江さん「受賞作の5%は生成AIの文章」発言の誤解と真意、AIある時代の創作とは:東京新聞 TOKYO Web

そして特許分野においても、発明の生成や特許調査にAIを活用することで、業務の効率化を図ることが話題に挙がっています。今回は、AIが特許に及ぼす影響について、発明の生成と特許調査の観点から解説します。

AIは発明者になるか

自然人、法人、AIなど、発明者になりうる存在はいくつか考えられますが、特許法上に規定はありません。

しかし特許においては、従来から、自然人のみが発明者になれる旨の運用がなされています。

この運用は他の知的財産権でも同様に行われており、例えばAIを用いて著作物を著作した場合であっても、そのAIは著作者とならない旨の運用がなされています。

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“発明者”の解釈

AIを用いて新しい発明をした場合、開発者やAIがどのように発明の生成に関与したか、という点が発明者の解釈に大きく関係します。

特許法上、発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作であると規定されています(特許法第2条第1項)。

第二条

この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

出典:特許法 | e-Gov 法令検索

ですから発明者に該当するためには、技術的思想の創作に実質的に関与することが必要であり、単にデータをまとめた者や実験を行った者、資金提供をした者は発明者に含まれないと解釈されています。

AIを道具として発明を生成した場合

発明の場におけるAIの使い方は、「人間が道具として使う場合」と「AIが自律的に発明を生み出す場合」の2つが考えられます。

人間がAIを道具として使用することで発明を生成した場合、AIは発明の生成に実質的に関与していないため、AIを使用した人間が発明者になります。この場合には先ほど述べた発明者の解釈通りになります。

AIが自律的に発明を生成した場合

AIが自律的に発明を生成した場合、発明の生成に対する人間の関与がわずかになります。そのため、人間は技術的思想の創作に実質的に関与していないため発明者とならず、AIも自然人でないため発明者とならない、という事態も生じ得ます。

このような場合、発明者が不在であるため、発明が生成されたにも関わらず、特許を取得することができない、という問題が生じます。

なお2024年時点では、日本を含む諸外国において、AIを発明者として認めないとする運用がなされています。しかし、今後、AIが自律的に発明を生成する、という事案が増えた場合には、AIを発明者として認めるか否かについて、さらなる議論がなされることも予想されます。

諸外国におけるAIと発明者の関係

このようなAIによる発明の生成は、諸外国でも話題に挙がっています。その具体例として、米国と欧州でのトピックスを紹介いたします。

米国での事例

米国では、アメリカ合衆国特許商標庁(USPTO)が2024年2月に、AIと発明者との関係における発明者認定ガイダンスを公表しています。

このガイダンスでは

  • 発明者として願書に記載できるのは自然人に限られること
  • AIを利用した場合であっても、自然人がクレームされた発明に重要な貢献をしている場合には、この自然人は発明者としての適格性を有していること

が述べられています。

また自然人が発明に重要な貢献をしているか否かについては、以下の1から3の要件を全て満たしている場合に、重要な貢献をしていると判断されます。

  1. クレームに記載された発明の着想又は実施化への何らかの重要な態様での貢献である
  2. その貢献が発明全体と比較して質的に重要でないとされる貢献ではない
  3. 真の発明者に対する現在の技術水準や周知概念の単なる説明ではない

欧州での事例

欧州では2018年10月に、「DABUS」というAIを発明者とする特許が2件出願されました。出願番号は、18275163.618275174.3です。

欧州特許庁は、審査において「発明者の欄には発明者の苗字、名前及び住所が記載されるべきである」との立場を取り、いずれの特許出願も拒絶しました。

その後、本件についてはいずれも審判請求がなされましたが、両件とも拒絶審決となり、特許を受けることができませんでした。

AI関連発明の特許出願件数

AI関連発明の特許出願件数は、1995年から2015年までは年間1000~1500件程度でしたが、2016年以降急激に増加しています。そして2015年では1320件だったAI関連発明の特許出願件数が、2021年では9022件まで増加しています。

またAI関連発明の特許出願を技術分野別に見ると、コア技術と画像処理で急激な増加が見られます。

関連:2023年度 AI関連発明の出願状況調査 結果概要(特許庁)

深層学習技術の特許出願件数

一方では、AI関連発明であっても出願件数が横ばいの技術もあります。それは深層学習技術で、特許出願件数は2018年で85件、2021年で166件となっています。

ここで注目したいのは、2018年から2021年で1000件以上の増加を見せているCNN(畳み込みニューラルネット)関連発明や、同じく2018年から2021年で1000件以上の増加を見せているRNN(再帰型ニューラルネット)又はLSTM(長短期記憶)関連発明です。

CNN、RNN、LSTMも2016年以降に出願件数が急増したため、深層学習技術の特許出願件数が今後急増する可能性もあると思われます。

AIによる特許調査の効率化

特許調査においては、作成した検索式に基づいて調査担当者が出願書類を確認し、調査結果をまとめるという業務が一般的に行われています。

しかし検索式の作成や出願書類の確認は、調査担当者のスキルによって正確性や作業速度が大きく変わるため、これらのばらつきを少なくすることが調査業務の課題の一つとなっていました。

そして近年では、このばらつきを軽減させる方法として、AIの活用が注目されています。

例えば「AI Samurai」というシステムでは、調査対象となる特許の発明の概要や特許請求の範囲を入力することで、データベース内にある特許文献の分析を行い、その調査結果を出力することが可能となっています。

またパナソニックソリューションテクノロジー株式会社や富士通株式会社、三菱電機株式会社等の大手のメーカーも、AIによる高精度な検索システムの開発を行っていることからも、特許調査は引き続き、AIの影響を大きく受けると言えます。

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