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ファービー人形事件 人形デザインに著作性は認められる?

ファービー人形をご存知ですか?

そう!一度見れば忘れられないような見た目のぬいぐるみですね!

正確には、目が動いたり言葉を話したりする育成型の電子玩具です。

この可愛らしいぬいぐるみについて、著作権侵害事件が起こりました。

今回はこの事件について解説いたします。

人気爆発!ファービー人形

発売当時、爆発的な人気で流行したファービー人形。

フクロウのような、モモンガのような、目が大きくてふわふわした毛に覆われている愛らしい人形です。

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ご存知の方も多いのではないでしょうか。

ファービー人形は、電子回路やモーターなどが内蔵されていて使用を継続すると成長し、次第に単語や熟語を発するようになったり、扱い方によって優しくなったり乱暴的になったりと、性格も変化する電子玩具です。

爆発的な人気商品の宿命と言いますでしょうか、当時は多数の類似品が出回っていました。

ファービー人形事件ってどんな事件?

人気大爆発のファービー人形は、当時、沢山の類似品が出回っていました。そのような状況の中、米国タイガーエレクトロニクス社からファービーの日本での独占販売権を取得した日本の玩具メーカーAが、ファービーそっくりの人形を勝手に作って販売する業者Bに対して、著作権法違反で刑事告訴をしました。

これがファービー人形事件と言われるものです。

事件の概要

玩具の販売等を行う業者Bは、米国タイガーエレクトロニクス社が著作権を有する「ファービー」を真似したおもちゃを、米国タイガーエレクトロニクス社の著作権を侵害して製造されていることを知りながら、玩具販売業者に対して販売したとして、著作権侵害で訴えられました。

なお、タイガーエレクトロニクス社は、ファービーのデザイン形態について米国の連邦政府機関であるコピーライト・オフィスに著作権の登録をして米国における著作権を取得しています。

日本においては、株式会社トミーがタイガーエレクトロニクス社からファービー人形の独占的販売権を取得し、販売することが認められています。

事件の争点

裁判で大きな問題となったのは、ファービー人形が著作権法上の「美術の著作物」に該当するのか否かという点でした。

  • 検察側の主張

ファービー人形は使用者がこれを観賞することによりペットを飼っているかのような楽しみを感じさせることを意図して製作された玩具であるところ、その容貌姿態は使用者の感情に訴えかけるという製作者の思想を具体的に表現したものであるから著作物性を認める

  • 弁護側の主張

ファービー人形のデザインは電子玩具として産業上の利用を目的に制作されたものであり、玩具としての機能を離れて美的鑑賞となし得るものではない上、顔部に玩具としての仕掛けがあり、技術的要請に基づく制約があるから、専ら美の表現を追求したものであるということはできず,美術性が認められないし、ファービー人形の容貌姿態は,映画「グレムリン」に登場するキャラクターである「ギズモ」に酷似するなど独創性においても問題があるなどとして、そのデザイン形態に著作物性は認められない

裁判所の下した判断は「無罪」

裁判所はこの事件において、被告へ無罪判決を言い渡しました。

具体的な判決内容は以下の通りです。

  • 第一審判決

前提として、

「客観的に見て、実用面及び機能面を離れ独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものについては、純粋美術としての性質を併有しているといえるから、美術の著作物として著作権法の保護が及ぶ」

とされています。

そして、ファービー人形については、

「全身を覆う毛の縫いぐるみから動物とは明らかに質感の異なるプラスチック製の目や嘴等が露出しているなど、これを玩具としての実用性及び機能性を離れ独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとは認め難いのであって、本件ファービーのデザイン形態が、我が国著作権法の保護の対象となる美術の著作物ということはできない」

と、判断されました。

つまり、そもそもファービー人形は著作物ではないとの判断です。

著作物でないということは、著作権侵害にはならないのです。

裁判所は、被告人に対して無罪判決を下しました。

  • 控訴審判決

控訴審においても、

「ファービー人形は電子玩具としての実用性及び機能性保持のための要請が濃く表れているのであって、これは美感をそぐものである」

「 ファービーの形態は、全体として美術鑑賞の対象となるだけの審美性が備わっているとは認められず、純粋美術と同視できるものではない」

「その容貌姿態のみで美術鑑賞の対象となるというには困難がある」

とし、著作物ではないとされました。

控訴審においても、無罪判決となりました。

米国著作権を取得しているのに日本では認められない?

前述の通り、ファービー人形は米国の連邦政府機関であるコピーライト・オフィスに著作権の登録をして米国における著作権を取得しています。

米国で著作権を取得しているファービー人形ですが、日本で著作権法上保護されるか否かは、日本の著作権法上の解釈によることとなっています。

米国で著作権を取得していたとしても、日本の著作権法の解釈によって、認められるものでなければならないのです。

日本での著作権法上の著作物ってどういうもの?

著作物とは、

「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

をいいます。

そして、一般的に美術は、

  • 絵画などの鑑賞を目的としたもので、実用性を有しない純粋美術
  • 実用品に美術の感覚技法を応用した応用美術

に分けられます。

純粋美術、応用美術とはどういうもの?

「純粋美術」と言われるものに絵画などがあります。

絵画などは作者の思想・感情を表現するものであり、鑑賞することを目的として作られるものです。

このような純粋美術は、著作物と認められやすいです。

「純粋美術」の他に、「応用美術」と呼ばれるものがあります。

食器や家具、電化製品、今回の事件になったファービー人形のようなおもちゃなど、鑑賞目的で作られたものでないものは、「実用品」と言います。

しかし、このような実用品であっても、独創的でデザイン性の高い形状・外観をしているものは「応用美術」と呼ばれます。

実は、この応用美術も著作物と認められる可能性があります!

しかし、

「純粋美術と同視し得る程度の美的創作性が必要」

となっています。

この判断はとても難しいと思います。

どの程度の美的創作性なのかは簡単には判断できず、ファービー人形含め応用美術について、著作物かどうかを判断するのは簡単なことではありません。

争点対象の物品が応用美術か、が争点になった例→
タコの滑り台に著作物性は認められるか?【現役弁理士の事例解説】

ファービー人形は実用品!

ファービー人形は、飾って鑑賞するようなものではありませんでした。

ファービーは電子玩具というものであり、その外見や形状などは遊ぶことを目的としたおもちゃです。

つまり、ファービー人形は「実用品」ということになります。

「実用品」は、先ほど説明したように、著作物と認められる「文芸、学術、美術、音楽」の範囲から外れます。

また、「実用品」のうち、応用美術に相当するものであったとしても、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性があると認められなければ、著作物とは認められないことになります。

実用品であるファービー人形が、仮に応用美術に相当するものであったとしても、「純粋美術と同視し得る程度の美的創作性がある」とは、裁判では認められませんでした。

つまり、ファービー人形は著作物とは認められなかったのです。

まとめ

今回の裁判では、ファービー人形は実用品であり、

  • 美的特性を備えているとは認め難い
  • 美術鑑賞の対象となるだけの審美性が備わっているとは認められない
  • 純粋美術と同視できるものではない

などと判断され、著作物とは認められませんでした。

愛くるしい顔とふわふわのファービー人形が、そこまで言われるのもちょっと可哀想な気がするという著者の個人的な思いは別にして、日本の著作権法上の解釈によればこの様な判断がなされました。

ファービー人形の様な実用品において、特徴的なデザインで創作されたものであっても、著作権法によって保護されるのは、今回の判決のように難しいと思われます。

その様な特徴のある実用品を創作した場合は、著作権ではなく意匠権を取得する検討をされるのが良いと思います。

著作権や意匠権については判断が難しい部分もありますので、著作権や意匠権による保護をご検討の際は、専門的知識を持つ特許事務所、弁理士に相談されることをお勧めいたします。

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