知的財産権を侵害するとどうなるの?!米国弁護士・弁理士が事例を用いて解説!
知的財産権には注意!知的財産権は怖い!という話を耳にされたことも多いように思いますが、
・知的財産権って何?
・知的財産権の侵害って何?
・侵害するとどう怖いの?
と疑問に思われる方も少なからずいらっしゃると思います。
今回は、知的財産権の侵害について、事例を交えながら解説したいと思います。
知的財産権とは?
知的財産権について、文化庁は、「知的な創作活動によって何かを創り出した人に対して付与される,『他人に無断で利用されない』といった権利」と説明しています。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chitekizaisanken.html
より具体的な代表例としては、以下が挙げられます。
(1)創作活動の成果について付与される権利
特許権 | 技術的アイデアの高度な創作(発明)の権利(特許法) |
実用新案権 | 技術的アイデアの創作で物の形状・構造・組合せに関するもの(考案)の権利(実用新案法) |
意匠権 | 物・建築物の形状・模様・色彩や機器の表示画像の外観の美しさ(意匠)の権利(意匠法) |
著作権 | 思想・感情の創作的表現として文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの(著作物)の権利(著作権法) |
営業秘密の権利 | 秘密として管理される事業活動に有用な技術上又は営業上の秘密の情報(営業秘密)の権利(不正競争防止法) |
(2)評判・出所・ブランドについて付与される権利
商標権 | 文字・図形・記号・立体形状・色彩・音等からなる表示(標章)で、商品・サービスに使用するもの(商標)の権利(商標法) |
商品等表示の権利 | 人の業務に係る商品又は営業を表示する表示(商品等表示)の権利(不正競争防止法) |
商品形態の権利 | 商品の外部及び内部の形状・模様・色彩・光沢・質感(商品形態)の権利(不正競争防止法) |
これらに加えて、(1)の分野には、半導体集積回路の回路配置に関する権利や種苗法の育成者権などが含められる場合もあります。
また(2)の分野には、商品等表示について、アメリカで認められているいわゆるトレードドレス(店舗の見た目・雰囲気など)も含まれると解釈されています。
これらのうち、特許庁への登録を以て初めて権利が発生する特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つを産業財産権という場合もあります。
これ以外の著作権、営業秘密の権利、商品等表示・商品形態の権利は、特に登録などを要せずに権利が発生します。
3.侵害とは?
ざっくり言ってしまうと、知的財産権として保護されるもの(知的財産)を、無断で使用してしまうことをいいます。
侵害の様相は、例えば、特許権なのか商標権なのかによって幾分考えるべきところが変わってきますが、以下ではそれぞれ事例を交えて解説します。
(1)特許権の事例
特許権侵害の有名な事件として、「切り餅事件」というものがあります。
事件の概要
切り餅とは、餅を個包装に切り分けた形態で販売される商品です。
個包装された切り餅をそのまま焼いてしまうと、餅があらぬ方向からはみ出してくるという課題があり、餅のはみ出しをコントロールするために、切り分けた餅の表面に切り込みを入れるという工夫を各社が行っています。
この切り込みの入れ方を巡って、とある切り餅メーカーが、「この切り込みの入れ方は自分のみが独占しているやり方だ!」とその特許権を主張して、ライバルメーカーを特許権侵害で訴えた事例です。
審理過程
特許権侵害の場合、
- (1)侵害か否かの審理
- (2)(侵害認定された場合)損害額がいくらかの審理
を行って、結論が出ます。
侵害か否かの審理においては、以下の点が検討されます。
【有効な特許権があるか?】
これは特許庁にある登録原簿から証明をしていきます。ここで問題となる事例は多くないです。
【特許権の技術的範囲に属するか?】
かなり多くの事例がここで大きく争われます。特許権の技術的範囲とは、特許請求の範囲(いわゆるクレーム)の記載から確定していくものですが、侵害だと主張されている製品(被疑侵害品)の特徴が、クレームの要件を満たしていると、特許権の技術的範囲に属するとして侵害成立となります。
切り餅事件では、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の 上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側 面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有す る一若しくは複数の切り込み部又は溝部」というクレームの要件が満たされているか?という点が争点となりました(他のクレームの要件は問題にならなかった)。
この要件は、切り込みをどこに入れるか?に関するものです。
被疑侵害品の切り餅には、上面・下面・側面の全部に切り込みが入っており、原告側は、「側面に切り込みが入ってさえいれば侵害だ」と主張しました。
これに対し、被告側は、「側面にのみ切り込みが入ったものが侵害で、側面に加えて上面・下面に切り込みが入ったものは対象外だ」と主張しました(「載置底面又は平坦上面ではなく」の解釈)。最終的には原告側の主張が認められました。
上述のように、技術的範囲の確定は、クレームの記載に基づくことが基本ですが、厳密にはクレームの要件に当てはまらない場合でも、実質的には大差がない場合(例:「くぎで固定」というクレーム要件に対して、「ねじで固定」する被疑侵害品)、均等論という考え方の下、技術的範囲に属するとされる事例もあります。
【業として実施したか?】
「実施」とは、物の発明であれば、その物を生産、使用、譲渡・貸渡し、輸出・輸入・譲渡等の申出をすることをいい、方法の発明であれば、その方法を使用することをいいます。
「業として」とは、おおよそ事業活動の一環としてと同義と考えてよいでしょう。
営利目的であるかどうかは問いません。
非営利であっても事業活動であれば「業として」に該当します。
逆にいうと、個人的に又は家庭内でという類は、「業として」に該当しません。
切り餅事件では、被告側も切り餅メーカーで、切り餅を販売(=譲渡)していたわけですし、事業活動の一環で切り餅販売をしていた(=業として)ので、この点は争いになりませんでした。
【実施に正当理由がなかったか?】
例えば、実は特許権者が許諾をしていたのだとすると、特許権の技術的範囲に属する発明を業として実施していたとしても、侵害ではありません。
他にも、特許法においては、試験研究の場合には特許権が及ばないだとか、先使用権を有する人には特許権が及ばないだとか、いくつか正当理由が定められています。
審理の結果
審理の結果、上記の4点の全てについてYesという認定がなされ、かつ被告側から有効な抗弁(例:特許がそもそも無効であるといえる場合があります)がなされなければ、侵害成立となります。
侵害成立になると以下のような顛末が考えられます。
【差止命令】
まず差止が命じられます。
差止とは、被疑侵害品の業としての実施を中止することをいい、これに付随して、被疑侵害品の実施に係る設備や在庫を廃棄処分することが伴われることもあります。
切り餅事件では、敗訴した被告に対して、被疑侵害品である切り餅の製造・販売・輸出等を全て中止するように命じられるとともに、全ての在庫・半製品の廃棄処分とそのための製造設備の廃棄処分が命じられました。
【損害賠償命令】
差止は、判決以後の侵害に対する措置ですが、判決より前の侵害に対する措置として、損害賠償が命じられます。
切り餅事件では、約15億円の損害賠償が被告に対して命じられました。
【刑事罰】
切り餅事件は、刑事事件ではなく民事事件であったため、差止・損害賠償が結果となりましたが、特許権侵害は刑事事件にもなり得ます。
刑事事件として特許権侵害となった場合、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金又はこれらの併科が課されます。非常に重いといえるかと思います。
(2)商標権・ブランドの事例
ブランド絡みの有名な事件として、「スナックシャネル事件」というものがあります。
厳密には、商標権侵害が争われたものではなく、不正競争防止法で禁止される商品等表示の冒用が問題となった事例ですが、商標的な点も交えて考察したいと思います。
事件の概要
ヨーロッパの高級化粧品・服飾品ブランドとして有名なシャネルの名称を、スナックの名称として取り込んで営業していた被告に対して、シャネル社が原告としてその冒用の中止を求めて争った事例です。
審理過程
商標権侵害の場合も、(1)侵害か否かの審理、(2)(侵害認定された場合)損害額がいくらかの審理を行って、結論が出ます。
侵害か否かの審理においては、以下の点が検討されます。
【有効な商標権があるか?】
特許と同様、特許庁にある登録原簿から証明をしていきます。
スナックシャネル事件では、原告は、「シャネル」に関する商標登録を化粧品や服飾品などの分野で受けていましたが、スナックの分野では登録を受けておりませんでした。そのため商標法ではなく、不正競争防止法に基づく請求を行ったものと思われます。
不正競争防止法の商品等表示の場合、「業務に係る商品又は営業を表示する表示」であることを示すことになります。
【商標が同一・類似か?】
商標(マーク)は、見た目(外観)、発音(称呼)、イメージ(観念)の3要素のうち、1つでも共通すると類似とされます。不正競争防止法の商品等表示についても同様に、商品等表示の同一性・類似性が検討されます。
スナックシャネル事件の場合、「シャネル」が共通するので、この点は争いになりませんでした。
【商品・役務が同一・類似か?】
<商標法の場合>
商標登録の際には、「どの商品・サービスに使用するか」を指定して登録を受けます(指定商品・役務)。商品・役務の類似性は、指定商品・役務との類似性を見ていくことになります。
訴訟実務においての類似性は、取引の実情に鑑みて、同一の商標を付すと混同が生じるか?という基準で判断されます。
具体的には、顧客層が同じであるか?商流は同じか?同一の販売者により販売されるものか?表示を注意深く読んで購入するタイプの商品か?などの点を総合判断していくことになります。
特許庁の実務における類似性は、特許庁側がこれまでの経験を元に開発した分類である「類似群コード」を各商品・役務に割り当て、この類似群コードが共通すれば、類似と判断するという形式判断がなされています。
類似群コードはあくまで特許庁の運用上のものであり、訴訟の場面においては考慮はされても決定要素ではありません。
<不正競争防止法の場合>
不正競争防止法に基づく商品等表示の場合も、近しい概念が採用されていて、保護される商品等表示の要件として、「広く認知があること」、「商品や営業に混同が生じていること」を様々な事業活動の証拠を出して証明していくことになり、この検討の中で商品・役務の類似性が一要素として検討されます。
スナックシャネル事件では、化粧品・服飾品で有名な「シャネル」をスナックに冒用したところで、混同が生じるのか?というところで最高裁まで争われました。結論としては、両者がグループ関係があるのか?などと誤信させる混同(広義の混同)が認められました。
現行法では、「広く認知」のレベルが「著名」といえるレベルであれば、「商品や営業に混同が生じていること」の証明は不要となりますが、スナックシャネル事件の当時はこの規定がありませんでした。
【業として使用したか?】
商標法では、「使用」とは、概して、出所表示(この商品・役務の出所は私ですという表示)として商品・役務に関して商標を付す行為といってよいでしょう。広告での使用も含みます。
「業として」とは、特許と同様になります。
この「出所表示として」というところが度々争いになります。これが俗にいう「商標的使用か?」という論点です。
例えばTシャツについて「ライオン」の文字が商標登録されている場合、Tシャツにライオンの絵を描いて「ライオン」という文字を付すと、これは出所表示(Tシャツ製造・販売元を示す表示)なのか?それともTシャツのデザインなのか?という問題が生じます。
この場合も総合判断をすることになりますが、ライオンの絵のすぐ側に「ライオン」の文字が記載されていて、ほぼ誰しもがライオンの絵のことだろうと読み取るようなものは、「出所表示ではない」方向に動くでしょうし、反対に絵とは遠い首元のタグのところに「ライオン」と書いてあるような場合は、「出所表示である」方向に働くでしょう。
不正競争防止法に基づく商品等表示の場合も同様に考えてよいと思われます。
スナックシャネル事件では、この点は問題になりませんでした。
【使用に正当理由がなかったか?】
例えば、実は商標権者が許諾をしていたのだとすると、侵害ではありません。他にも、商標法や不正競争防止法においては、いくつか正当理由が定められています。
審理の結果
審理の結果、上記の5点の全てについてYesという認定がなされ、かつ被告側から有効な抗弁(例:商標がそもそも無効であるといえる場合があります)がなされなければ、侵害成立となります。
侵害成立になると以下のような顛末が考えられます。
【差止命令】
まず差止が命じられます。
差止とは、商標・商品等表示の業としての使用を中止することをいい、これに付随して、被疑侵害表示に係る設備や在庫を廃棄処分することが伴われることもあります。
スナックシャネル事件では、敗訴した被告に対して、シャネルの商品等表示の使用を中止するよう命じられました。
判決からは明確ではありませんが、スナックシャネルの看板の取下げや広告の差し替えも当然にその範囲に入っているものと思われます。
【損害賠償命令】
差止は、判決以後の侵害に対する措置ですが、判決より前の侵害に対する措置として、損害賠償が命じられます。
スナックシャネル事件では、約100万円の損害賠償が被告に対して命じられました。
【刑事罰】
スナックシャネル事件は、刑事事件ではなく民事事件であったため、差止・損害賠償が結果となりましたが、商標権侵害や不正競争防止法違反は、刑事事件にもなり得ます。
刑事事件として商標権侵害となった場合、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金又はこれらの併科が課されます。
また、商品等表示に関する不正競争防止法違反の場合、不正の目的があれば、5年以下の懲役、500万円以下の罰金又はこれの併科が課されます。
いずれも重い罪といえるでしょう。
おわりに
このように知的財産の侵害は、非常に専門的な判断を要するものです。
紛争や訴訟というと弁護士へ相談されることが多いかと思いますが、知的財産権の紛争や訴訟の場合には、特定侵害訴訟代理業務の認定を受けている弁理士に相談することもできます。
紛争や訴訟に至る前に、侵害なのかどうか悩んでいるという相談にも、弁理士は侵害鑑定を行うことができますし、また侵害を避けたり侵害をより捉えやすくするための出願戦略などもアドバイスすることができます。
知的財産権について日常的に弁理士に相談されるとよいのではないでしょうか。
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弁護士(米国カリフォルニア州)及び弁理士(日本)。国内事務所において約4年間外国特許、意匠、商標の実務に従事した後、米ハリウッド系企業における社内弁護士・弁理士として10年強エンターテインメント法務に従事。外国特許・商標の他、著作権などエンタメ法が専門。
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