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特許出願非公開制度について解説します【2024年5月施行】

特許出願非公開制度(秘密特許)とは

特許出願非公開制度とは、特許出願書類に、公にすることで国家・国民の安全を損なうおそれの大きい発明が記載されていた場合に、発明の内容を一定期間非公開とする制度です。

非公開となる時期は案件ごとに異なりますが、非公開となることが決定した後、1年毎に非公開の継続または解除について審査され、非公開の解除をもって非公開の終了となります。

特許出願が非公開となっている間は、このような制限が課されます。

  • 特許査定や拒絶査定などの特許手続が留保される
  • 特許出願の取り下げが禁止される
  • 出願された発明を実施・開示することは原則不可

また非公開となることで実施が制限されると、出願人に損失が発生することも考えられます。そのため実施の制限により生じた者に対しては、国が「通常生ずべき損失」を補償する制度となっています。

特許出願は原則公開される仕組み

特許制度は、出願人に特許権を与える代わりに発明を公開することで、発明を奨励し、産業の発達に寄与するという法目的を実現しています(特許法第1条)。

(目的)

第一条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

引用:特許法 | e-Gov法令検索

そのため現在の特許法では、公開前に特許出願を取り下げる等の手続をしない限り、原則として特許出願された発明の内容は公開されます。そしてこの出願公開制度は、ほぼ全ての国の特許制度で採用されています。

特許出願非公開制度が導入された理由・経緯

現状の特許制度では、出願から1年6ヶ月を経過すると、発明の内容に関わらず発明の内容が公報に載ります。

ですから仮に、特許出願書類に武器へ応用できる発明が記載されており、発明が公開されることで日本の安全保障が著しく損なわれる危険があるとしても、現状の制度では公開せざるを得ません。

その一方で多くの諸外国では、特許公開制度の例外措置として、特定の分野について非公開とする制度を採用しており、G20諸国においても、日本、メキシコ、アルゼンチン以外の国では非公開制度が導入されています。

施行時期はいつか

2023年12月15日の公布により、特許出願の非公開制度は、2024年5月1日から施行されることとなりました。なおこの非公開制度は、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(通称:経済安全保障推進法)という法律に基づいて実施されます。

特許が非公開になるまでの流れ

特許出願の内容が非公開になるまでの流れは、次の通りです。

1-1:特許庁による第1次審査

・原則として全ての特許出願に対し行われる

・一定の条件を満たす特許出願のみが、内閣府に送付される

1-2:特許出願人から非公開にすべき旨の申出があった場合

・特許庁による第1次審査なしで内閣府による第2次審査が行われる

2:内閣府による第2次審査

・出願内容を非公開とするか(保全指定)を審査

・第1次審査及び第2次審査を経て保全指定をする旨の決定がなされる。この決定は、特許出願から10月以内に行われる予定

特許庁での審査

特許庁での審査は、出願から3ヶ月以内に行われます。ここでは、出願内容が政令で定める技術の分野(特定技術分野)に該当するか否かが審査され、該当する場合にのみ内閣府による第2次審査に付されます。

特定技術分野であるか否かの判断は、原則として国際特許分類(IPC)に基づいて行います。

国際特許分類(IPC)とは?FIとの違いや調べ方も解説

現在の運用体制では、特許庁が特許出願を受理した後、発明の内容に応じてIPCを3~5個ほど付与することになっています。特定技術分野には特定のIPCが付与されていますから、このIPCに基づいて判断がなされるという仕組みです。

なお実用新案登録出願は非公開制度の対象外となっており、審査されません。

内閣府での審査

内閣府では、次の観点に基づいて、保全指定の要否が審査されます。

  • 国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれ(いわゆる機微性の程度)
  • 保全指定をした場合に、産業の発達に及ぼす影響やその他の事情

内閣府は、特許出願人等に資料の提出や説明を求めたり、国の機関や専門的な知識を有する者から必要な情報を収集したりしながら、この審査を進めます。

もしも保全指定をする場合は、あらかじめ特許出願人に対して保全対象となり得る発明の内容を通知した上で、特許出願を維持するかどうか(特許出願を取り下げるか否か)の意思確認を行います。

このような手続きを経て保全指定がなされ、特許が非公開となります。

非公開の対象になる、特定技術分野とは

特定技術分野とは、公にすることにより国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの大きさと、経済活動やイノベーションへの影響とを考慮し、保全指定の対象となる発明を含む領域であると選定された技術分野です。

具体的には安全保障に影響する技術分野と、国民生活や経済活動に影響する技術分野とに分かれており、これらの技術分野は政令で列挙されています。

安全保障に影響する技術分野

我が国の安全保障に影響する技術分野としては、以下に示す19分野が政令で列挙されています。

1)航空機等の偽装・隠ぺい技術

IPCとしては、B64とF41H 3/00の両方が付与された技術が該当します。

2)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術

IPCとしては、B64C39/02、B64U又はG05Dが付与され、かつ、F41又はF42が付与された技術が該当します。

3)誘導武器等に関する技術

誘導武器等の方向制御に関する技術の分野としては、IPCにF41G7が付与されています。また、誘導武器等に関する技術の分野としては、IPCにF42B15が付与されています。

4)発射体・飛翔体の弾道に関する技術

発射体又は飛翔体の空気力学的特性の改善や射程の延伸など、弾道に関する技術が該当します。IPCにF42B10が付与されています。

5)電磁気式ランチャを用いた武器に関する技術

IPCにF41B6が付与されています。

6)例えばレーザ兵器、電磁パルス(EMP)弾のような新たな攻撃又は防御技術

IPCにF41H13が付与されています。

7)航空機・誘導ミサイルに対する防御技術

IPCにF41H11/02が付与されています。

8)潜水船に配置される攻撃・防護装置に関する技術

IPCとしてB63G8/28からB63G8/33までのいずれか付与された技術が該当します。

9)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの

水中物の位置表示・探索又は音波等を用いた位置測定に関する技術であって、かつ、武器に関する技術を対象としています。IPCとしては、以下の①から⑦のいずれかが付与され、さらに、F41も付与された技術が該当します

①  B63C7/26、②B63C11/48、③G01S1/72~G01S1/82までのいずれか、④G01S3/80~G01S3/86までのいずれか、⑤G01S5/18~G01S5/30までのいずれか、⑥G01S7/52~G01S7/64までのいずれか、⑦G01S15

10)スクラムジェットエンジン等に関する技術

ラム圧による圧縮を利用し、外部で燃焼するジェット推進設備(スクラムジェットエンジン等)に関する技術を対象としています。ラム圧とは空気抵抗の力を利用した圧力であり、スクラムジェットエンジンとは空気取入口に生じた衝撃波で空気を圧縮し、圧縮された超音速の空気に燃料を噴射、燃焼させて推力を得るエンジンです。IPCにF02K7/14が付与されています。

11)固体燃料ロケットエンジンに関する技術

IPCにF02K9/08からF02K9/40までのいずれかが付与されています。

12)潜水船に関する技術

潜水船の船体に関する技術の分野としては、IPCにB63B3/13が付与されています。また、潜水船の上部構造、推進装置、姿勢・深さの制御、監視設備等に関する技術の分野としては、IPCにB63G8/00からB63G8/26までのいずれか、又はB63G8/34、B63G8/38若しくはB63G8/39のいずれかが付与されています。

13)無人水中航走体等に関する技術

水中航走体等に関する技術であって、かつ、自律制御等に関する技術を対象としています。IPCにB63C11/00及びG05Dが付与されています。

14)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの

水中物の位置表示・探索又は音波等を用いた位置測定に関する技術であって、かつ、潜水船等に関する技術を対象としています。IPCとしては、①B63C7/26、B63C11/48、G01S1/72からG01S1/82までのいずれか、②G01S3/80からG01S3/86までのいずれか、③G01S5/18からG01S5/30までのいずれか、④G01S7/52からG01S7/64までのいずれか又は⑤G01S15のいずれか該当し、かつ、B63Gに該当する技術が該当します。

15)宇宙航行体の熱保護、再突入、結合・分離、隕石検知に関する技術

IPCにB64G1/58、B64G1/62、B64G1/64又はB64G1/68が付与されています。

16)宇宙航行体の観測・追跡技術

IPCにB64G3が付与されています。

17)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術

IPCとしては、①G01J1/02からG01J1/08までのいずれか、②H01L27/14からH01L27/148までのいずれか又は③H01L31/08からH01L31/119までのいずれかに該当する技術の分野のうち、量子ドット又は超格子に関する技術が該当します。

18)耐タンパ性ハウジングにより計算機の部品等を保護する技術

耐タンパ性とは、外部から内部情報を不正に解析、読み取り、改ざんされることに対する耐性を意味します。IPCにG06F21/86又はG06F21/87が付与されています。

19)通信妨害等に関する技術

IPCにH04K3が付与されています。

付加要件対象分野

先ほど挙げた1)~19)までの技術分野のうち、10)~19)は保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きい技術分野であるとして、付加要件が課されています。

したがって10)~19)は特定のIPCに該当することに加えて、次で解説する付加要件を満たすことが、保全指定の条件となります。

付加要件とは

付加要件は、民生分野の産業や市場に展開される可能性を有する技術分野について、発明の経緯や研究開発の主体等の技術分野以外の角度から絞り込みをすることで、保全指定をすべき発明が含まれ得る領域を限定的に抽出するための要件です。

具体的には3つの要件が定められています。

  • 我が国の防衛又は外国の軍事の用に供するための発明
  • 国又は国立研究開発法人による特許出願に係る発明
  • 国又は国立研究開発法人の委託研究等に係る発明

国民生活や経済活動に影響する技術分野

もう一つの特定技術分野、国民生活や経済活動に影響する技術分野としては、以下の6つが該当します。

20)ウラン・プルトニウムの同位体分離技術

IPCとしてB01D59が付与されている技術のうち、ウラン又はプルトニウムに関する技術が該当します。

21)使用済み核燃料の分解・再処理等に関する技術

IPCとしてG21C19/33からG21C19/50までのいずれかが付与されています。

22)重水に関する技術

IPCとしてC01B5/02が付与されています。

23)核爆発装置に関する技術

IPCとしてG21J1又はG21J3が付与されています。

24)ガス弾用組成物に関する技術

IPCとしてC06D7が付与されています。

25)ガス、粉末等を散布する弾薬等に関する技術

IPCとしてF42B5/145又はF42B12/46からF42B12/54までのいずれかが付与されています。

保全対象発明の実施制限

保全指定の対象となった発明(保全対象発明)は原則として実施することはできませんが、内閣総理大臣の許可を受けた場合には実施することができます。

しかし保全対象発明を実施した場合、発明の内容によっては、発明に係る情報が流出してしまう可能性があります。なので実施の許可の判断は、申請に係る実施をした際に、発明を開示した場合と同様の情報が流出するか否かという観点から行なわれます。

一例としては

  • リバースエンジニアリングによる技術解析が困難で、仮に製品が市場に出回っても発明の内容を解明できない
  • 製品の納入先に厳格なセキュリティが確保されており、特定の者にのみ納入されるため万一発明の内容を知られたとしても情報拡散のおそれが無い

といった場合には、実施が許可されると考えられています。

保全対象発明の開示制限

保全対象発明は、正当な理由がある場合を除いて他者への開示が禁止されています。

正当な理由としては例えば、

  • 同一企業内で、人事異動等に伴い秘密を保持できる職員に発明の情報を共有する場合
  • 内閣総理大臣の許可を受けて発明を実施する際に、必要な情報共有をする場合

など、真に業務上の情報伝達の必要性が認められ、なおかつ伝達相手が適切に選定されていて適正な管理が担保される場合が該当します。

外国出願の制限

日本国内でした発明であって公になっておらず、日本で出願すれば保全審査の対象となる発明については、保全審査を受ける前であっても、外国出願ができません

外国出願の制限は、以下のいずれかに当てはまった際に解除されます。

  • 審査の結果、保全指定とならなった
  • 出願から10ヶ月を経過した
  • 保全指定された後に解除または保全期間が満了した

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保全対象発明開示による罰則


保全対象発明を正当な理由なく開示すると、罰則が科されることがあります。

指定特許出願人が会社である場合に、保全対象発明と知りながらその情報を取り扱っている同社の役職員が、故意に保全対象発明の内容を開示したとしましょう。

このとき当該役職員は2年以下の懲役若しくは 100 万円以下の罰金又はこれらの併科になると規定されています。さらに当該役職員の会社も100 万円以下の罰金に処せられる可能性があり、なおかつ特許出願が却下されることもあります。

社内で秘密として管理されている保全対象発明情報を、会社から取扱いを認められている役職員が、会社の任務に背いて、不正の利益を得る目的又は会社に損害を加える目的で外部に開示するケースも想定されています。

この場合は、問題の役職員が10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金又はこれらの併科に問われると規定されています。

まとめ

保全指定される発明の技術分野は特定の分野に限定されています。

そのため保全指定されるおそれのある発明については、保全審査が完了するまで発明を実施しないことや、発明の内容を秘密管理することについて、注意を払う必要があります。

また外国出願をする場合には、出願が可能となってから優先権満了までの期間が少ないため、保全指定期間中に外国出願の準備などをすることも検討するべきです。

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