アマビエ商標問題!先取り出願はそんなに悪いことなのか?
商標分野における「アマビエ」事件とは、「アマビエ」という文字商標を株式会社電通が出願を行い、多くの批判を受けて、その後出願却下をしたという事件です。
事件というとやや大袈裟ではありますが、商標問題が世間の耳目を集めることは多いことではないので、私、商標好き太郎としては当然注目していた事件でした。
そこには、世間一般の認識と商標に携わる者の大きな違和感がございましたので、そんな「アマビエ」事件を私の見解を交えながらお伝えします。
この記事を読んでわかること
・「アマビエ」商標の事件の概要が分かる
・SNS全盛期の今、商標とSNSの関連性が分かる
・今後注意すべき商標戦略が分かる
人間心理が渦巻く「アマビエ」出願!電通の出願は違法なのか?
結論「アマビエ」商標を出願することは全くもって違反ではない。当然、株式会社電通の以下出願は法を侵している訳ではない点注意が必要です。
では、何故一企業の出願がこれほど話題になったかと言うと、私は以下の要因を考えています。
- 1、コロナ禍の独特の心理状態であったこと
- 2、有名企業が出願人であること
- 3、SNSで、個人が考えを発する時代であること
まず、コロナ禍の独特の心理状態を見逃せないと考えます。これまでにない世界的に流行したウイルスと人類の争いが予期せず発生してしまい、世間は異常な閉塞感を抱えることになりました。
こういった状況では、行動も異常なものに走りがちです。
ただでさえ、「流行りもの」の商標登録出願はその抜け駆けという印象を与えるため、批判の的にされがちなものであり、下地に異常な心理状態があれば、悪い条件は整ってしまったと言わざるを得ないと思います。
そして、出願人が電通であることも重要な要素です。
これは商標問題だけではありませんが、有名企業としては良くも悪くもその取り上げられ方が大きなものになってしまいます。
今回の当事者は羨望とやっかみと対象となる有名企業である電通。
そして、これほど有名な企業であれば、一度火がつけば、炎上してしまうのは火を見るより明らかなもの。
こうなると、もう自然な鎮火を待つほか手はないものです。
最後に、SNS全盛の時代であるということも関係しています。
個人が自由に意見を発信できる時代でありますが、大衆の意見は必ずしも正しいものではありません。
今回は、その世論形成がやや誤った方向に言ってしまったために、これほどまでに叩かれてしまったと言えるでしょう。
「アマビエ」出願についての特許庁のスタンス
特許庁としてもはっきりとした答えを出していない
実は、商標「アマビエ」関連の出願は電通から出願された後も着々と出願されております。
それらの見解についても、特許庁はSNSで多数使用されているから登録不可と判断しており、弁理士としてはなかなか煮え切らない判断だと感じております。
但し、この特許庁判断は致し方ない側面もあります。
というのも、こういった商標「アマビエ」出願のケースでは、主に公序良俗・商標法4条1項7号や使用意思がない商標法3条1項柱書を拒絶する理由として示されるものですが、そもそも使用する意思があり、それが公共の利益を害さない場合は、「多数使用されているから登録不可」と根拠として上げざるを得ません。
(商願2020-45831 商標「Amabie\アマビエ」拒絶理由通知書より)
時代が変われば、審査結果も全く異なるものとなる可能性大!
上記、特許庁判断は時代と状況が変われば、ガラッと考えが一変すると思われます。
というのも、商標「アマビエ」が投稿している人が続出しているから、ダメ=登録を認めないと示している訳であるから、当然投稿している人が減ってくれば登録OKとも受け取れます。
正当権利者の権利行使も許されない?商標とSNSの関係と考える
近年は、権利行使にもブランド毀損のリスクを考えねばならなくなった
商標権を行使することは当然正当権利ですから、商標法上は問題ないです。
但し、そこは大衆意見とは相違してしまうこともあります。そこが法律とSNSの認識の乖離の怖いところ。実は、以下記載する事例で、そういったことが起こってしまったのです。
商標「くくる」問題を考える
白ハト食品工業株式会社は飲食店サービス(実際はたこ焼き屋)について、「くくる」商標を権利として保有しておりました(以下、参照)。
2019年にその権利に基づいて、全国の飲食店「くくる」に使用差し止め請求をかけたというのが商標「くくる」事件になります。
商標を専門にするものからすると、全く問題ないお話であり、このようなことはそれこそ頻繁に起こっております。但し、この商標「くくる」事件については、当時の記事の取り上げ方があたかも白ハト食品工業株式会社の権利行使は非情であるかのような報道となっており、やや炎上をしてしまったという状況がございます。
これは全くおかしな話です。
正当権利者は、自ら適法に取得した権利に基づいて、侵害者に権利行使をする。侵害者側は権利を侵している訳であるため、商標を変えなければならない。これ自体になんの不自然なところもありません。
しかしながら、SNSの大衆は白ハト食品工業株式会社側をあたかも「悪者」のように糾弾しておりました。このように、法律という確たるルールよりも、世間一般の感情が上回ってしまい、結局正当な権利行使をしても、それがブランド価値の既存を招くという事態も現代では起こりうる、そのようなことも頭に入れるべき時代なのかもしれません。
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弁理士歴7年。商標調査の件数は、5200件を突破しました。 商標のニュースは常に気になり、商標をこよなく愛する商標好きの 事務所勤務の弁理士です。好きな商標の言葉は、登録査定。
Twitter:@syohyosuki
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