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音楽をめぐる著作権侵害訴訟について解説~JASRACと音楽教室の訴訟を例に~

音楽教室事件とは

音楽教室事件とは、音楽教室での演奏が著作権の侵害に該当し、使用料が発生するか、という点について、音楽教室事業者・音楽教師と、JASRACとの間で争われた事件です。

音楽教室事件の裁判は、第1審(東京地裁)が2017年に開始され、その後第2審(知財高裁)、上告審(最高裁)を経て、2022年まで行われました。

本事件の主な争点としては、著作権の一つである演奏権が音楽教室での演奏に及ぶか否か、という点があります。今回は、この演奏権における争いについて説明します。

裁判までの経緯

この裁判の当事者であるJASRACは音楽の著作権を集中的に管理する団体です。クリエイター・音楽出版社とJASRACとの間で契約を締結することにより、JASRACは音楽の利用者に対して利用許諾をしたり、著作権の権利行使をすることを可能としています。

JASRACはこの事件が発生する前から、音楽教室の作成するテキストや、音楽教室の発表会において、JASRACの管理する音楽が含まれる場合には、音楽教室から演奏権に基づく使用料を徴収していました。

しかし今回、JASRACは、教室での日々のレッスンについても演奏権に基づく使用料を要求したため、音楽教室側が反発し、裁判になりました。

一審での争点

著作権法では、演奏権は以下のように規定されています。

[第22条] 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する。

引用:著作権法 | e-Gov 法令検索

したがって、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的としていない演奏については、演奏権は及ばないことになります。

また著作権法は、「公衆」についても以下のように規定しています。

[第2条5項] この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。

引用:著作権法 | e-Gov 法令検索

この規定は、「公衆」には、不特定の者についてはたとえ1人の場合でも該当し、さらに、特定の者であっても多数である場合には該当することを意味しています。

第1審では、音楽教室における「生徒」が、著作権法第22条の「公衆」に該当すると判断しました。その理由としては、以下の事項が挙げられます。

  • 音楽教室における「生徒」は、音楽教室と契約を締結することにより誰でも受講することができるため、不特定の者に該当する。
  • 音楽教室では継続的・組織的にレッスンを行っており、生徒の入れ替わりも生じ得ることを考慮すると、生徒は「多数」受講している。

また「音楽教室における演奏が、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的としているか」については、この要件が、家庭内での演奏など、公衆が存在しない状況での演奏を除外する趣旨であり、公衆に聞かせる目的意思があれば足りると判示しています。そのため、音楽教室における演奏は、この要件を満たすと判示しています。

そして第1審では、音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏、先生の演奏のいずれも演奏権を侵害する行為であるとの判示がなされました。

なお著作権法では、演奏権の及ばない場面についても規定されています。

[第38条1項] 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

引用:著作権法 | e-Gov 法令検索

しかしながら、音楽教室は営利を目的としているため、音楽教室はこの38条の適用を受けることはできませんでした。

第二審での争点

その一方で、第2審では、音楽教室における演奏権の侵害は認めたものの、音楽教室での演奏を①先生による演奏、②生徒による演奏に場合分けしたうえで、これらの①、②について演奏権が及ぶか否かの判断をしている点が、第1審と相違しています。

第2審では、①先生による演奏については、第1審と同じく演奏権が及ぶと判断しています。

対して②生徒による演奏については、生徒がした演奏の主体は生徒であると判断しました。本事件は、演奏権侵害の可否を争っている主体は生徒ではなく音楽教室であるため、音楽教室における演奏権の侵害は認められませんでした。

最高裁での判決

最高裁では、①先生による演奏について、第2審と同様に音楽教室に対して演奏権が及ぶため、音楽教室が使用料を支払う必要があるとしました。また第2審における②生徒による演奏が演奏権の侵害となるか否かについて、新たに判示しました。

最高裁では、以下の点を挙げた上で最終的に、②生徒による演奏については、生徒がした演奏の主体は生徒であることを理由に、音楽教室による演奏権の侵害を否定しています。

  • 音楽教室における生徒の演奏は、先生からの指導・教授を受けて演奏技術を習得し、その向上を図ることを目的として行われる。曲を演奏するのは、その習得・向上のための手段にすぎない
  • 生徒の演奏は生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つ。教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。
  • 教師による課題曲の選定や、演奏における指示指導は、生徒が目的を達成することができるように助力するものにすぎない。生徒は、あくまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。
  • 音楽教室事業者は生徒から受講料の支払を受けているが、受講料は演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。

楽曲のフレーズ事件

また、この音楽教室事件とは別の事件になりますが、楽曲のフレーズを模倣したか否かについて争われた事件があります。

この事件は、 CHEMISTRYの『約束の場所』で使用されている歌詞の一部が、『銀河鉄道999』のフレーズを盗用したとして、『銀河鉄道999』の著作者が『約束の場所』の作詞者に対して著作権侵害を提起した事件です。

 『約束の場所』では、「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」という歌詞が用いられています。他方、『銀河鉄道999』のフレーズとしては、「時間は夢を裏切らない 夢も時間を (決して) 裏切ってはならない」が用いられています。

この裁判では『銀河鉄道999』の著作者が損害賠償請求権を放棄したため、著作権侵害か否かについては判断されませんでした。その一方で、歌詞の一部とフレーズの類似性については、両表現から観念される意味合いは相当異なるとして、相違点が大きいと判断しました。

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