個人で特許申請はできる?自分で手続きしたい人向けマニュアル
最近、個人発明家が自分のアイデアを企業に持ち込み、製品化する事例もメディアで報じられています。そして個人が企業と対等に交渉するためには、特許権や商標権などの知的財産権が重要であることも知られています。
今回は、個人発明家向けに「自分で特許の申請はできる?」「特許を取るための手続きは?」などの疑問について知財部目線で解説します。
注:特許庁費用はすべて2022年4月1日改定後の金額です。
<この記事でわかること>
・自分で特許出願するメリットとデメリット
・特許出願から登録までの流れ
・特許事務所に依頼した場合の費用
(執筆:知財部の小倉さん)
特許は個人(自分)で申請できる?
結論からお答えすると、自分で出願することはできますが、おすすめしません。
なぜなら提出書類の、明細書作成のハードルが非常に高いからです。また範囲の広い「強い特許」を取得しようとするならば、なおさらプロに頼むべきでしょう。
おすすめはできませんが、法律上は出願可能なのでまず詳細をご説明します。
特許を受ける権利を有する者であれば出願できる
発明をした者には「特許を受ける権利」という、特許庁へ出願する権利が与えられます。
この特許を受ける権利は、発明者から第三者に譲渡することもできますので、特許を受ける権利を有する第三者も特許庁へ出願することができます。
例えば、企業は従業員から特許を受ける権利を譲渡してもらうことで、特許出願をしています。
特許出願に必要な書類
特許出願には以下の5つの書類が必要となります。
- 特許願(願書)
- 特許請求の範囲
- 明細書
- 図面
- 要約書
特許願は、願書ともいいます。特許庁に対して特許権の取得を請求し、出願人や発明者を明確にする書類です。発明が特許権として登録された場合、出願人が権利者となります。
特許請求の範囲(クレーム)は、権利の内容が記載されています。請求項1、請求項2・・・のように請求項ごとに発明が記載されています。これら発明の記載内容が、特許庁の審査を通過した場合に権利化される部分です。
明細書は、特許請求の範囲に記載した発明を実施できるよう具体的かつ詳細に発明の説明を記載した書類です。背景技術、発明が解決しようとする課題、実施例などの項目からなっています。
図面は、明細書を理解しやすくするために使われる補助的な書類です。明細書のように文章だけで発明の内容を説明しづらいときに図面を引用しながら発明を説明します。
要約書は、特許を公開する公開公報に掲載され、400字以内で発明が簡潔に説明された書類です。要約書の内容は、権利範囲を左右するものではなく、特許検索をするときに特許の概要を理解するための書類です。
特許出願書類の書き方についてはこちらの記事で細かく解説しています。
◆特許出願の必要書類と書き方!弁理士が徹底解説します!
特許出願にかかる費用
特許出願の必要書類が準備できたら、特許庁に出願手続きを行います。特許出願から登録までに特許庁に支払う費用としては以下のものがあります。
特許庁へ支払う費用 | |
出願 | ¥14,000 |
審査請求時 | ¥138,000+(請求項の数×¥4,000) |
特許登録時 | ¥12,900+(請求項の数×¥300) |
合計 | ¥169,200~ |
審査請求とは、出願した発明が特許になるかどうかを、特許庁に審査をしてもらうための手続きです。
出願した発明を権利化したい場合、出願から3年以内に審査請求する必要があります。権利化をせずに出願から1年半後に公開されていればよいということであれば、審査請求は不要です。
特許庁の審査を通過して登録査定になると、特許の維持費用である特許料を3年分支払い、登録します。払い忘れると特許が無効となってしまうのでご注意ください。
自分で申請するメリット・デメリット
一般的には弁理士に代理をしてもらう特許出願ですが、自分で申請することでどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
メリットは特許出願にかかる費用の安さ
最大のメリットは費用が安いということです。
明細書や特許請求の範囲などの必要書類を弁理士に代行してもらうと、特許庁へ支払う費用とは別に約30万円かかります。また特許が登録となった場合には、成功報酬として約10万円を支払う必要があります。
その他の手続きについても、事務手数料がかかります。
特許庁へ支払う費用 | 特許事務所へ支払う費用(平均) | ||
出願 | ¥14,000 | ¥300,237 | |
審査請求時 | ¥138,000+(請求項の数×¥4,000) | ||
特許登録時 | ¥12,900+(請求項の数×¥300) | ¥118,445 | |
小計 | ¥1649,200 | ¥418,682 | |
合計 | ¥581,582 |
デメリットは手間と時間がかかること
自分で申請するデメリットとしては、すべてを自分で対応しなければならず手間と時間がかかることです。
例えば、特許庁への申請やお金の支払いといった事務作業、特許戦略や出願書類の記載といった権利化実務など、通常であれば特許事務所がチームを組んで行っている仕事を一人で全部こなす必要があります。
特許出願から登録までに必要な法律知識や実務スキルを、一人で習得するのは非常に困難で、仮に習得するとしても10年以上の長い年月がかかります。
また、法改正があったり新たな判例が出たりするので、常に新しい知識も吸収していかなければなりません。
手間暇かけず「強い特許」を取りたいなら、弁理士に依頼をするのが良いでしょう。
【特許の取り方】特許出願から登録までの流れ
特許を登録するためには出願しただけで終わりでなく、特許庁から来る通知に期限内に応答したり、お金を支払ったりする必要があります。以下に特許出願から登録までの流れを記載したフローチャートを示します。
このフローチャートを見て分かるとおり、特許出願後は審査請求をすればスムーズに特許登録される訳ではありません。
審査の後、拒絶理由が出願人に通知されたならば、意見書と補正書を提出することで出願された発明の特許性(新規性と進歩性)を特許庁の審査官に主張していく必要があります。
ただ、審査官へ反論する材料は出願書類の内容から見つけるしかなく、出願書類に書いていない内容で反論しても認められません。
弁理士は審査官への反論に慣れていますので、出願書類を書いている段階で拒絶理由として通知されそうな内容を予測し、反論材料を記載しておきます。そうすることで審査官を説得しやすくなり、特許査定となる確率がアップします。
また審査の段階に応じて対応方法が変わるので、法律知識や特許制度を知っておく必要があります。拒絶理由通知に対しては意見書と補正書の提出、拒絶査定に対しては拒絶査定不服審判、といった感じですね。
そのため知識がないと、どのような対応が可能なのか分からず、本当は特許登録できたのに拒絶が確定してしまうということもあり得ます。
◆特許出願の流れ!必要書類や費用など気になるポイントも合わせて解説!
まとめ
今回は個人が自分で特許出願手続きをした場合のメリットとデメリットについて解説しました。
法律上は発明者など特許を受ける権利を有する者であれば手続きが可能で、弁理士に依頼するよりもコストが低くすみます。
しかし実際には他の業務にも時間を割く必要がありますので、個人で出願から登録までの手続きを行うのは難しいでしょう。
特許事務所に出願書類の作成や特許庁とのやり取りを任せることによって、自分の時間を営業や開発など別の業務に使えるので、事業を拡大できます。
せっかく、特許事務所には弁理士という特許の専門家がいますので、それを活用しない手はありません。多少の出費は投資として支払っても、特許出願の早さや特許登録率の高さという部分で回収できるでしょう。
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特許関係の仕事に従事して10年。5年間は特許事務所で500件以上の出願原稿の作成に従事。その後、自動車関連企業の知財部に転職し、500件以上の発明発掘から権利化に携わってきました。現在は、知財部の管理職として知的財産活用の全社方針策定などを行っています。
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